第121話「さあ! 反撃はこれからだ!②」

ぶっしゃ!!!!

 

撃ち出された『風』は生ける死体と化したゴブリンどもへ見事に命中。

再び動き出した全ての個体を、あっさりと粉々にしていた。


先ほど……

ロクサーヌ達は、凄まじい風の音だけは聞いていた。


ゴブリンを殲滅する為、ディーノが何かしたらしいという事も分かっていた。


しかし初めて……

ディーノが行使する、究極たる風の魔法剣を目の当たりにし、

受けた印象は、驚愕きょうがく以外、何ものでもない。


やはりというか、最初に口を開いたのは、ロクサーヌである。


「お、おい!! ディーノ!! な、な、何だ、あ、あれはっ!?」


「いや、何だ? と言われても、魔法剣さ」


「はあ!? ま、魔法剣!? あ、あのような魔法剣があるかあっ!」


「あるかあっ! と言われてもなあ……実際、俺が使ってる。お前の目の前でさ」


「た、確かにそうだが! むむむ……私は納得がいかないぞ!」


ロクサーヌが納得しないのは理由がある。


これまで彼女が見聞きして来た魔法剣と、ディーノが行使したモノとは、

見た目も威力も、根本的に著しく違うのだ。


『風の魔法剣』とは……付呪魔法エンチャントの一種である。


つまり剣士が、風の魔力を魔法の力で刀身に宿らせ、

剣の切れ味と攻撃力を、若干向上させるくらいのイメージしかない。


ディーノもそれくらいの常識は知っている。


導き継ぐ者として、クロヴィスから授かった究極の魔法剣。


桁違いという言葉が、陳腐に思えるくらい、

凄まじい威力を持つ事も体感していたのだ。


「まあ、細かい事は良いじゃないか。念の為、俺の使う力に関しては以降、一切ノーコメントだ」


「…………」


「お前が敬愛するステファニー様はな、覚醒したのね、のひと言で済ませてくれた。ロクサーヌ、お前もあるじを見習えよ」


ステファニーを引き合いに出されたら、ロクサーヌは引き下がるしかなかった。


主が晴れと言えば、雨が降っていても晴れ。

ロクサーヌは主に対し、そこまで畏敬の念を持っているのだ。


「ステファニー様が!? むうう! わ、分かったあ!」


ロクサーヌが同意して引き下がった。

なので、とりあえずこの場で、

他のクランメンバーも、言う事は何もない。


「よっし、早速、次の作戦だ! 皆、聞いてくれ!」


ディーノから、更なる指示が出る。

全員が気合を入れ直し、身構える。


「クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンは引き続き、南門の防衛にあたってくれ」


「………………」


無言で聞き入るメンバーを前にディーノの指示は続く。


「通常の襲撃と共に不死アンデッド化した奴の攻撃にも充分注意してくれ。ジョルジエットさん、対不死者アンチアンデッド魔法を頼む!」


既に気持ちは通じている。

「打てば響け」とばかりに、ジョルジエットは胸を張る。


「任せてっ!」


「助っ人で、黒豹くろひょうを……戦友のジャンを残して行く。一騎当千だから、頼りになるはずだ」


ディーノはそう言い、精悍せいかんな黒豹に擬態ぎたいしたジャンを見た。


本音はディーノと共に戦いたい。

置いてけぼりは、断固拒否する。

そう言いたいに違いない。


しかし、今は非常時だ。


忠実さに加え、素直さと協調性が求められる。

普段はひと言ありそうなジャンも、文句は一切言って来なかった。


ディーノが発した言葉尻を捉え、マドレーヌが聞いて来る。


「え? じゃあディーノはどうするの?」


「ケルベ……いや、ケルと共に、村外に居る敵のリーダー、ゴブリンシャーマンを倒しに行く」


「そ、そんな!」


マドレーヌが先ほど見た限りでは……

ディーノが帰還した際、相当数を倒したとしても、

ゴブリンの残存は未だ数千は居た。


付き従う狼の如き巨大な犬は、強靭な魔族らしい。


だが、それでも……たったふたりでは多勢に無勢……

彼女の心に不安が黒雲のように湧き上がる。


しかしディーノは先ほどと同じく優しく微笑んだ。


「大丈夫! 俺達は必ず勝つ」


「ディーノ……」


「マドレーヌ」


「はい」


「約束しよう! 俺はお前の下へ、必ず帰って来る!」


「は、はいっ!」


ここで異論を唱える者が居た。

タバサである。


「ちょっと! ディーノ」


「おう、タバサ」


「マドレーヌ姉だけじゃない、私の下へも戻って来るんでしょ?」


「あ、ああ、戻るよ」


「宜しい!」


と、ここで何と!


「ストップ! 私も素敵な恋に参戦!」


と挙手をしたのがジョルジエットである。


驚いたのは、マドレーヌとタバサだ。


「ええっ?」

「ジョルジエット姉までぇ?」


ここで場を締める義務があるのはディーノである。

あまり愚図愚図してはいられない。


「ありがとう、少し気障きざかもしれないけど……お前達の気持ちが俺の戦う力になる。……必ず勝つ!」


「そうよ、ディーノ、絶対に勝利だよっ!」

「死なないで」

「約束だよっ」


3人から改めて励みになる言葉を受け取り、ディーノは気合を入れ直した。


「よっし、ケル、頼む」


以心伝心。

ケル……魔獣ケルベロスは黙って、ディーノへ背を差し出した。

 

ひらりと、子牛のような巨体に跨ったディーノは、


「行くぞ!」


と出撃の合図を送った。


「うおん!」


ひと声応えたケルベロスは、凄まじい速度で走り出し、跳躍。

5m以上はある楓村の防護柵を軽々と超え、

ディーノと共に村外へ消えて行った。

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