第102話「激戦②」

『バッカヤロォ!! 肝心な時にドジ踏みやがって!」


『わ、わりぃっ! 兄貴っ!』


ケルベロスの罵声と、オルトロスが素直に謝るやりとりが響いた。

どうやらオルトロスが、『勢子』の役目を上手く果たせなかったらしい。


と、なれば、新たな『ゴブどもの援軍』が続々来るって事だ!


瞬時に判断したディーノは納剣すると、思い切り大地を蹴り、

襲いかかるゴブリンどもの中で、未だ奮戦するステファニー達の下へ向かった。


ディーノが走った方向には投げ捨てられたロクサーヌの大剣があった。

素早く拾ったディーノは、そのまま振りかざし、ゴブリンの群れに突っ込む。


これまでのディーノなら、使うどころか、

持ちあげるだけでも難儀したほど巨大な剣である。

さすがに巨躯を誇るロクサーヌ愛用の剣、切れ味は抜群どころか、半端なかった。


無防備に背中をさらしていたゴブリンどもは、あっさりと「なます」のように切り刻まれる。


ディーノの圧倒的な強さを目の当たりにし、

ステファニーとロクサーヌも気合を入れ直し、周囲のゴブリンどもを全て倒した。


軽々と片手で大剣を掲げたディーノは、ステファニーとロクサーヌへ、

『勝利』をしっかりとアピールした。


「ふ、ディーノったら、さすが私が見込んだだけある! まあまあ、やるじゃない!」


満足そうに笑ったステファニー。

片や、悪い夢から覚めたという顔付きで


「な!?」


驚いたのは剣の持ち主ロクサーヌである。


「ディ、ディーノっ! ど、どうしてっ!? わ、私の剣を!?」


「はは、回収しておいたぞ、ロクサーヌ」


「な!!??」


「ステファニー様につられ、夢中になり過ぎたな。……戦いの中で戦いを忘れるなよ」


ディーノはゴブリンのしかばねが折り重なる中をゆっくり歩いて行った。


呆然としているロクサーヌへ愛用の大剣を渡す。


「聞け、ロクサーヌ! 悪いが、俺の戦友が下手打へたうった。これから、想定以上のゴブリンが来る」


「想定以上だと!」


剣を受け取って、ロクサーヌはようやく『正気』に戻ったらしい。 


ここで、すかさずステファニーが胸を張る。


「ふっ、ノープロブレム! 全然平気!」


「ステファニー様!」


「ダメおっとディーノの致命的な失策を、しっかりとカバーするのが、『出来た妻』ステファニー様というものよ!」


「はあ? 俺がダメおっと?」


「でしょ!」


「いやいや! 俺がステファニー様の夫とか、事実と全く違いますから」


「何で違うのよ! 聞いてないわ!」


「いやいやいや! 何度も何度も何度も! 違うと言ってますって! そもそも俺、ステファニー様とは絶対に結婚しません!」


「ダメ! 却下! そんなの無効! あんたの意思など関係ないって言ったでしょ! 第一、私から逃げられるわけない!」


「逃げられない? 何故ですか?」


「ゲームのラスボスからは絶対に逃げられないわ! 必ず回り込むから!」


「はあ、何ですか、それ? 全く意味が分からないですよ」


「分からないの、馬鹿ね! じゃあ私は大口を開けたへびで、あんたは、にらまれて動けなくなったかえるよ。このたとえならよ~く分かるでしょ?」


「うっわ! 身体が硬直して、ぞくっとしました! 勘弁してください」


「はは、ダメおっとに出来た妻ですか、本当にお似合いですよ、ステファニー様」


「サンキュ! ロクサーヌ!」


ロクサーヌは普通ならば、絶対に口にしない言葉を告げた。


「大器だ!」とたたえるステファニーに対し、

凡人とさげすむディーノが、「本当にお似合いだ!」などと。


だが……

ロクサーヌは遂に目の当たりにしたのだ。


ゴブリンの群れを瞬時に倒したディーノの俊敏さ、そして恐るべき実力を……


さすがに……認めざるをえない。


ステファニーの言う事はほぼ信じるロクサーヌではあったが……

ディーノの強さに関してだけは、過大評価の『単なるノロケ話』として信じてはいなかった。


ロクサーヌとは旧知の間柄である、

ギルドマスター、炎の飛燕ミルヴァ・ラハティの証言があったとしても。


主ステファニーの決めゼリフではないが、まさに『論より証拠』である。


と、ここでディーノが提案する。


「申しわけない、今回やらかした戦友のミスは俺の責任だ」


「へぇ、だから何?」と、ステファニー。


「どう責任を取ると言うのだ?」と、ロクサーヌ。


「今度は俺が盾役となる! だから、ふたりは少し下がってフォローしてくれ」


と、ディーノは前衛で戦う事を申し出たが……


「はあ? 嫌よ、あんたの後ろへ下がるなんて! 私の主義に反する!」


「でも、ステファニー様は少し疲れたんじゃないですか?」


「全然大丈夫! それにダメおっとを見捨てて死なせたら、目覚めが悪い!」

 

と、ステファニーには断固拒否され……


「いや、俺ダメおっとじゃないですし、死にませんから」


と返したが、更にロクサーヌからは、


「ディーノ、お前の実力は充分に分かった」


「はあ……」


「だが! 私はステファニー様から、片時たりとも離れる事は出来ないっ!」


と、きっぱりと断られてしまった。


そうこうしている間に……

街道には新手のゴブリンどもが現れた。


やはりオルトロスが失策したらしい。

数は……先ほどの倍、200体近いようだ。


少し離れた場所で、3人はそのような『やりとり』をしたのだが……

マドレーヌ達後衛組は、しっかりと結末を予想していたようだ。

3人が一緒に戦うという結末を……


ロクサーヌが「にやっ」と不敵に笑い、迫るゴブリンどもを指さし、

大きく手を打ち振った。

 

すると!

「待ってました!」とばかりに、 後方で待機していたタバサの炎弾が放たれ、

ちょうどゴブリンどもの『ど真ん中』でさく裂したのである。

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