第137話「今度こそ決着を!?」

元気に返事を戻したディーノは、足取りも軽く、

ブランシュと共に、魔導昇降機へ乗り込んだ。


魔導昇降機の扉が閉まると同時に、「待ってました」といわんばかりに、

ブランシュが話しかけて来た。


「ディーノ君っ!」


「はい」


「今回は、本当に良く頑張ったわねっ! お姉さん感動しちゃった!」


お姉さん?


……やっぱりそうかと、ディーノは思う。


まだディーノは15歳……

年上の女子達から見れば、まだまだ子供なのだ。


奴隷のように扱うステファニーは論外!!


……5歳以上離れたジョルジエットは勿論なのだが、あまり年齢が変わらない、

クランでは最年少のタバサでさえ、ディーノに対しては弟のように接して来る。


「あ~あ」とがっかりする。

早く大人の男へ。

頼られる対象になりたいと切に願う。


「つらつら」考えるディーノへ、ブランシュは話を続ける。


「よっく生きて帰ったわ! 超が付く大手柄よ!! 貴方を入れてたった6人で、1万体のゴブリンに勝つなんて!」


「いやあ……たまたま運が良かったんです」


「運? 何言ってるの! 伯爵から聞いたわよ」


「え? 伯爵」


「そうよ、クリストフ・シャレット伯爵! 今回のポミエ村の案件において、ディーノ君が凄い魔法剣を使ったって報告を、マスターと一緒に聞いたのよ」


うわ……

あれだけ、口止めしたんだけど……


とディーノは困惑した表情を浮かべる。


「あの、……それ、あまり大っぴらには……」


言いかけるディーノの背を「ぽん!」とブランシュが叩く。


「大丈夫! 伯爵からは重々念を押されたから。このギルドではマスターと私しか知らないわ」


「助かります」


「マスターも私同様に、大喜び! いつものクールビューティさはどこへやらって感じよ」


ミルヴァさんが……大喜び?

どんな感じなんだろう?


そうこうしているうちに、魔導昇降機は最上階5階へ到着。


ふたりは歩いて、マスター室の前に立った。


ブランシュが軽くノックをして、呼びかける。


「マスター、ディーノ君を連れて来ました」


「はい! 待ってたわ! 入って頂戴ちょうだい!」


「ほらねっ」と同意を求めるように悪戯っぽく笑うブランシュは、

上司のミルヴァを焦らすかの如く、敢えてゆっくりと扉を開けたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……クリストフ・シャレット伯爵から、報告はあった。


しかしミルヴァもブランシュも、ディーノの口から直接、

今回の事件発生、経過、そして顛末てんまつを聞きたがった。


当然、ディーノは話を『極力抑え気味』に話して行く。


魔法剣の表現は控えめにしたのは勿論、

地の魔法を使ってクロヴィス・アシャールの石像を動かした事、

悪魔メフィストフェレス出現などの超が付く『マル秘事項』は伏せている。


だが……

生と死の狭間を行き来したともいえる、リアルな戦いの様子を、

ミルヴァもブランシュも身を乗り出して聞いていた。


特にゴブリンシャーマンの魔法障壁を打ち破り、倒した話には、

大興奮したようである。


やがて……

ディーノからの報告は終わった……


ミルヴァもブランシュも感嘆して、「ほう」と大きく息を吐いた。


まず口を開いたのはミンミである。


「ディーノ君、凄いわ。伯爵も言っていたけれど、貴方はランクBに留まる器じゃない」


当然、ブランシュも追随する。


「そうよ、マスターの仰る通りだわ。まずは私と同じランクAを、そして、マスターを目指し、ランクSへ到達して欲しい」


ギルドのエース級ふたりからこう言われては、悪い気はしない。

だけどディーノはあくまでも慎重である。


「たまたまだ」と己を戒める。


『導き継ぐ者』により能力を授けられた事に加え、

ケルベロス達良き戦友に恵まれたのに過ぎない。

 

自分は真っ当に修業をしていない。

だから、偉そうに振る舞う気は全くなかった。


しかし……

志半ばで果てた、いろいろな人々のこころざしと思いを託され、

難儀する人々を助けながら生きて行くのが自分の役目であり、

人生なのだと改めて実感していた。


自問自答していると……

心の中へ謎めいた内なる声がささやいてくる……


お前はまだまだ道半ば……

もっと上を目指せ!

志と思いを託したい『待つ者』は、まだまだ数多あまた居る……と。


そんなディーノの思いは……

ミルヴァが呼びかける声で破られた。


「ディーノ君」


「は、はい」


「というわけで、私と戦って貰うわ」


「は?」


「この前の認定試験は引き分け……だから今回は決着をつけましょう」


「こ、今回は? け、決着!?」


驚くディーノ。

ミルヴァは……と改めて見やれば、目がマジだ。


と、ここで慌ててフォローしたのがブランシュである。


「ジャストモーメント! マスター! あくまでディーノ君のランクA認定の為の参考試合、エキシビションマッチですからね」


「分かってるって!」


「あまりマジにならないでくださいよ! いざとなれば、私が止めます! 絶対に!」


口調からして、ブランシュも……マジである。


一体、どうなるのか……

ランクアップへの期待と、ミルヴァが本気を出せば、

一方的にやられるのではという不安が交錯する。


複雑な気分のディーノは、少しでも緊張を和らげようと、

大きく息を吐いたのである。

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