第124話「ディーノの秘策」

ディーノ達がゴブリンシャーマンの所在を認識しているように、

相手もこちらの存在と位置を、魔力感知か何かで捕捉しているようである。


やがて強力な魔力に囲まれたゴブリンの一団数百が見えた。

中心に座するひと際大きな個体……

 

先端にどくろの付いた節だらけの魔法杖をかかえ、

おどろおどろしく奇妙なデザインの法衣ローブをまとった者が、

敵の首魁しゅかいゴブリンシャーマンらしかった。


ゴブリンシャーマンは、ディーノに向かって高らかに笑う。


『ハハハハハハハハ、キタカッ! オロカナコゾウト、ニンゲンニ、オヲフル、カイイヌメガ!」


『…………』

『…………』


しかし、ディーノとケルベロスは返事を戻さない。

無言であった。


『ククククク。ドウシタ? オモイキリ、カゼノマホウヲ、ウッテミセロ。ドウセ、マリョクノ、ムダヅカイニナルガナ!』


『…………』

『…………』


『カゼデモ、ヒデモ、ナンデモイイカラツカッテミロ。イヌニカミツカセテモ、タイアタリサセテモ、カマワナイゾ。ク~ククククッ』


『…………』

『…………』


『ドウシタ? タタカウマエカラ、オビエタカ?』


こんな相手と、無駄な会話をする必要もない。

挑発に応じる必要も全くない。


かと言って、時は金なりともいう。


時間は大切且つ重要だ。

戦闘時なら尚更である。


ディーノは、伝わって来る波動から……

じっくりとゴブリンシャーマンの位置と陣形を確認していた。


……多分、ゴブリンシャーマンは、

ディーノ達の精神的な動揺を狙っているのだろう。

「魔法も物理攻撃も一切通じない!?」という絶望感と無力さを味あわせて。


と、その時。

ディーノの推測を裏付ける事象が起こった。


何と!


ディーノの頭上に、いきなり巨大な火球が出現、

まるで狙うように、すかさず降下して来たのである。


ゴブリンシャーマンの攻撃魔法に違いなかった。


しかし百戦錬磨のケルベロスは即座に反応。


ディーノを背に乗せたまま、跳躍し、軽々と火球をかわした。


『ホウ、カワシタカ。 ダガコチラハ、ケッカイノナカカラ、オモウゾンブン、オマエタチヲコウゲキデキル! イッポウテキニナ!』


ゴブリンシャーマンの言葉に偽りはなかった。


続々と頭上に火球が出現し、ディーノ達へ対し、容赦なく降り注いだ。


しかし!

ケルベロスは再びかわし続けた。


ゴブリンシャーマンは、

ディーノ達が火球を避ける様子を把握しているのか、勝ち誇って笑う。


『ハハハハハッ! イツマデ、サケキレルカナ? コチラハマリョクガタップリアル! オマエタチハ、テモアシモダセナイ、ナブリコロシ、ソノアト、ムラノニンゲンドモヲ、クイツクスッ!!』


しかしケルベロスの背で火球を避けるディーノの口元には、

不敵な笑みが浮かんでいた。

 

すかさずディーノから膨大な魔力が放たれる。


瞬間!


ごおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!


ゴブリンシャーマンどもがこもる魔法障壁の下……

地下深くから凄まじい音が聞こえた。


同時に!

大地が「ぐらぐら」と激しく震動したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


突然の異変!?


『ナ、ナ!? ナニガッ!? ナニガオコッタァァァ~~ッ!!!』


 ゴブリンシャーマンが発する『驚愕』という感情の波動が伝わって来る。


 そして、突如!


 ヌボッツ!!


 ゴブリンシャーマンが立つ地面から、泥まみれの巨大な手が現れ、

 「わしっ」と足首を掴もうとする。


『ナナナナッ!? ヌウワアアアッツ!!』


不意打ちに驚いたゴブリンシャーマンであったが、

慌てて跳び退すさり、伸びて来た手を避け、事なきを得た。


『ナンダァア~ッ!? コイツハアッ!?』


鋭い視線を投げかけ……

問い質すようなゴブリンシャーマンの声に対し、

まるで応えるように大声が土中から響く。


「まっ!!!!」


おお!!


