第139話「二度目の認定試験②」
「ふっ」
今度は不敵に笑ったミルヴァが剣を頭上にかざすと、
剣の刀身からは、凄まじい炎が5mもの高さに吹き上がった。
「ディーノ君、私が何故、炎の飛燕と呼ばれているか、教えてあげる」
「…………」
「最初は、ほんの小手調べよ!」
ミルヴァはディーノを軽く睨むと、裂ぱくの気合を発する。
「とあっ!」
すると1体、続いて2体と、分離した、
鳥の形状をした直径1mほどの灼熱の炎が、鋭くディーノへ向かったと思うと……
剣を構えた彼のすぐ傍らを飛び抜けた。
炎は、ディーノの背後にある闘技場の壁に当たって四散する。
……ブランシュの制止する声が少しだけ届いていたのか、
さすがにミルヴァは手加減をしたのだ。
『炎の飛燕』の威力を若干弱め、わざと外したのである。
「ディーノ君、どう? 私の技は? 貴方の動体視力で見切れたかしら?」
「…………」
先ほどからディーノは動かずに無言、答えなかった。
しかし肯定の
ディーノから「OKの意思」を受け取り、満足げにミルヴァも頷く。
「へぇ! じゃあ、少しだけ威力をアップするわ、そして……今度は、必ず当てる」
「…………」
「言っとくけど……避けても逃げても無駄よ……飛燕は貴方の後を追いかけ、そして確実に追い詰める」
「マスター!!」
ブランシュが再度、制止するが……
「ノープロブレム、大丈夫だって! ディーノ君はそう言ってるわ。……多分、魔法剣で対抗して来る」
ミルヴァの言葉を聞いて、
ディーノも「承知!」とばかりに「ふっ」と笑ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ディーノとミルヴァ、ふたりは改めて対峙する。
ミルヴァの『手』は決まっている。
彼女の性格上、またはこの状況下で裏をかき、別の手を使って来ると、
ディーノには思えない。
予想通り……
再びミルヴァは剣を頭上にかざすと、
剣の刀身からは、凄まじい炎が今度は先ほどの倍、10mもの高さに吹き上がった。
「ふふっ、大けがはするかもしれないけど……まあ、命までは取らないわ」
再び不敵に笑ったミルヴァはディーノを軽く睨むと、再び裂ぱくの気合を発する。
「とあっ!」
すると1体、2体、続いて3体と、先ほどより3倍近く大きい、
鳥の形状をした猛炎が、ディーノへ向かって、一直線に突き進んだ。
ミルヴァの剣技『炎の飛燕』は攻撃対象を追尾する、特殊な仕様を持つ炎の魔法剣。
炎は打ち砕けない。
避けても、どこまでも追って来る。
終いには確実に攻撃対象を仕留める。
それが必殺の魔法剣と言われる由縁である。
しかし!
ディーノは『飛燕』を避けない。
剣を構えたまま、微動だにしないのだ。
何ら、対応もせず!
「ええっ!? 動かないって!? ど、どうしてっ! ディーノ君!!」
ブランシュがもどかしそうに、ディーノの名を呼んだ。
でも、相変わらずディーノは動かない。
だが、想定外の現象が起きた!
何と!
ディーノの構えた剣に、飛来して来た猛炎――
彼を焼き尽くそうとした『飛燕の全て』が、音もなく吸い込まれてしまったのだ。
「えええええええっ!? な、な、なに~~っ!」
驚愕して、大きく目を見開き、絶叫するブランシュ……
今、目の前で一体何が起きたのか?
分からない!
わけが分からない!
ただひとつはっきりしているのは、無敵を誇るギルドマスターの魔法剣
『炎の飛燕』が敗れ去ったという厳然たる事実である。
一方、見事に剣技を破られ……
百戦錬磨で猛者のミルヴァも、驚きを隠せない。
「……さ、さすがね」
とディーノを称え、仕方ないとばかりに苦笑する。
「というか……呆れたわ、ディーノ君」
ミルヴァは、ディーノの使った『技』をすぐに見抜いたようである。
深く深呼吸すると、達観したように明るく笑った。
そんなミンミの態度を見て、ブランシュの驚きは、即座に好奇心へと変わって行く。
「マスター! いいい、一体!! な、何が起こったのですかぁ!?」
ブランシュの問いに対し、ミルヴァは答えずに、納剣した。
表情は笑顔のまま……
「勝負はついた」という意思表示であろう。
ミルヴァの納剣を見たディーノも同じく納剣。
これで、ランクAの認定試験は終了したという意味になる。
「うふふ、この私をどこまで驚かせるの? まさか魔法剣の究極奥義、
「ま、ま、魔法剣の究極奥義!?
「うん、ブランシュ。この技は私でさえ会得出来ない秘奥義よ、名だけしか知らない……何故ならば、使う者が絶えてしまい、伝承されていない魔法剣なの」
「ひ、秘奥義? 伝承されていない魔法剣……」
「ええ、残念ながら私の飛燕は……魔力ごと見事に吸収されちゃった。つまり無効化ね」
「ま、ま、ま、魔力ごと、み、み、み、見事に吸収!!?? むむ、無効化~~っ!!??」
「うふふ、本当はクリストフ・シャレット伯爵が言っていた、ディーノ君が使う、凄まじい風の魔法剣とやらも見たかった。でもね、さすがにお腹い~っぱいになっちゃったわ」
「お、お腹いっぱいって!? マスタ~~っ!!」
この試合で、何度絶叫した事だろうか……
しかしディーノの使った魔法剣の技が、『究極の秘奥義』と聞き、
ブランシュはまたも絶叫せざるを得なかったのである。
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