第103話「凱旋」

「待ってました!」とばかりに、 後方で待機していたタバサの炎弾が放たれ、

ちょうどゴブリンどもの『ど真ん中』でさく裂した。


同時にディーノも不敵に笑うと、


「お先!」


といきなり小さく叫び、抜剣、ゴブリンどもの中へ踊り込んだ。


炎弾の「さく裂」により大混乱に陥ったゴブリンどもは、

ディーノにとって所詮、経験値稼ぎの対象でしかない。

剣をふるう度に、しかばねがどんどん増えて行く。


ディーノの剣技上達の原因は、膂力、体さばきの上昇という、

ルイ・サレオンの魔法指輪の効果だけではなかった。


子供の頃から亡き父を師に、基礎だけはみっちりやっていた事が大きかった。

更にステファニーに付き従い、散々無茶ぶりをされた実戦経験も大きく影響している。


冒険者になってからも、数々の厳しい実戦により、更に剣技が磨かれており……

魔法指輪の効果も加わって、隠されていた才能が開花していたのだ。


しかし『出し抜け』を喰らい、気持ちが収まらないのが、

『取り残されたふたり』である。


「あっ! ズル! ディーノのフライングだあ~!」

「こら、待て、ディーノ! 全部倒すな、少しは残しとけよ!」


ステファニーとロクサーヌはディーノへ文句を叫んだ後……

顔を見合わせ苦笑、共に剣を振りかざして、

ゴブリンの群れへ突っ込んだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


結局……

ディーノ達とゴブリンどもの戦闘は何度も何度も繰り返された。

 

タバサの炎弾、前衛3人の奮闘、マドレーヌの状況判断、

そしてジョルジエットの治癒、回復の繰り返しでもある。


ちょうど10回目の戦闘が終了し、少しだけ間が空いた。


そして……更に1時間が経った。

絶え間なく来ていたゴブリンどもは、襲って来ない。


そろそろ撤収の頃合いである。

 

ディーノはそう判断。

大きく頷くと、ステファニーとロクサーヌへ告げる。


「今、勢子役の戦友達から報告がありました。周囲のゴブリンどもは、先ほどの戦いでほぼ掃討したようです。なので俺達は休養と回復の為、一旦村へ撤収しましょう」


すかさず同意したのは、ロクサーヌである。


「ステファニー様、ディーノに賛成します。少々てこずりましたが、良き戦果を得られました。立てた初戦の目的も達成しております」


「ふうん、そう」


「はい! お聞きください、あの様子なら村民は安堵し、戦意も高まっているでしょう」


ロクサーヌの言う通りであった。

物見やぐらのオレリアから逐一報告が行っていたらしく、

村内からは勇ましいときの声が聞こえて来る。


さすがのステファニーも表情に疲れが出ていた。


「ふう……分かったわ。作戦はほぼ成功したようだし、一旦村内へ引き上げましょう」


こうして前衛の3人はマドレーヌ達後衛と合流、

オレリアの指示で開いた南門から村内へと戻ったのである。


……村内へ戻ったディーノ達を、


おおおおおおおおおおおおおお~~っ!!!!!


『大勝利』に酔った村民は歓喜の渦で迎えた。


物見やぐらから急いで降りたオレリアなど、ディーノに飛びつき、

嫉妬したステファニーから、厳しく一喝されたほどである。


実は……

先ほどディーノは『切り札』の第一弾を使った。

ケルベロスとオルトロスの魔獣兄弟に、役割の途中変更を命じたのだ。

つまり『勢子』から『狩猟者』へなれと。


それまで『勢子』の役割を担っていた魔獣兄弟は、ただ追い立てるだけ。

戦わない事で、ストレスが溜まり切っていた。


なので、ディーノが役割変更の指示を出した途端、

彼等は怒れる魔獣へ変身した。


ケルベロスは勿論の事……

ミスをした汚名返上の意味もあり、オルトロスは特に奮戦し、

残っていた楓村周囲のゴブリンを、あっという間に一掃した。


掃討後……

兄弟はゴブリンの全滅を、即座に報告して来た。

あとは『巣穴』に居る残存勢力を掃討するだけだとも。


その『巣穴』は……

楓村への道中、ずっとステファニーに「可愛がられ」……

たまらず村外へ逃げ出していたジャンが、既に探り出していた。


更にディーノはジャンへ、ケルベロス達と合流し、

ゴブリンが潜む巣穴の様子を見張っているよう命じた。

何か『動き』があれば、念話で報せよとも。


こうなると、いよいよ、戦いは最終局面を迎える事となる。


ならば!

「ケルベロス達に、ゴブリンを全て倒すよう命じれば」とか

「最初からこの段取りで行けよ!」と思う方が居るかもしれない。


しかし……

ディーノ達は今後ずっと村に留まり、『守護者』となるわけではない。

オレリアが最初に告げた通り、たまたま来てくれた、

所詮は『よそ者の助っ人』なのである。


再び同じような事件が起こる可能性は無きにしも非ず。


もしも悪徳領主が手を差し伸べないのなら、村民自身が村を守る自覚を持たねばならない。

その為に、ディーノ自ら率先して戦う事で、村民の奮起を促したのである。


そもそもディーノはこの悪徳領主をこのまま許すつもりはなかった。

社会的に抹殺する『お仕置き』はもう考えてある。


だが……

まずは村での戦いを完結しなければならない。

 

エミリーに抱き締められながら、軽く息を吐いたディーノは……

改めて気合を入れ直していたのだった。

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