第122話「ゴブリンシャーマン」

「うおん!」


ひと声応えたケルベロスは、凄まじい速度で走り出し、跳躍ちょうやく

5m以上はある、ポミエ村の防護柵を軽々と超えた。


跳躍するケルベロスの背で、ディーノは素早く村外を見やった。


すると!

とんでもない光景が目に飛びこんで来る。


おびただしいゴブリンの大群が、南門の周辺に満ちていたのだ。

少なく見ても、軽く数千体は居る。


な、何だっ!?

これはっ!?


先ほど俺は、クロヴィス様から授かった風の魔法剣を使い、

奴らの数を相当減らしたはずだぞ!

 

それなのにっ!

数が多すぎる!

もしやっ!


ディーノが想定していた『悪い予感』が的中する。


ゴブリンの数を増やしていたのは……

凄まじいとしか言いようがない、ゴブリンシャーマンの死霊術であった。

 

先ほどディーノが風の魔法剣で切り刻み、

倒したものまでが不死者アンデッド――ゴブリンゾンビとなり、

続々と復活していたのだ。


おぞましく、おびただしい数の不死者アンデッドどもが復活。


残党として最後方に居た無傷のゴブリンどもが加わり……

いわば、『生きる者と不死者』の不気味なゴブリンの混成部隊が、

再びポミエ村へ「ひたひた」と迫っているのだ。


地上に降り立ったディーノとケルベロスは、

迫り来るゴブリンどもを睨み付ける。


こいつらを必ず殲滅せんめつする!

二度と不死者にならぬよう粉々にっ!


すっぱり汚物掃除して、まずは村内で戦うロクサーヌ達の負担を減らしてやるっ!


やるべき事は決まっていた。


ディーノは抜剣した。


迫り来るゴブリンゾンビどもへ、剣先を合わせる。


再び!

風の力を帯びた、必殺ともいえる魔法剣の発動である。


ぼおおおおおおおおおおおおっしゅっ!


魔力を帯びた剣先から、重い音を立て、固い空気の塊が勢いよく放出された!

先ほど村内で使ったよりも、遥かに強力な風が撃ち出されたのである。


ぶっしゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!!


ディーノのイメージ通りとなった。


ゴブリン達の柔い身体は呆気なく四散し、粉々の肉片と化した。

こうなればもう『復活』は不可能である。


しかしまだゴブリンの新手あらてが迫って来る!


北門のステファニー達は大丈夫だろうか?


ディーノは迷わず、オルトロスへ念話を送る。


しかし返事はない。


代わりに激しい戦いの波動が伝わって来る。


オルトロスと共に、ゴーレム化した『英雄』も、

そしてステファニーとオレリアが戦う波動もあった。


「ふんっ!」


女子ふたりの無事を確認。


安堵したディーノは、改めて気合を入れ直した。


北門に攻め入り、一旦死体と化したゴブリンも、

再び不死者アンデッドとして、ステファニー達へ襲いかかっているようだ。


ホッとしたのも束の間って事かよ!

俺がゴブリンシャーマンを倒すまで、どうか持ちこたえてくれっ!!!


よっしゃあっ!

続いて風の魔法剣、3連発だあああっ!!!


ぼおおおおおおおおおおおおっしゅっ!

ぼおおおおおおおおおおおおっしゅっ!

ぼおおおおおおおおおおおおっしゅっ!


ぶっしゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!!

ぶっしゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!!

ぶっしゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!!


魔法剣の威力は圧倒的であった。

迫り来るゴブリンどもの大半が再び四散し、粉々となった。


やったあああっ!!!

ディーノが思わず拳を握りしめた、その時!


凄まじい憎悪と殺意の波動がディーノを襲った。

同時に人間の声ではない念話も伝わって来る。


『オ、オ、オノレィッ!! ユ、ユルサンゾォッ! クソナマイキナコゾウメッ! ブチコロシテヤルゥゥゥ!!』


『な!?』


『カナラズ、コロスッ! ワガコタチノカタキハ、ゼッタイニトルゾォッ!!!』 


一旦は驚いたディーノであったが……

すぐに落着き、冷静さが戻って来た。

 

そして確信する。


不敵な笑みを浮かべる。


この独特な波動は……間違いない!


ディーノは見つけた。

今回起こった大過たいかの元凶を見つける事が出来た。


その存在を遂に捕捉したのだ。


すなわち最大の標的『ゴブリンシャーマン』を!


『おいっ! ゴブリンシャーマンよ! その言葉、そっくりお前に返してやるぜ! 死体を操る薄汚い捕食者め!』


しかしゴブリンシャーマンは勝ち誇り、嘲笑する。


『ハハハハハハハハッ!!!!』


『何が可笑おかしい?』


『フン! オロカナコゾウメ! オマエニ、ワタシハコロセヌ!』


『何ぃ!』


『オマエノ、マホウハキカヌゾ!』


『何? 俺の魔法が効かないだと?』


『ワガ、ケッカイハ、ソンナ、ヤワイカゼハ、イッサイウケツケヌワッ!』


『結界だと?』


ディーノのつぶやきを聞き、顔をしかめケルベロスが同意する。


『おいディーノっ! 悔しいが奴の言う通りだ!』


『な? ケルベロス!』


『俺も索敵して奴の波動をキャッチした。この村から約1㎞の位置に居る。森の中に潜んでいやがる』


『ここから1㎞先の森の中か……』


『おう! 自慢する通り、奴は自分の周囲に強力な魔法障壁を張り巡らせている』


『自分の周囲に強力な魔法障壁……』


『ああ、その魔法障壁が、奴の言う結界なんだろう』


『成る程』


『どうする? 相当、難儀しそうだぞ。お前の魔法剣も、物理攻撃さえもはじかれる可能性が大だ』


しかし、ディーノは何故か落胆の色を見せない。


『ふっ、大丈夫さ、俺の切り札はまだまだある。さあ行こう、ケルベロス! 奴のもとへ!』


ディーノはそう言うと、またも不敵に笑ったのである。

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