第116話「ポミエ村包囲される!」

『でも……危険だ』


『はっ! 迷ってる暇はねえ! 俺は行くぞ!』


オルトロスはそう言うと、軽々とジャンプし、

転移門へ飛び込んだ。


呆然と見送ったディーノであったが……


そうだ!

とひらめき、念話で兄のケルベロスへ連絡を取る。


しかし……

迷宮の底は思念が届きにくいのか、

いつもは「打てば響く!」という間で戻る、ケルベロスからの応答が来ない。


ただケルベロスのモノらしき思念は伝わって来る。

その思念は……混乱していた。


もしも……

この転移門を使ったゴブリンどもの大群が、急に至近距離に現れたのなら、

猛き冥界の魔獣であっても、驚くのは無理もない。


ケルベロスからの応答を一旦諦めたディーノは、オルトロスへ念話を送ってみた。

しかし、こちらも応答はない。


数分が経った……


ディーノは珍しく少しれた。

そして緊張した。


待つべきか、動くべきか、


この見極めで今後の運命は大きく変わる。

そう確信したからだ。


『どうするにゃ、ディーノ』


『…………』


同じく焦れたジャンが問いかけるが、ディーノは答えない。


と、その時!


『おおい! ディーノぉ! 俺だ! オルトロスだあ! 俺の声が聞こえるかあ!』


やった!

オルトロスは無事だった。


安堵したディーノは短く答え、簡潔に質問する。

 

『おう、聞こえるぞ! 無事か? 今どこだ!』


『バッチリ、ビンゴだ! やっぱその転移門は、村のすぐそばへ通じているぜ!』


『そ、そうか! で、状況はどうだ?』


『それが! お前達も早く来てくれ! すぐに! ヤバイぞ!』


『ヤバイのか?』


『おう! 兄貴が咆哮して、ゴブリンどもを追い払ってるが数が多すぎる! ざっと1万体くらい居るかもしんねえ! その上、山火事になるから、俺達は下手に火の息ブレスが使えねぇ!』


『よし、俺達もすぐ行くぞ。ジャン! ついて来いっ!』


合点がってん!』


瞬間、ディーノは転移門へ飛び込んでいた。

そして、ジャンも続いたのである。

   

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


一方、こちらはポミエ村のステファニー達、

クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデン


いきなり異変が起こった!


気が付いたら……

ポミエ村はゴブリンどもに囲まれていたのだ。


それも不可解な事に、どこからともなくゴブリンの大群が湧き出し、

見る見るうちに、村の周囲四方に満ちたのである。


ディーノの戦友が勢子と共に、斥候役も務めるとの事だったので、

何か異変があれば、吠えて報せてくれるはずであった。


しかし何も事前連絡はなく、いきなりゴブリンが大挙出現したのだ。


現れたゴブリンの数はとてつもなかった。


一流ランカーのロクサーヌでも見た事がない大群であった。

完全に囲まれたので、こうなると打って出るわけにもいかず、

『籠城』の一択である。


ディーノから預かったギルド製の火炎弾20発は、焼け石に水。


確かに若干のゴブリンを倒す事は出来た。

だが相手は1万頭余のゴブリン、すぐになくなってしまった。

 

またタバサの貴重な火炎魔法も魔力が尽きないよう、無駄に撃たないよう、

気を付けて使わなければならない。


さすがに豪胆なステファニーも、この大群には気圧されていた。


その上、いきなりゴブリンが現れるなんて、予測不可能。

一体何があったのかと思う。


最もまずかったのは……村民達の変貌である。


あまりの大群を目の当たりにして、意気消沈してしまい、

戦意喪失してしまったのだ。


そして、ゴブリンはただポミエ村を取り囲んだだけではなかった。


持っている得物で村の門をガンガン叩き、打ち壊そうとする。

また、防護柵をよじ登って、村内へ入ろうとするのである。


もし門を破られたら、

大量に防護柵を乗り越えられたら、


人肉に慣れたゴブリンどもは一気に村内を蹂躙するだろう。


もしそうなったら……

地獄絵が展開するのは想像に難くない。


ステファニーとロクサーヌは、まだ気力が残っていた村民達を、

村長のセザールと孫娘オレリアに取りまとめて貰い、

クランメンバーと共に、村内へ侵入したゴブリンを必死に倒していた。


しかし、それもいつまでもつのか……


ステファニーの脳裏に、ふとディーノの面影がよぎった。


いくら覚醒したあいつが、とんでもなく強くとも、頼りになる戦友とやらが居ようとも……

この大群を突破し、村へ救援へ来れるとは……思えない!


つい弱音が出る。


「むう、今回はさすがにヤバイかも……ね」


強気一辺倒のステファニーが、このような弱音を吐いたのは、

生まれて初めてである。


それだけ今の状況が「ひっ迫」しているという事。

確かにこのままでは全員が力尽き、ゴブリンの大群に呑み込まれてしまう。


その時!

奇跡が起こったのだ。


ごうおおおおおおおおおおっ!!!!


門外で凄まじい風の音がした。


かと思うと、


ぎゃっぴいいいっ!!!

ぎえあああああっ!!!

ぎゃううううんん!!!


断末魔の悲鳴が轟き、地に満ちるゴブリンどもの中に、

ぽっかりと空間が生まれた。


その空間から、大きな声が響き渡る。

 

「お~い!! ステファニー様あ!! 助けに来ましたよお!!!」


その『声』は、

村内へ入って来たゴブリンを、しゃにむに斬り倒していた、

ステファニー達へも伝わった。


「えええっ!? あ、あああっ! ディ、ディーノぉぉぉ!!!」


聞き慣れた、そして聞けば心が落ち着く、大好きなあいつの声……


『声』を聞きつけたステファニーは驚愕且つ絶叫し、急ぎ物見やぐらへ登った。

そして彼女が目にしたのは……

待ちわびた『あいつ』の姿だった。


ぽっかり空いた空間、ゴブリンどもの死体の中に立っていたのは、

剣を大きく打ち振る、ディーノ・ジェラルディであったのだ。

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