第83話「ステファニー様、襲来⑤」

「私から見たら、『しなびた野菜』のような覇気はきのないディーノへ、どうしてそこまで執着するのか分からない。ステファニー様のお気持ちが全く分からないのだ!」


「ちょっと! 『しなびた野菜』って何ですか! ディーノさんに失礼です!」


と、再び怒ったニーナが抗議した、その時。


「本当に失礼だ。相変わらず口が悪いな、ロクサーヌ」


飛竜亭の入り口にふたつの人影があった。

ひとりは男、ひとりは女のようだ。


そう!

ずるずる引きずられて行ったディーノが、引きずったステファニーと共に、

ちょうど戻って来たのである。


「戻って来るのが早すぎる」と感じたのであろう。

ロクサーヌが尋ねる。


「ステファニー様! 式はもう挙げられたのですか?」


ロクサーヌの声に反応した者が2名居た。

当然、ニーナとマドレーヌである。


「式!?」

「式って、何の式ですか?」


まだ状況が分からない、見えない。

そんな苛立ちが、ロクサーヌの語気を荒げる。


「たわけ! 結婚式に決まっているだろうが!」


「け、結婚式!?」

「そ、そんな!」


ディーノとステファニーの結婚式!?


驚くニーナとマドレーヌへ、

ロクサーヌはきっぱりと言い放つ。


「愛し愛される婚約者同士が、創世神教会へ行ったんだ。他にどんな用事がある?」


「…………」

「…………」


ショックで固まり、無言となってしまったニーナとマドレーヌ。

しかし、ここでディーノが抗議の声をあげた。


「おい、ちょっと待て、ロク!」


「な、ロクだと!? ふざけるな! しなびた野菜の癖に!」


「黙れ! 誰がしなびた野菜だ。それに愛し愛される婚約者同士って何だ? 根も葉もない事を言うんじゃない」


と、ここで口を挟んだのがステファニーである。


「ロクサーヌ!」


「はい! ステファニー様!」


「式は挙げなかったわ」


「な、何故!」


「こいつに結婚するのを断られたの。私にはときめかないって」


敬愛するあるじがふられた!?

それも「ときめかない」などと!?

とんでもなく女子に失礼な断り方で!?

くっそ生意気なあ!!


ロクサーヌの驚きと怒りは当然ディーノへと向けられる。


「な、なんですと~っ! くっそ! ディーノ、てめぇ~っ!」


「何だよ、ロク! くそとか言うな」


「うるせえっ!! 貴様あ!! ウチのメンバーに手を出した挙句!! 許婚いいなずけであるステファニー様に、容赦なく心のDVまで振るうとはあ!! ぜ、絶対に!! ゆ、許さんぞぉ!!」


怒る狂うロクサーヌに対し、ディーノは冷静である。

苦笑までしていた。


「おいおい、メンバーがメンバーなら、リーダーも……いや、今は元リーダーか。あまり流言飛語りゅうげんひごを広めるな。……心のDV? 何じゃ、そりゃ?」


「ぐぬぬ……貴様あ、『いたいけ』なステファニー様の心をもてあそぶとは……ぶっ殺してやるっ!!」


「どこが『いたいけ』だ。お前の心の目は腐りきってるんじゃねぇのか、ロク」


ここでまた「ストップ!」をかけたのは、ステファニーである。


「もう、良いよ、ロクサーヌ。この屈辱と借りは絶対に返すから」


「だから私が!」


なおもディーノへ天誅を下そうとするロクサーヌへ、

ステファニーが一喝する。


「もう黙れって言ってるの! こいつとはね、この私自身で、決着をつけるのよ!」


まさに鶴のひと声。

ロクサーヌは直立不動となり、「びしっ」と敬礼する。


「は、はい~っ! わっかりました~っ!」


敬礼するロクサーヌを一瞥いちべつし、

「ふん!」と鼻を鳴らしたステファニー。


次にニーナとマドレーヌを「ぎろり」と睨み付ける。


「おい、そこのふたり!」


「私達……」

「ですよね?」


ニーナとマドレーヌは、ステファニーのあまりの迫力にたじろいだ。

しかしステファニーの話にはまだ続きがあるらしい。


「言っとくけど……」


「???」

「???」


「こいつに本気マジじゃないなら、さっさと退場! コースアウトして!」


「え? 退場?」

「コースアウト?」


ステファニーの言葉が呑み込めないふたりは、戸惑い、首を傾げる。

対して、ステファニーは「びっ」と、ディーノを指さす。


「こいつは私の男よ! お前達は手を挙げてバンザイ! つまり降参して他の男を探せって事よ!」


「えええっ!」

「むむむむ!」


口ごもるニーナとマドレーヌへ、ステファニーはきっぱりと言い放つ。


「私はまどろっこしいのが大嫌いなのよ。ほのかな想いとか、憎からず思うとか、むかつくぐらい、大嫌いなの! 中途半端で、曖昧あいまいな態度を取らず、好きか嫌いか、この場ではっきりしてくれる?」


話がどんどん進んで行く。

ディーノの意思とは全く無関係に……


当然、ディーノは「ストップ」をかける。


「あのぉ、ステファニー様。何、勝手に話を進めているんですか?」


しかし、ステファニーは意に介さない。


「勝手に? ディーノ、あんたの都合なんかどうでも良いわ。今は女同士の話をしてるんだから!」


「はあ……女同士って……」


「それよりディーノ!」


「は、はい!」


「絶対、あんたをときめかせるからね!」


遂に出た。

誰にでも分かるステファニーの求愛宣言。


だが、ここで大きな決断をした者が居た。

ニーナである。


「……ステファニー様!」


呼びかけられたステファニーは怪訝けげんな顔をする。

さすがに存在は認識していたが、ステファニーにとってニーナはアウトオブ眼中。

全くのモブキャラ扱いである。


「あんたは? ……そう言えば、まだ名前を聞いてなかったわ」


「ニーナです!」


「ふうん……ニーナって言うの」


「私、本気です!」


「おう、見事に言ったね。しかと聞いたわ」


「絶対! ステファニー様に……負けません!」


「あはは、あんた、見かけに似合わずたくましいわね。私好みよ……良~く覚えておくからね」


しかし!

ディーノへの『告白』はまだ終わらなかった。

大きな決断をした者がもうひとり!


「ステファニー様!」


「あんたは……ウチのクランの……マドレーヌ……かな?」


「そうです! わ、私も! ステファニー様に、けして負けませんっ!」


「了解! まあ、ふたりともせいぜい頑張って、何やっても……所詮、無駄だと思うけど」


と、ここでおずおずと遠慮がちに手を挙げる者が居た。

……タバサである。


「ええっと……ステファニー様、私も……エントリーOKかなっ?」


「はあ? タバサまでもぉ? あ~もう! 仕方ない! まとめてかかって来なさ~いっ!」


こうして……

ディーノには何と!

 

彼の夢のひとつ……

生涯を共にする伴侶。


追い求める『想い人』の候補?が、

何と何と!

一度に4人も出現したのである。

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