第120話「さあ! 反撃はこれからだ!①」
ディーノは南門へ走った。
相変わらず、ゴブリンの攻撃は続いていた。
防護柵を乗り越えた個体がいくつか居る。
だが、ロクサーヌ達の奮戦、ディーノの魔法剣による大多数の殲滅、
そして攻め寄せたゴブリンの主力が北門に回った為、
防御の要である門は破壊されておらず、何とか持ちこたえていた。
そして!
見覚えのある女子の姿が……
ディーノの視野にしっかりと認められた。
「マドレーヌっ!!!」
「え?」
驚くマドレーヌへ、あっという間にディーノは接近し、
優しく微笑んだ。
「けがをしているようだが……良かった、命が無事で。……本当に良く頑張ったな」
「あうううううっ!」
マドレーヌは改めて認識した。
自分の持つ想いはやはり愛なのだと。
ディーノの……
愛する『想い人』の顔を見て、マドレーヌはとても喜び、且つ安堵したから。
マドレーヌは崩れ落ち、膝をついた。
「あうあうあうう……」
そして思わず
強張っていたマドレーヌの身体が、「ぐにゃり」と柔らかくなったていた。
緊張が一気に解けたのだ。
ディーノは彼女が愛おしくなり、抱き締め、背をそっとさすってやる。
先ほどディーノが言った通り……マドレーヌは傷だらけであった。
致命傷こそないが、かすり傷があちこちにある。
……まだ若いながら、百戦錬磨の冒険者クランという評判の、
クラン
そんなクランのやり手なシーフとして、マドレーヌの名は知れていた。
マドレーヌはこれまでに様々な冒険をした。
奥深い迷宮で危険な目にあった事もある。
しかし今回ほど、生と死の
尽きそうになる気力を振り絞り、ここまで何とか戦っていたのだ。
と、そこへロクサーヌ達、他のクランメンバーが駆け寄って来た。
全員、マドレーヌ同様に、傷だらけで、ゴブリンの返り血も浴びていた。
「「「ディーノ!」」
「おう! ロクサーヌ! ジョルジエットさん! タバサも無事か! 良かった!」
微笑んだディーノに対し、最初に口を開いたのはロクサーヌである。
「ディーノ! お前こそ無事で良かった! それより! ステファニー様はご無事かっ!」
「安心しろ、ステファニー様は無事だ! オレリアさんや村民も無事だ! 」
「よしっ!」
ロクサーヌは思わず大声を出した。
主ステファニーの安否が、彼女にとって最も優先するからだ。
ディーノは更に言う。
「それと報告だ、ステファニー様から俺が全権委任されたんだ。今後はロクサーヌ達も俺の指示に従ってくれ」
「全権委任! ん、……分かった」
不承不承という感じでロクサーヌは頷く。
だが想定内という表情ではある。
ディーノの話はまだ続いている。
「ステファニー様は引き続き北門を村民と共に守る。それと、北門を破って押し入ったゴブリンは、ほぼ
加えられた戦況の報告を聞き、さすがにロクサーヌは驚いた。
完全に劣勢だと見ていたのが、一転、ガラリと変わったからだ。
「奴らを!? せ、殲滅って!? ディーノ! お前と! そ、その狼! い、いや巨大な犬か、あとその獣! く、く、
「ああ、俺と戦友の3人、そして英雄の加護で殲滅した」
「は? 英雄の加護!? 何だ、それは!? わ、わけがわからないぞっ!?」
「ロクサーヌ、詳しい話は後だ。それより奴らのリーダーを倒す」
「な!? や、奴らに、リーダーが居るのか?」
ディーノがする話は、ロクサーヌにとって驚きの連続である。
「ああ、ゴブリンシャーマンという奴らのリーダーで魔法使いだ。死霊術を使う」
「えええっ! ゴブリンシャーマン!? 死霊術!?」
「ああ、そいつを倒さないと、この戦いは終わらない、それとジョルジエットさん!」
ロクサーヌとの話を「すぱっ」と切り上げ、
ディーノは、回復役であるジョルジエットへ向き直った。
「え? 何!」
「貴女は元聖女だ。葬送魔法を使えるな?」
「そ、葬送魔法? え、ええ! と、得意よっ!」
補足しよう。
葬送魔法とは、防御魔法の
創世神に仕える司祭や修道士が使う、悪しき敵に効果のある破邪の魔法なのだ。
「では!
「ええ、任せて! それが一番、得意中の得意よ!」
「OK! いつでも使えるようスタンバってくれ! 俺の予測が正しいのなら……」
と、ディーノが言った瞬間!
むくり。
むく、むくり。
マドレーヌ達が
何と何と!
次々と起き上がったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
起き上がった生ける死体――
ゴブリンの不死者は、群れを成し、ゆっくりとした動作で歩き出した。
すなわちゾンビと呼ばれる
「おうっ!」
「きゃ!」
「あわわ!」
「成る程! 私に尋ねたのはこういう事か! ディーノ君、相変わらず
ロクサーヌ、マドレーヌ、そしてタバサは驚いたが……
さすがにジョルジエットは元聖女の冒険者。
葬送魔法、特に
最も得意という事もあり、不敵に笑い、さほど動じなかった。
一方、ディーノは考えた。
まず周囲の不死者を掃討する。
その後、門外へ出て、ゴブリンシャーマンをピンポイントに討伐すると。
瞬時に、大まかだが作戦は立った。
「皆、俺の背後に! 俺の身体を盾にする形でな、急いで!」
先ほどの『全権委任』という言葉が効いたらしい。
ロクサーヌ達は、ディーノの直後についた。
ケルベロスと黒豹に擬態したジャンも続く。
「全員、そのまま。絶対に動くなよ、すぐ済む」
ディーノは抜剣、ゆっくり迫るゴブリンゾンビどもへ、剣先を合わせた。
風の力を帯びた魔法剣の発動である。
ぼっしゅっ!
魔力を帯びた剣先から、重い音を立て、固い空気の塊が勢いよく放出された!
ぶっしゃ!!!!
撃ち出された『風』は生ける死体と化したゴブリンどもへ見事に命中。
再び動き出した全ての個体を、あっさりと粉々にしていたのである。
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