第126話「秘奥義! ゼロ迫撃!!!②」

『俺には確信出来る! ゼロ迫撃を極めれば、不死といわれる悪魔さえ、肉体は勿論、魂をも粉砕し、消滅させる事が出来た! あいつに通じないわけがない!』


きっぱりと言い切るディーノは、唯一生き残ったゴブリンシャーマンを

鋭い視線で見据えている。


対して……

相変わらずゴブリンシャーマンは、呪詛じゅそと殺意の言葉を吐き散らしていた。

ディーノは不敵に笑うと、息を整え、気合を入れ直す。


ぶっつけ本番。

初めて使う秘奥義が練習なしのいきなり本番。

 

秘奥義が成功するかどうかは、まさに『賭け』である。

だが臆し、迷っている暇などない。

奴を倒さねば、全ては終わらない。


頃合いと見たのか、ディーノは再び軽く息を吐いた。

覚悟を……決めた!


念話できっぱりと言い放つ。

ゴブリンシャーマンへ決戦を申し込む。


『行くぞ、ゴブリンシャーマン! 俺と一対一、タイマンで勝負だっ!』 


『ハハハハハ! イッタイイチカ! ノゾムトコロダ! クルナラキテミロォ、コゾウメェ! ワガケッカイヲ、ヤブルナド、フカノウ!! ムリムリダ~~!!!』


高笑いし、速射砲のように言葉をまき散らすゴブリンシャーマン。

ここまで勝ち誇るのは、自分の魔法障壁に絶対の自信があるらしい。


しかし……ディーノの心に、『絶望』という文字はない!

諦めたら、そこで完全に終わり、ジ・エンドである。


今、背負っているのは自分だけの命ではないからだ。


『はは、無理かどうか、今、試してやるさ』


『ナンデモ、スキナヨウニ、ヤッテミヨ! チカヅイタラ、ワガマホウデ、ソク、ジゴクユキダア!』


『…………』


ディーノはもう言葉を戻さなかった。


ケルベロスが見守る中……

ただ静かに呼吸法で、仕掛けるタイミングをはかっていた。


間を置かず、呼吸と魔力のタイミングが一致した。


その瞬間!

ディーノは力強く、大地を蹴っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


駆ける!

ディーノは全力で、全速力で駆けて行く。

 

敵はただひとり!

待ち受けるゴブリンシャーマン!!


ディーノは実感する。

まるで身体に見えない羽が生えたように感じるのだ。


『羽』を少しでも動かすと、ぐんと速度が上がる。

身体の切れも増す。

しかし、まだまだ余力がある。

 

軽い!

身体が軽い!

すっげぇ、軽いぞ~っ!!


ロラン形見のペンタグラムを身につけてから、ルイ・サレオンの指輪を装着してから……ディーノの身体はいちじるしく変貌へんぼうした。

 

少し力をこめれば、身体の切れが増す。

全身に力がみなぎり、肉体が鋼の如く強固にもなる。

剣聖ミルヴァ・ラハティの剣を容易く避け、ステファニーからは思い切り殴られてもあまり痛くはない。


しかし!

そのような感覚も、今、足を踏み入れた境地に比べれば、

『子供のお遊び』に感じる。


……分かる。

ディーノには分かるのだ。


意思を持つという物言わぬルイ・サレオンの指輪が、

徐々に自分を「認め始めている」という事を……


よっし!

力の全開だっ!!


瞬間!


速度が突如上がった!!

最大能力のギアが入った!!


周囲の景色があっという間に、後方へ飛び退って行く。


先ほど、ケルベロスの背で見た同じ景色だが、全然体感速度が違う。

何もかもが、スローモーションと化している。


五感も異様に鋭くなっていた。


ゴブリンシャーマンが、何かわめいているのが聞こえる。


聞くに堪えない下劣な言葉だ。

更に先ほど同様、火球を呼び出し、何発も何発も放って来る。


おお!


思わずディーノは目をみはった。


ゴブリンシャーマンの呼び出した火球がほぼ停まって見える。

高速で飛行するはずの火球が、動いているように見えない。


ふっ!

とろいぜぇっ!


心臓から、全身に魔力もみなぎって来る。


しかしディーノは平時と同じく冷静だった。


使う魔法剣……

ここでは火よりも風を選ぶ。

 

山火事は避けたい。

落ち着いて判断出来る余裕があった。


大幅に上昇した視力で、ゴブリンシャーマンの風体がはっきりと見て取れる。

 

奇妙なデザインの法衣ローブ

手にはどくろの付いた不気味な杖。

痩せこけ幽鬼のような肢体と顔立ちも。


もう!

肉薄する!!!


ディーノの顔とゴブリンシャーマンの顔はほんの数センチも離れてはいない。


『ヒッ!?』


ゴブリンシャーマンが現世から旅立つ『最後の言葉』は短い悲鳴だけだった。


どおおおおおおしゅうっっっ!!!

 

悲鳴と同時に起こる、とてつもない轟音ごうおん!!!


これぞ、秘奥義ゼロ迫ぃぃ!!!


見事!


ゴブリンシャーマンの脳天は、超至近距離で放たれた高魔力の風砕弾により、

ど真ん中を撃ち抜かれている。


瞬間!!

 

ぼっしゅううううううううううっ!!


凄まじい異音と共に、ゴブリンシャーマンの身体は塵も残さず消失していた。


ディーノの思惑通り、超が付く至近距離の攻撃は見事に成功した。


破壊力抜群な必殺の一撃が、無敵と思われた魔法障壁を打ち破ったのだ。


悪魔をも倒す秘奥義が、ゴブリンシャーマンの魔法障壁を楽々と貫通し、

肉体はおろか、魂も消滅させていたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る