第123話「背中を任せる親友」
『ふっ、大丈夫さ、俺の切り札はまだまだある。さあ行こう、ケルベロス! 奴の
ディーノはそう言うと、またも不敵に笑った
釣られてケルベロスも笑う。
『ははははは、言うじゃないか、ディーノ。頼もしい事だ』
まるで相当先まで読みきるチェスプレイヤーのように、
ディーノは様々なケースを想定し、対応して来る。
人間にしては底が知れない、
ケルベロスは、ディーノを見て、そう思う。
敵に回したらとんでもなく脅威だ。
戦ったら……勝てたとしても、相当なダメージを喰らうかもしれない。
でも味方にしたら……これほど頼もしい存在はない。
予感がする。
ディーノの行く手行く手には、このような事件が、
今後も頻繁に巻き起こるだろう。
しかしケルベロスはワクワクする。
共に冒険すると思うと心が躍って来る。
『よし! ディーノ、
ケルベロスはそう言うと、先ほどと同じく自然に背を差し出した。
「ディーノの『馬』になるぞ!」というアピールだ。
不思議だった。
ケルベロスは誇り高い魔獣なのに、その行為が全く嫌ではない。
むしろディーノに尽くしたいと思うのだ。
かつて旧グラシアス・ブルダリアス侯爵邸において、
『ありがとう!』
ディーノは簡潔に、だがはっきりと礼を言い、
素早くケルベロスに
ケルベロスは、今のディーノの心情を察している。
『ディーノ! 相手は強敵だが、俺達はぐずぐず出来んのだろう?』
『おう! ポミエ村が……ステファニー様達が心配だ!』
『なら、全速で行くぜっ! しっかり
『おうっ!』
応えるディーノの声が発せられたと同時に、ケルベロスが走り出した。
たくましい足が大地を蹴る。
しなやかな四肢が原野に躍動する。
ケルベロスは瞬時に!
馬の駆ける何倍もの速度に達している。
周囲の景色があっという間に後方へ飛び去って行く。
まさに飛ぶように走っていた。
この分なら、すぐにゴブリンシャーマンと相まみえる事となるだろう。
ディーノは感じる。
遂にこの戦いが「決着する」と。
それはケルベロスも全く同じ。
当然、ディーノの劇的な勝利を信じている。
少し前までは、ディーノとは何の縁もゆかりもなかった人外の魔獣は……
今や心をひとつにし、戦友、否!
文字通り『背中を任せる親友』として新たな戦場へと駆けていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先ほどゴブリンシャーマンの波動はキャッチした。
先ほど豪語したように、
「ディーノ達など敵ではない」と、
ゴブリンシャーマンは、舐め切っているに違いない。
そのゴブリンシャーマンが潜む森への途中にも、ゴブリンが数多点在している。
ケルベロスは速度を緩め、ディーノは風の魔法剣で掃討しながら進んで行く。
当然、
ゴブリン達が倒されるごとに……
首魁ゴブリンシャーマンが放ってくる憎悪の波動が強くなる。
否!
既に……
憎悪を遥かに超えた凄まじき『殺意』である。
ふたりはやがて『目的の森』へ到着した。
ケルベロスは完全に速度を落とし、ディーノを背に乗せたまま、
「忍び足」で接近していた。
前方にゴブリンシャーマンらしき気配は確かにある。
そして護衛らしきゴブリン数百の気配も。
共に結界らしき魔法障壁に守られていた。
『どうする?』
ケルベロスが
『ああ、試してみたい作戦がある。……地の魔法を使う』
亡きグラシアン・ブルダリアス侯爵が長年研究し、遂に見出した地の究極魔法。
地属性の鉱物なら、全てゴーレム化出来る万能な魔法。
その魔法なら……
『うむ、あの爺さんが
『ああ、そうだ』
『しかしゴーレムを起動し、ゴブリンシャーマンを物理的に攻撃しても、奴の結界を破るのは難しいぞ』
ケルベロスは既に告げた。
ディーノが使う風の魔法剣は勿論、物理攻撃でも難儀する、
強固な魔法障壁であると。
しかしディーノに、動揺したり迷ったりする様子はない。
『大丈夫、想定内さ』
きっぱりと言い切ったディーノの心強い言葉を聞き、
ケルベロスの顔が自然と緩む。
『うむ、分かった! お前の作戦、楽しみにしているぞ』
『ああ、楽しみに見ていてくれ』
ディーノはそう言いながら……
魔法発動に向け、ゆっくりと呼吸を整えていたのである。
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