第118話「英雄降臨!!」

オレリアに導かれ、命からがら撤退して来た村民達は、もう逃げ場もなく、

ポミエ村の守護神たるいにしえの英雄、

魔法剣士クロヴィス・アシャールの石像に身を寄せ、ぶるぶると震えていた。


そんな村民達へ、迫り来る数百体のゴブリンが迫った瞬間!

奇跡が起こった!!


クロヴィスの石像が、眩く眩く発光したのだ!


神々しくおごそかな光であった。


清々すがすがしくもあった。


「心が洗われる!」と言ったらピッタリかもしれない。

まるで全知全能の創世神が発する『破邪の光』である。


ぐえええええっ!!!

ぶぎゃああああっ!!!

あぎゃううううんん!!!


ゴブリンは夜行性であり、そもそもまぶしい光に弱い。


村民をとって喰らおうと迫っていた数百は、情けない悲鳴を上げ、後退し、

金縛りにあったように動けなくなる。


「な、な、何があ!!?? い、い、一体何が!!?? 起こったのよおおおお!!!」


ステファニーは絶叫する。

先ほどから大きな声を出し続けて声が枯れそうだ。


真っ白な光で周囲は全く見えない。


しかし間違いなく何かが起こっていた……

何故か、ゴブリンどもは自分達へ襲って来ないのだ。

 

どうやら……

すぐ死ぬ事はなさそうだ。


未だ真っ白な光に包まれながら、ステファニーは安堵し、

大きく息を吐いた。


徐々に気持ちが落ち着いて来る。

冷静さが戻って来る。


油断してはいけない。

ぬか喜びしてもいけない。

このままでは、戦況は好転しないと思う。

「ディーノはまだ来ないのか」と、焦れて来る。


一方、オレリアも安堵していた。


ディーノを信じ、クロヴィス様の石像まで撤退したのは成功だったと。

何とか命を拾う事が出来たのである。


そしてオレリアは『兆し』を感じるのだ。

「このままでは終わらない!」という確信に近い予感なのである。


その予感はすぐに的中した。


「まっ!!!!」


突如、人間ではない、力強く短い叫び声が!

いきなり周囲にとどろいたのだ。


傍らに居たオレリアには、そしてステファニーにもすぐに分かった。

大地を振るわすような雄々しいおたけびは、

物言わぬはずのクロヴィスの石像から発せられたのだと。


みしり!

みしり!

みしりっ!!


間を置かず、何かがきしむ異音がする。

……異音はやはり、クロヴィスの石像から聞こえて来るのだ。


もう間違いない。

それは信じられぬ衝撃の出来事だった。


何と!

クロヴィスの石像が動き出していたのだ。


だが!

ステファニーには「ピン!」と来た。

『ある推測』が導き出される。


先ほどゴブリンを倒した『風』同様、

ディーノが何か、『不可思議な未知の魔法』を使ったのだと。


……ステファニーの推測は当たっていた。

実は、亡きグラシアン・ブルダリアス侯爵がのこした、

至高の『地魔法』をディーノが発動し、クロヴィスの石像が動き出したのである。


ちなみに、ゴブリンを戦闘不能に陥らせた眩しい光だけは、

地の魔法の効果には入っていない。

だから、とても不可思議な事ではあったのだが。


しかし、クロヴィスの子孫であるオレリアには……

遥かいにしえの時代に生き、ポミエ村を救った英雄が、

絶体絶命の危機に陥った子孫達の為に、「満を持して降臨した」としか思えなかった。


発光がようやくおさまり、周囲が徐々に見えて来た。


相変わらず眩く輝く石像は「のっしのっし」と歩き出している。

しっかりと大地に足を踏みしめながら。


ゴブリンの攻勢に怯えていた村民達は……

呆然として、動き出した『英雄』を見守っていた。


そのゴブリどもは、先ほどクロヴィスの石像が発した『破邪の光』が原因なのか、

腰が抜けたように動けなかった。


ぶおん!


『英雄』は素振りをするかの如く、右腕を振り回した。

そして!

「逃がさぬ!」とでもいうかのように、突如信じられない速度で走り出した。


どん!

どん!

どん!

どおん!


石像が走ると、大地が揺れ、弾んだ。

 

『英雄』はあっという間に、怯えたゴブリンどもへ肉薄した。


発光したごつい拳が、逃げようともがくゴブリンどもへ容赦なくふるわれる。


ぶちゃ!


ぎいえええっ!!


ぐちゃ!


ぐわああ!!


ばちゃ!


がはっ!!


ぐわちゃっ!


ぎゃう!!


一方的な、殺戮さつりくが始まった。

石像がゴブリンを打ち砕く音と、同じく断末魔の悲鳴が交錯する。


何とか動けるゴブリンが数体反撃するが、

彼等の持つ柔な得物では、『英雄』にかすり傷さえつける事が出来ない。


「クロヴィス様ああああっ!! 頑張れえええええ~~っ!」


ここでオレリアがあらん限り絶叫する。


奮闘する『英雄』へ「少しでも力をあげたい!」という一念だった。


しかしこれが絶望に陥っていた村民達へ、再び活力を与える声となった。


「クロヴィス様あ!!!」

「やっつけてええ!!!」

「ガンガンいけええ!!!」

「ぶちかませえ!!!」

「一気に潰して、やれえ!!!」


天へ還った亡きクロヴィスの言葉通りであった。


追い詰められ、気力を失った村民達は、『英雄』の活躍により、

再び前向きに生きようとする力を取り戻したのだ。


これで形勢が逆転する!


ステファニーは確信し、村長セザールへ向かい、叫ぶ。


「爺さあん!!! 村民達へ戦う準備をさせてぇ!!」


村民と共に英雄へ声援を送っていたセザールであったが、

ステファニーの指示を受け、「反撃のチャンスだ!」と気付いたようだ。


「よ、よおしっ! 皆あ、戦いはまだ終わっとら~ん!! こ、これからだぞおおお!!!」


セザールが叫んだその時。


ごおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!


破られた北門の方角で、

またもあの豪風が吹き荒れた。

そして、後続らしきゴブリンどもの悲鳴も。


ぎゃっぴいいいっ!!!

ぎえあああああっ!!!

ぎゃううううんん!!!


すかさずステファニーが再び叫ぶ。

ついに!

ついに『待ち人』が現れたのだ。


「ディーノおおおおおっ!!!」


ステファニーの叫びに反応。

続いて、オレリアも叫ぶ。


「ディーノさあんんんっ!!!」


ふたりの女子は見た。


累々るいるいとしたゴブリンどもの死骸しがいの向こうに、

ひとりの少年が忽然こつぜんと立っているのを。


子牛ほどもある狼のような犬を二頭、

そして見慣れぬ漆黒の獣を一頭。

逞しき戦友を都合三頭も引き連れて。


少年は、ディーノであった。


不敵に笑うディーノは、ステファニーとオレリアの無事を確認し、

剣を持った手を、思い切り打ち振ったのである。

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