第138話「二度目の認定試験①」
ここは……
冒険者ギルド内にある広大な屋内闘技場……
今……
ひとりの超一流の魔法剣士と……
数々の戦いを経験し、一人前の冒険者になりつつある少年が対峙していた。
魔法剣士は冒険者ランクSの超上級ランカー、冒険者の間には鳴り響いたギルドマスター、炎の飛燕ミルヴァ・ラハティ。
成長した少年は、ランクAに王手をかけたディーノ・ジェラルディである。
前回同様、これから冒険者ランク判定の『実技試験』という名の激戦が、
幕を切って落とされようとしていた。
今回も基本ル―ルは全く同じだ。
行動不能か、降参までは戦いが終了しない。
攻撃魔法の一切を使用不可とする
当然ミルヴァの必殺技、ふたつ名の由来となった魔法剣『炎の飛燕』
ディーノが
火と風の魔法剣も使用は不可、
つまり『封印』という事となる。
戦いの最中、形勢不利と見たら、怪我を避ける為、
降参する事も許可されている。
使用する武器も前回と同じ。
条件を平等にする為、ギルドから貸与される同タイプの練習用を使う。
今回もふたりが使うのは、軽度の雷撃を
相手を殺傷出来ないよう、刃を潰した模擬魔法剣なのである。
ディーノは既に『ヒットアンドアウェイ作戦』で行くと決めていた。
クロヴィスから伝授された卓越した剣技があるとはいえ……
百戦錬磨なミルヴァの経験から来る熟練度の差はいかんともしがたい。
まともに打ち合っては、やはり不利だと判断。
魔法指輪の加護により、
より俊敏になった
ディーノは深呼吸すると、ロランの形見であるペンタグラムを触り、
次いでルイ・サレオンの魔法指輪をした右拳を固く握りしめた。
体内で魔力が高まって来るのが、はっきりと分かる。
おもむろに雷撃剣を抜き放ち、中段に構える。
一方、ミルヴァも雷撃剣を抜き放ち、こちらは上段に構えた。
いよいよ戦い……
否、ディーノのランクA昇格の可否を問う認定試験が始まる。
出だしは前回と全く一緒。
まるで
審判役のサブマスター、ブランシュは感じた。
「はじめっ!」
双方が構えてから間を置かずに、ブランシュから放たれた試合開始の号令。
フライングに近いタイミングでディーノが駆けた。
人間離れした素晴らしい速度で、一気に距離を詰める。
対して、ミルヴァは狙いすましたように剣を突き出した。
しかし!
ディーノは、かわしざまに、剣を鋭く突き出した。
いわゆるカウンターである。
シュッ!
何かがすれたような乾いた音がした。
ディーノの剣先が、ミルヴァの革鎧をかすったのである。
同じかわすにも、いつものように余裕をもった動作ではない。
何とかとか、ギリギリという、ミルヴァのかわし方である。
ディーノは一撃を放ったと同時に、飛び退っていた。
まさに、ヒットアンドアウェイ作戦である。
攻撃を当てられたミルヴァの表情が険しくなった。
自分の一撃が楽にかわされ、かすったとはいえ、
ディーノの剣を身体に受ければ、当然の事である。
「ちっ!」
聞こえるくらい大きく舌打ちをしたミルヴァに、ブランシュが反応する。
「マスターっ! 絶対に、本気出しちゃダメですよぉっ!」
「……冗談じゃないわ、ほとんど本気だもの」
ブランシュから厳重に、止められたミルヴァであったが……
意外にも悔しそうに歯がみする。
彼女は『既に手加減出来ないレベル』だと、
ディーノの強さを思い知っていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約10分が経過した……
「たあおっ」
「ぬわ!」
「やあっ!」
「ふん!」
ディーノとミルヴァの攻防は一進一退である。
否!
徐々にディーノが押して来ていた。
戦いの様子を見て、満足そうに頷いているのは、ブランシュである。
傍から見れば、ランクSのミンミが遥かに格上である。
ブランシュは先ほどの念押し通り、
ミルヴァが「手加減している」ものと信じ込んでいたのだ。
しかし真実は違っていた。
こ、この子っ!
な、何っ!?
この前引き分けた時より、とんでもなく腕を上げてるっ!
この強さは、もはや『剣聖』レベル!?
ランクAどころか!
私と同じSでも文句なしだ!
ミルヴァは自他ともに認めるくらい、凄まじく負けず嫌いである。
一方的に押されたまま、認定試験を終え、
素直にディーノをランクAに認定する気にはなれなかった。
そう、アールヴ特有のプライドが許さなかったのだ。
もう!
子供相手なのに……
大人げないわね、私は……
「ふっ」
苦笑したミルヴァは、ここでいきなり宣言する。
敢えて、ブランシュの名を呼ばない。
「おい! 審判っ!! たった今からルール変更っ!」
「え? 今から? ルール変更?」
驚くブランシュに対し、
「魔法剣解禁!」
「はあああっ!? 解禁って!? な、何ですかっ、それ!? ダ、ダメですよぉ~~っ!!!」
「シャラップ! ギルドでは私がルールブック!」
「ストップゥ!! マスタ~~~っ!!!」
しかしブランシュが絶叫した制止の指示も、ミルヴァは華麗にスルー。
「ふっ」
今度は不敵に笑ったミルヴァが剣を頭上に振りかざすと、
剣の刀身からは、凄まじい炎が5mもの高さに吹き上がったのである。
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