第140話「ランクアップ!」
ミルヴァはさすがに百戦錬磨のギルドマスターである。
己の必殺剣を破られたショックを完全に
すっかり平静さを取り戻している。
「ディーノ君、
「はい、そうですよね」
「貴方にはズバリ本音を言うわ……今の私は好奇心いっぱい。
「…………」
「だけど……聞かない。ダサいし、
「ありがとうございます」
ディーノが礼を言うと、ミルヴァは達観したように笑った。
「ふふっ、いいえ、こちらこそよ」
「俺……いつかは炎の飛燕を会得したいと思います」
「光栄だわ、いつでも弟子入りOKよ」
「本当ですか?」
「ええ、ディーノ君なら大歓迎! ……さてっと、もっといろいろ話していたいけど。気になる判定結果を先に言うわね」
「お願いします」
「ディーノ君はランクAよ、文句なしのね」
「ありがとうございます、凄く嬉しいです」
「でもまだまだ。道は半ばよ。貴方は既にランクSの扉へ手をかけているから。……気を抜かず頑張ってね」
「はい! 誇らず、偉ぶることなく、そして焦らず……地道に精進します」
「ふふっ、相変わらず奥ゆかしい……ディーノ君らしいわ」
ミルヴァが嬉しそうに笑えば、ここでブランシュも笑顔で追随する。
「私も証人です! 認めます! デイーノ君は、満点のランクA、そしてランクSにも、あと一手というくらいに王手をかけたと思います」
「ありがとうございます!! ミルヴァさん! ブランシュさん! 俺は更に頑張ります!!」
広大な屋内闘技場には……
ディーノが発する感謝の声が大きく響いていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして……
ディーノは文句なしのランクAとなった。
ギルドの登録証も作成し直され、表面に記されたランクAの文字が、
ミスリル製の薄板に大きく踊っていた。
ランクAもB同様に上級ランカーなのだが、これまでとは違う部分がある。
それは『特別な指名依頼』がひんぱんに来る事である。
指名依頼とは文字通り、ディーノを名指しし、依頼を要望する事だ。
中でも特別な指名依頼とは、有力な貴族や富裕を誇る上級商人からが多く、
果ては王家までも……
上級貴族や王家から依頼が来るようになると、
その冒険者は『別格扱い』される事となる。
「私達から依頼を指名するのは勿論だけど……ディーノ君には近いうちに特別な指名依頼があると思うわ」
「え? ランクAになりたての俺に……ですか?」
「うん、私の悪友クリストフ・シャレット伯爵……彼がディーノ君の事をとても気に入っているから」
「成る程……」
クリストフ・シャレット伯爵とは……
ポミエ村から王都へ戻る際、彼の馬車に同乗、話し込み意気投合した。
ステファニーと親し過ぎるという点が気になる。
だが、伯爵自身はとても良い人だと、ディーノは思う。
彼から指名依頼が来て、事情が許せば、ぜひ前向きに考えたいと思う。
ここでふと思い出した。
皮肉にもステファニーの事である。
彼女も冒険者として、ランク認定試験を受けたはずだ。
それもミルヴァに直接相手をして貰って……
「あの、ミルヴァさん、ブランシュさん」
「何?」
「どうしたの?」
「今回俺と一緒に戦ったステファニー様も冒険者認定試験って……受けましたよね?」
ディーノからそう聞かれ、ミルヴァとブランシュは顔を見合わせた。
苦笑している。
「何かあったのだ」と、ディーノにはピンと来た。
「ああ、あの
「ふふ、まさに『荒れ狂う猛獣』のロクサーヌを遥かに超えた超が付く大嵐……ですね、マスター」
「それで……ステファニー様のランクは、結局どうなったのですか?」
「ランクC」
「ですね」
「えええっ? ラ、ランクCって……それって彼女の実力からして、低評価すぎません?」
「あら? 気になる?」
「やっぱり婚約者だからぁ?」
「いえ婚約者ではありません! 違います! 全く違いますから! でも……理由を教えて貰えますか?」
「うん、分かったわ」
「了解」
「…………」
「ステファニーちゃんはね、実技は文句なくランクBだけど、私達への態度がなってないわ」
「そうそう! いくら上級貴族の令嬢とはいえ、言動が……つまり素行がね、不良過ぎるから。ロクサーヌさんも相当に甘やかしていたし……」
「態度がなっていない……素行不良。ロクサーヌも相当に甘やかして……」
そういう事かと、ディーノは納得した。
ステファニーへ、ランクの事を敢えて聞かずに正解だった。
殴られる以上の大惨事が起きていたに違いない。
「でも……俺へこのような良い評価を頂けたという事は、ステファニー様達にも、同じくプラスの評価をして頂けますよね?」
「ふふ、気になる? あの子の事?」
「好きだから?」
「いやいや、違いますって」
「ふ~ん」
「違うの?」
「もう! ミルヴァさん達まで、面白がって……彼女に対して、恋愛感情は皆無です! ただ、今回の功績で彼女達へ正当な評価をして頂ければありがたいです。ご配慮、宜しくお願い致します」
いろいろな事情はあるにせよ……
ステファニー達は生死を共にした、大切な仲間だ。
あれはあれ、これはこれ。
そう思ったディーノはミルヴァとブランシュへ懇願し、
深々と頭を下げていたのである。
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