第115話「転移門」

アシャールから伝授された魔法剣の威力は凄まじかった!


ディーノから発せられる心の叫びとともに、構えた剣から放たれた紅蓮の炎が30m近くも伸び……


まるで竜の息ドラゴンブレスの如く、

おびただしいゴブリンどもの死体を、完全に焼き尽くしていた。


予想以上の猛炎にびっくりしたのが、オルトロスとジャンである。


『うっわ、すげ! 俺の火の息ブレス以上だぞ!』


『おいおい! 加減という言葉を知らないのかにゃ?』


ディーノ自身、授かった魔法剣の凄まじい威力に驚いている。


魔法剣から放たれた灼熱の炎により、ゴブリン達は一瞬にして炭化。

塵となってしまったのである。


その上、背後の木々にまで炎が燃え移っていた。


あわや山火事になりそうだったので、

慌てて魔導消火剤を散布し、消したのはご愛敬。


ゴブリンの死体を焼き尽くし、ディーノは再び空を見上げた。

地上の地獄絵など関係なく、爽やかな快晴だった。


アシャールの生きた、遥か旧き時代に……

ディーノは思いを馳せる。


のこしてくれたアシャールの言葉が次々と甦る……

  

……『大破壊』という全世界を襲った未曽有の天変地異の中、

ガルドルド帝国の騎士であり、魔法剣士だったアシャールは、魔物どもに屈し、

敗残兵として、忸怩たる思いで生き延びた。

 

周囲が敵だらけの中、アシャールが生き延びられた理由わけは、

この凄まじい魔法剣を習得していたからだ。

 

結局、アシャールの習得した魔法剣は、

魔物どもに襲われた故国ガルドルドを救う事、

そして、大切な家族の命を助ける望みも叶わなかった……


しかし、アシャールは、世界中を流浪し戦い、

多くの人々を助け、運命の相手、ポミエ村の少女エマと邂逅し、結ばれた。


そして、第二の故郷となったポミエ村を守り切る事が出来たのだ。


アシャールは哀しい運命に流され、あらがう事は出来なかった。


だが、出来うる全力を尽くし、人生を終えた。


それゆえ、悔いはない!

 

その強き想いを今、ディーノははっきりと実感した。


『導き受け継ぐ者』として確かな魂の絆を紡いだのである。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『さあ、残りを掃除しちまおう』


まだまだ戦いは終わっていない。


標的と定めたゴブリンどものリーダー、ゴブリンシャーマンは巣穴……

廃棄された迷宮の最奥へ潜み、多分じっと隠れている。


リーダーたるゴブリンシャーマンを倒さなければ、ポミエ村に平穏は訪れない。


自ら頬を軽く叩き、気合を入れ直したディーノは迷宮の入り口へ近付く。


『魔導発煙筒』の効果により逃げ出して来たものは殲滅した。


だが迷宮の中には、戦闘不能とはいえ、まだ多くのゴブリンが残っている。

事実……

目を凝らせば入り口付近には、数多のゴブリンが戦闘不能とされ、

折り重なっていた。


「ふっ」


軽く息を吐いたディーノは、火に続き、風の魔法剣を使う。

当然無詠唱で、イメージするだけで行使可能だ。


ディーノはオルトロス、ジャンと共に、迷宮内へ潜入する。


指輪の力で夜目が効く。

なので、持参した魔導ランプは使わないで済んだ。


迷宮内へ足を踏み入れて確認出来たが、

既に魔導発煙筒から吹き出した煙は消えていた。


また魔法薬の効果で、ゴブリンどもは戦闘不能になっているはずだ。


先ほどの『失敗』から、ディーノは思い切り、風を放たず、

威力を押さえながら、素早く進んで行く。


しかし火と同様、風の魔法剣も凄まじい威力であった。


剣から発した風は、少し魔力を込めただけで、

鋭いやいばのように、ゴブリンどもの柔い身体をあっさり切り刻み、

ミンチにしたのである。


ディーノの度重なる攻撃により、四散したゴブリンの血で、

迷宮はむせかえるように生臭くなった。


しかし、そんな事に構ってはいられない。

愚図愚図もしては居られない。


ディーノは違和感を覚えていた。

迷宮内に残っていたゴブリンどもが、予想より遥かに数が少ないのだ。


昨日、ステファニー達と共同で倒したのが約1,000頭。

巣穴にはその10倍近く居ると思ったのに……

ばらばらとしか見当たらない。

 

とても嫌な予感がする。


まさか、巣穴の外にポミエ村へ向かう『別動隊』が居るのではと懸念する。


一刻も早く最奥に居るゴブリンシャーマンを倒し、戻らねばと思う。


念の為、ケルベロスを『援軍』に残して来たから、

ステファニー達含め、ポミエ村の守りは大丈夫だとは思うが……


複雑な思いにかられながら……

ディーノは急ぎ迷宮の深奥へ向かった。


そして約1時間後……

迷宮がそう深くなかった事もあり、

ディーノ達は戦闘不能に陥ったゴブリンどもを掃討しながら、

最下層地下10階、迷宮の最奥へ達していた。

 

その最奥は……

玄室のようになっていた。

 

遥か昔、迷宮の主がダンジョンコアと共に存在したと思われる場所には、

人間の作ったものではない、不気味な祭壇が設けられ、呪術的な雰囲気に満ちていた。


しかし!

最奥は……もぬけの殻であった。

肝心のゴブリンシャーマンが見当たらないのだ。


まさか!

と思う。


その予感を裏付けるように、最奥の一画が不気味に輝いていた。

輝きは、円形の形となっている。

 

まさか!

これは、転移門!?

と、ディーノが感じた事と、全く同じ事をオルトロスもジャンも感じていた。


『おお! これは、時空間を移動する転移門だ!』


『オルトロスの言う通りにゃ! 間違いないにゃ! 奴ら、ここからどっかへ行ったんだ』


ジャンの言うどこかとは……

まさか、ポミエ村!?

この転移門を使い、1万近いゴブリンの大群が急に楓村の最寄りに現れたら!


ステファニー達は勿論、ケルベロスでも対処に難儀するだろう。


しかし、これは罠かもしれない。


この転移門が全く違う未知の場所へつながっているとしたら……

下手をすればディーノ達は、ポミエ村の救援が間に合わなくなる。


どうしよう!

一か八か、運を天に任せ、飛び込むか?

安全策で来た道を戻り、地上へ出るか? 


と、その時。


『ディーノ、俺が先に飛び込もう。もし行き先がポミエ村ならば、すぐ念話で連絡する』


真剣な表情で、先行を申し出たのは、魔獣兄弟の弟オルトロスである。

 

しかしディーノは迷った。


ゴブリンシャーマンが設置した、行き先が不明の転移門である。 

時間の狭間へ落ち、『次元の迷い人』となる大きな危険リスクもある。


『でも……危険だ』


『はっ! 迷ってる暇はねえ! 俺は行くぞ!』


オルトロスはそう言うと、軽々とジャンプし、

転移門へ飛び込んだのであった。

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