この声は……

先ほど村内で響いたのと、全く『同じ声』であった。

 

ポミエ村でいきなり動き出したブレーズの石像が発した声と全く同じなのだ。

人間ではない、力強く短い叫び声が、いきなり土中からとどろいたのである。


『ナ、ナンダァッ~~ッ!!!』


ゴブリンシャーマンが驚愕する叫び声が、

ディーノとケルベロスの心に響く。


やがて……

泥だらけの手は地をかき分け、人型の頭を出した。


更に「ずぼっ!」と大きな音を立て、手が出た。

上半身が見え、……そして全身が現れる。

 

現れた『泥まみれ』の身長は、人間などを遥かに超えたおおきさであり、

10mはゆうにある。


ただでさえ小柄なゴブリンどもからすると、見上げるような、

とんでもない『巨人』であった。

 

『ヌウウウウッ! コ、コレハッ! ゴーレムカアアッ!』


改めて『巨人』をにらみ、唸ったゴブリンシャーマンは、

ようやく事態が呑み込めたようである。


『ヌウウウ!! キサマゴトキ、コゾウガァ! ムカツクゾォッ! コウキナルチカイオウ、アマイモンノカゴヲウケシモノナノカアッ!!!』


さすがは、いくつもの魔法を使いこなすゴブリンシャーマン。


ディーノが呼び出した、ゴーレムの力の根幹――

上級精霊、高貴なる地界王アマイモンの加護を即座に見抜いた。


そう……

ディーノは土中にあった巨石を、地の魔法でゴーレムへ、瞬時に生成したのだ。


……現場に到着し、ディーノはすぐに確認した。

想定していた通り、ゴブリンシャーマンが豪語する魔法障壁は土中にまで及んではいないと。


そこで、作戦発動!

地下深く埋まっていた岩石を生成したゴーレムを使い、

ゴブリンシャーマンの足元から攻撃させたのである。


しかし、そのような事象たねあかしをわざわざ相手へ説明する必要は、

ディーノには全くない。


『ノーコメントだな。……それより行くぞっ! くそなてめえらを! 一片の塵も残さず、大掃除してやるぜ!』


『ナ、ナニィ!? オ、オオソウジダトォ?』


ぶおん!


やはり、先ほど動き出したブレーズの石像と同じである。


ディーノから指示を受けた『巨石ゴーレム』は、素振りをするかの如く、

右腕を振り回した。


そして!

呆然としていたゴブリンどもへ容赦なく拳をふるい始めた。 


ぶっちゃ!

ぐっちゃ!


ばっちゃ!

ぐわちゃっ!


またも!

一方的な、殺戮さつりくが始まった。


ゴブリンどもも反撃するが、彼等の持つ柔な得物では肉体では、

当然かすり傷さえつける事が出来ない。


形勢逆転!

大掃除がさく裂!

 

『ふっ、ゴブリンシャーマンよ、どうした? お前は俺達をなぶり殺しにするんじゃなかったのか?』


『クッソォォォォォ~~ッ!!! コゾォォ~~~ッ!!! ゼッタイニッ! ゼッタイニ~ッ!! ユルサァ~~ンンンッ!!!!!』


思い切り「ざまぁ!」された口惜しさと無念の思いから、

ゴブリンシャーマンが絶叫した。


自分が味あわせてやろうと思った、全く同じ悔恨の念を、

逆にディーノ達から「ざまあ!」され、屈辱が3倍増する。


ゴブリンシャーマンは全滅を回避し、同胞を逃す為、

仕方なく周囲の障壁を解除した。


と、そこへ!


ごうおおおおおおおおおおっ!!!!


待ってました!


とばかりに、凄まじい風の音が起こった。


そう!

ディーノが行使した風の魔法剣である。


大掃除完了!

残りは『大型ごみ』のゴブリンシャーマンだけだあ!!

 

振りかざしたディーノの剣先から放たれた豪風は、

抵抗する護衛役のゴブリンどもを、残らずなぎ倒したのである。

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