第114話「魔法剣発動」

『おう、じゃあ、作戦開始だ。準備は良いな?』


『『OK!』』


念話により、相互の確認が行われ、

いよいよゴブリンの殲滅せんめつ作戦は作戦は開始された。


ディーノの立てた作戦は、ゴブリンの夜行性たる性質を踏まえたものだ。


ゴブリンの捕食活動は、大抵夜間に行われるという。

夜が明ける寸前に、彼等は巣穴へ戻るのだ。

 

そして基本的に巣穴の中で夕方近くまで眠る。


しかし空腹になった者は本能には勝てず、午後早めに巣穴を出るのだ。

昨日、ポミエ村へ現れた奴らは、その午後の『早出組』だと思われる。


これらはディーノの推測ではなく、冒険者ギルドに蓄積された、

冒険者達の戦闘の記録と、依頼報告のデータに裏付けされていた。


話を戻そう。


以上をかんがみて、ゴブリンとの勝負は昼までに決着をつける。


全てとはいえないが、昼間まで彼等の大半は眠り、

眠っていない残りの者も動きは鈍いはず。


だが、いくら強力な戦友のバックアップはあろうとも、ディーノ達は少数だ。

1万体のゴブリンを全滅させるまで望むのは厳しいかもしれない。


半数以上は殲滅、あわよくば彼等のリーダー、ゴブリンシャーマンも倒し、

統制を乱させる。

ディーノは完全な殲滅に拘らず、それで今回の作戦は成功だと考えていた。


一旦、撤退てったいし、数回同じ段取りで攻撃を加えれば、

相手に壊滅かいめつ的な打撃を与える事が可能であろうとも。


ディーノの話に、ステファニー達も賛同し、居残りを承知したのである。


理屈は以上だが、具体的な作戦行動はといえば……


巣穴である迷宮の入り口りには、見張りらしいゴブリンが数体居るだけだ。


そこへオルトロスが電光のような速さで接近、瞬時にかみ殺す。


見張りが居なくなると同時に、ディーノと、

人化したオーラムとなったジャンが巣穴へ近付き、『あるモノ』を投げ入れて行く。


『あるモノ』とは、『魔導発煙筒』と呼ばれる魔道具である。


この魔導発煙筒は何種類もあるが、使い方は一緒。


先端に付けられた発動糸を思い切り引っ張ると、

仕込まれた特殊魔法薬が煙状となって勢いよく吹き出すのだ。


今回ディーノが購入し、持参したうちのひとつは、

冒険者ギルドにおいて、対ゴブリン用だ。

それも特に『巣穴攻略用』に開発された、魔導発煙筒である。


仕込まれた魔法薬だが、睡眠は勿論、麻痺、そして催涙の効果もある強力なもの。

効果も抜群なのである。


使用者は、ゴブリンの巣穴へこの発煙筒を投げ込み、ゴブリンの動きを止め、

殲滅する。

魔導発煙筒は、当然人間にも効果がある。

しかし、殺傷能力はないので、最悪自爆的な同士討ちの恐れはない。


それに購入時の必須条件により、人間への使用は厳禁されており、

破った者へは重罰が課される。


魔導発煙筒を投入し終わると、まずディーノとジャンが、

そしてオルトロスも一旦、巣穴の入り口から離れた。


ジャンはすかさず変身を解き、元の『黒猫』へと戻る。


オルトロスはいつでも攻撃出来るようスタンバイ、

ディーノは抜剣、ジャンも肉球から爪を伸ばし……

これから起こる戦いに備える。


やがて……

ディーノとジャンが投げ込んだ、数十本の魔導発煙筒から「もうもう」と煙が噴き出し、ゴブリンの巣穴である迷宮内をいっぱいに満たして行く……


ぎひゃあああああっ!!

ぎゃっぴ~~っ!!

あひゃああああっ!!


すぐに断末魔の悲鳴があがり、魔法煙でふらふらとなった数十体のゴブリンが、

よろよろと、まるで酔っぱらいのように出現した。


と、同時にディーノ達は大地を蹴り、猛ダッシュ!!!


張り切ったオルトロスは牙で噛み殺し、ディーノは冴えわたる剣技で断ち割り、

ジャンは鋭い爪で容赦なく切り裂く。


たちまち出て来たゴブリンどもは死体の山と化す。


それから、10回あまり……

ディーノ達は戦闘を繰り返した。

既に……

ゴブリン数百体が死体の山と化している。


ここでオルトロスが死体を見て……


『ディーノ、臭いしうぜえし、ゴブリンシャーマンの死霊魔法で不死者アンデッドになるとめんどくせえよ。俺の火の息ブレスで、一気に焼いちまおうか?』


『あ、ああ。……そうだな』


と、一旦了解したディーノであったが……


ハッと思い付き、オルトロスを止める。


『ちょっと待ってくれ、オルトロス』


『どうした、ディーノ』


『さっき言った、授かった俺の新しい力……試してみるよ』


『お、おお、そうか! お前の新しい力、ぜひ見たいぞ』


と、オルトロスが返せば、

ジャンも、せがんだ。


『おいおい! 何だそれ、聞いてねぇぞ。 俺様もぜひ、見たいもんにゃ!』


オルトロスとジャンの賛同を得て、ディーノは気合を入れ直す。


呼吸を整え、集中し、炎のイメージを浮かべる。


ディーノは正式に魔法の修業をしたわけではない。

はっきり言って我流である。


集中し、気持ちを落ち着かせようと、ディーノは再び呼吸を整えた。


そして剣を振りかざし、積み重なるゴブリンの死体へ「ぴたり」と狙いをつける。

激しい戦闘の直後だったが、心は何故か落ち着いていた。


天気は今日も晴天。

ディーノは空を見上げ、遥か彼方、天へ去ったアシャールへ呼びかける。


『アシャール様、貴方の力、これから思いっきり使わせて頂きますっ! 燃え盛る炎よっ! 我が剣にまとえっ!』


瞬間!

魔法剣は発動された、

 

剣から放射される熱が、ディーノの頬を打つ。


『いっけ~~っ!!! 大量の汚物なんか塵も残さず焼却だ~っ!!!』


ごおおおおおおおおおおおおおっ~~~!!!!!!


アシャールから伝授された魔法剣の威力は凄まじかった!


ディーノから発せられる心の叫びとともに、構えた剣から放たれた紅蓮の炎が30m近くも伸び……


まるで竜の息ドラゴンブレスの如く、

おびただしいゴブリンどもの死体を、完全に焼き尽くしていたのである。

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