第101話「激戦①」
「ビナー、ゲブラー、……炎弾いっくよ~!!!」
ロクサーヌからの指示通り、接近したゴブリンどもの群れめがけ、
タバサが
魔力により生成された炎弾が、ゴブリンめがけ一直線に放たれた。
今、タバサが放った炎弾は、中規模のものである。
そもそも優れた魔法使いは、
戦闘の際、自分の魔力量を元に戦いの終了までをほぼ完璧にシミュレートする。
タバサは自然と計算していた。
自分が放つ1発の炎弾により、約15頭のゴブリンを倒せると見ていたのだ。
更に、この規模の炎弾なら……
己の魔力量を
で、あれば計算上は、約300体のゴブリンを倒す事が可能であり、
プラス何割かを戦闘不能にし、足止めする事が出来る。
作戦の概要が決まった時、ステファニーとディーノ、
そしてロクサーヌへは、そう報告していた。
しかしながら、桁違いといえる1万体のゴブリンを炎弾で全て倒すとなれば、
気が遠くなってしまう。
当然、戦闘はタバサだけで行うわけではない。
クラン全員の力を結集し総合力で戦うのだ。
タバサが最も気になっているのは、やはり自分達の新リーダー、
ステファニーの『力量』である。
そして公私とも気になるディーノの能力も ……
激戦を控えているのにタバサは不思議であった。
これまで戦った中で最大の敵を相手にするというのに……
タバサにほとんど恐怖はなかった。
ステファニーにディーノ、加えて頼りになる『姉御』ロクサーヌが居るとなれば、
1万体の相手であろうが負ける気はしなかったのだ。
閑話休題。
ど~ん!
ぎゃっぴ~っ!
うっぎゃああ!
ぐえ~っ!
タバサの燃え盛る炎弾が押し寄せるゴブリンどもの真ん中で爆発!!
向かって来たゴブリンどもは粉々に吹き飛び、
燃え上がる人外のおぞましき悲鳴があがった。
そして!
炎弾が放たれると同時に、奔馬のように走り出していたロクサーヌがあっという間に大混乱に陥ったゴブリンの群れに肉薄、大剣をふるう。
不気味な音と共に剣がふられ、首と胴、頭から唐竹に割られ、
数多のゴブリンどもは血しぶきの中、瞬時に物言わぬ肉片と化して行く。
そんなロクサーヌの獅子奮迅な戦いぶりを見て……
ステファニーが契約者の魂を得た悪魔のように歓び笑う。
あ~はっはっははは~~!!!
どうやらステファニーが持つ、非情な
盾役となったロクサーヌの背後で戦うはずなのだが……
ステファニーは、すっと脇をすり抜け、突出。
先頭へ出る形で、もろにゴブリンの群れに突っ込んだのである。
ぶしゃ!
ぐちゃ!
ばちゅん!
不気味な擬音が立て続けに鳴った。
ステファニーは帯剣していたが……
何故か、抜刀してはいなかったのだ。
何と!
彼女の得意な破壊力抜群の強拳――グーパンで、
手あたり次第、ゴブリンどもを殴殺していたのである。
ゴブリンの返り血を浴び……
悪鬼と化したステファニーを見て、ロクサーヌが意外な行動に出た。
「あっはあ!!」
嬉しそうに笑い、もっていた大剣を後方に投げ捨てたのである。
「「「姉御っ!」」」
ジョルジエット、マドレーヌ、タバサがびっくりして叫んだ。
己の身を護る唯一の武器を投げ捨てるなど、考えられないからである。
しかし!
後輩達が心配する声など全く届かない。
本能のまま、野獣となったロクサーヌは、
ステファニー同様に、自身のごつい拳で凄まじいパンチを次々と喰らわせ、
更に鋭く、ぶち抜くような蹴りを連続して繰り出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方……
遊軍を命じられたディーノは、
ステファニーとロクサーヌのやや背後に位置していた。
最前線に立たずとも、ディーノの役割は重要である。
遊軍の役割として、融通の利く中間支援としての働きが求められていた。
つまり前衛のステファニー達に少しでも不利があったらすぐフォローへ入る。
またゴブリンが村を目指し、後方へ回り込めば、
後衛のマドレーヌ達も助けなければならない。
案の定!
ステファニー達が……
あまりにも
打ち漏らしたゴブリンが20体あまり、村の南門を目指し、迫って来た。
このままスルーだと、後衛のマドレーヌ達を襲うのは間違いない。
中衛待機のディーノは「ふっ」と軽く息を吐き、
向かって来るゴブリンどもの群れに、正面から突っ込んだ。
「えええっっ!!??」
物見やぐらから戦いを見守るオレリアが、小さな悲鳴をあげる。
ディーノひとり対ゴブリン20頭……一見、無謀な戦いと思えなくもない。
しかし至宝ルイ・サレオンの魔法指輪の力もあり、
ディーノの身体能力は、人間離れしていた。
まず視力……
襲いかかるゴブリンの動きが、とてもスローモーに映るのだ。
普通なら木々を飛び回る猿のように機敏なゴブリンが、
まるで鈍重な『なめくじ』のように見えるである。
加えて
合わせて身体の切れも著しく増している。
ゴブリンどもの動きもはっきりと読める。
ロランから伝授された読心魔法の効果だろうか、
奴らの心から波動が伝わって来て、行動が『先読み』出来てしまうのだ。
「はっ!」
短い気合と共に、
ディーノが抜剣した刃がゴブリンの群れめがけ、
稲妻のように
ぎゃう!
があっ!
あぎゃん!
ぷあ!
ぎゃううっ!
がはっ!
ゴブリンどもは悲鳴と共に血しぶきをあげ、即、動かぬ肉塊へと変わった。
……更にディーノは、容赦なく剣をふるい続ける。
5分足らずで、ゴブリンども20体は、あっさりと全滅した。
「ディーノ!」
「サンキュ!」
「助かったわ!」
背後からマドレーヌ達の声を受け、
応えて軽く手を振るディーノ。
だが、その時!
『バッカヤロォ!! 肝心な時にドジ踏みやがって!」
『わ、わりぃっ! 兄貴っ!』
ケルベロスの罵声と、オルトロスが素直に謝るやりとりが響いた。
どうやらオルトロスが、『勢子』の役目を上手く果たせなかったらしい。
と、なれば、新たな『ゴブどもの援軍』が続々来るって事だ!
瞬時に判断したディーノは納剣する。
そして、思い切り大地を蹴り、
襲いかかるゴブリンどもの中で、
いまだに奮戦するステファニー達の下へ向かったのである。
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