第119話「勝利のキス」

立っていた少年は、ディーノであった。


不敵に笑うディーノは、ステファニーとオレリアの無事を確認し、

剣を持った手を思い切り打ち振った。


ディーノが手を打ち振るのを見て、

ステファニーが走る。

オレリアも走る。


ディーノは納剣し、歓迎するように改めて手を打ち振った。

今度は両手で、左右に思い切り広げて。


ステファニーとオレリアは思い切りジャンプ!

ディーノへ「ひし!」と抱き着いた。


対して、ディーノもふたりを優しく抱き締めた。


「ディーノっ!!」

「ディーノさんっ!!」


「ふたりとも、無事で何よりだ。本当に良く頑張ったな。まだ油断は出来ないが……とりあえず大丈夫だぞ」


ディーノの言葉を聞き、ステファニーは顔を上げ、


「ふん! 何よ! ディーノの癖して偉そうに! ……でも、そっちこそよ! 周りが敵だらけの中、良く戻って来てくれたわっ!」


鼻を鳴らし、毒づいたが……嬉しそうに二ッと笑った。

 

片やオレリアは、生と死の狭間から、絶体絶命のタイミングで救い出され、


「ディーノさあん! ディーノさあんん! あうううううううう~~っ!」


ただただディーノの名を呼び、感極まり号泣してしまった。


その様子を見た、ステファニーは二ッと笑う。

 

「ふふっ、良かったじゃない、両手に花だなんて! あんたの人生で一番ハッピーな瞬間よっ!」


相変わらず毒舌を発揮するステファニーの顔を、

ディーノは見て驚いた。

 

まさに「鬼の目にも涙」

いつもはディーノを睨みつけるきつい表情のステファニーが、

わずかに涙ぐみ、まるで『聖女』のように優しく微笑んでいたのである。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ディーノへの抱擁ほうようを解いた後……

ステファニーはじっくりと考える。


この戦いを収束させる。

当然勝つ!

その為にはどうしたら良いのかと。

しかしすぐに答えは出た。

 

確信する。

 

数多あまたのゴブリンをあっという間にたおした、

ディーノの驚異的な力を目の当たりにして……

 

巻き起こされた猛き豪風の破壊力。

未知の力で動き出した、

名も無き英雄クロヴィス・アシャールの石像の圧倒的な強さ……

そして付き従う『戦友』と呼ばれる魔族らしき3者。


一時は絶望的と思われた、この戦いを収束し、勝利するには、

覚醒したらしいディーノの底知れぬ力に頼るしかない、と。


「ディーノ」


「はい、ステファニー様」


「今回に関しては、あんたを主力として、対ゴブリンの作戦を立てて行くべきね。私達はあんたの指示に従うわ」


「ありがとうございます。助かります」


ディーノは一礼し、


「俺は急ぎ南門へ向かい、ロクサーヌ達と合流します。ステファニー様はセザール村長、オレリアさんと共に、村民達をとりまとめ、北門の防衛にあたってください」


「了解!」


「ステファニー様には、戦友をひとり残して行きます。漆黒の犬の方です。名はオルト、……いや、オルです。それに『クロヴィス様』も敵を排除してくれるはずです」


ディーノがそう言うと、

クロヴィスの石像が再び動き出し、ゆっくりと北門の方へ歩き出した。


風貌が獰猛な狼のような、オルという名の巨大且つ漆黒の犬も、

ステファニーの傍らへ座った。


強力な援軍を得たステファニーは不敵に笑い、


「オレリア!」


「は、はい」


と、ここでオレリアを呼び、目くばせした。


意味ありげなステファニーのアイコンタクトである。


「良い? こいつへのご褒美、お先に行くわよっ!」


「え? ステファニー様? ご、ご褒美? お先にって!?」


しかし!

ステファニーは、オレリアの問いかけを華麗にスルー!


何と!

ステファニーはまたも電光のように動き、

ディーノの頬へ「ぶちゅっ!」とキスをしたのだ。


「わわわっ」


慌てるディーノ。


「あ!?」


驚いたオレリアだが……

すぐに大きく頷くと、ステファニーがキスした反対側、

同じくディーノの頬に気持ちがこもったキスをした。


「ディーノ! 麗しき美女神ふたりのあっついキスを受けたら、もう勝利は確定よ! ロクサーヌ達を頼むわねっ! しっかり守るのよ!」


珍しいステファニーの軽口。

しかし彼女の眼差しは真剣だ。


対して、ディーノも真剣な顔つきで頷いた。


「了解! じゃあ行きます! 後を頼みます!」


「任せといてっ!」

「ディーノさん! 頑張って!」


ふたりの美少女……女神ふたりからのキスをしっかりと受け取り、

ディーノは北門へ向かい、思い切り駆け出したのである。

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