第78話「記念すべき初デート③」

ディーノが生まれて初めてするデートは、何と!

ニーナ、マドレーヌ、ジョルジエット、タバサと……

タイプがそれぞれ違う、可愛い女子4人との『リア充集団デート』である。


しょっぱな、タバサお気に入りの、中古衣料品店へ連れていかれたディーノ達。


用心していたマドレーヌが、

タバサの悪だくみ『たかり癖』を見抜き、ニーナと連合して撃破。


潰えたか、と見えたタバサの『腹黒い野望』ではあったが……


何と! 

ディーノが大盤振る舞いし、状況は一変。


デートの第一弾、ショッピングは良い意味で大いに盛り上がった。


女子達は好きな服を散々試着した上、各自1着購入。

一方、ディーノは女子達にセンスの良い服を選んで貰い、これまた1着購入。


『ちゃっかりタバサ』の最初の思惑に、はまった感がなくもないが……

当のディーノは大が付く満足だった。


可愛い女子達と「わいわい」言いながら、服を買うのは楽しい。

という『人生の楽しみのひとつ』をはっきり知り、体験したからだ。


ステファニーに散々しいたげられ、両親と死に別れ……

苦労して生きて来た15歳のディーノにとって、

遅ればせながら遂に訪れた『青春』の一頁イチページだといえる。


ここで図に乗ったタバサが悪ノリする。


「ディーノ」


「ん?」


「次回のデートはさあ、貴金属店へ連れてってぇ。私、素敵な銀の指輪か、宝石が付いた可愛いペンダントが欲しいなあ♡」


出た!

おねだりタバサのたかり癖。


気分が良くなったディーノの『気のゆるみ』をつく見事な作戦である。

人生15年初めてのデートで気分がとっても良くなっていたディーノ。

可愛く甘えん坊の彼女からのお願い……

じつはタバサの『たかり』に対し、全く無防備である。


「ああ、いい……「ちょ~っと、待ったあ!!!」……よ」


いきなり、ディーノとタバサの会話に横やりが入った。


「え?」


驚いたタバサが見やれば、

腕組みをし、魔王のように立ちはだかった、

怖い表情の、ニーナとマドレーヌがにらんでいた。


「こらタバサさん! 調子に乗り過ぎでしょ!」

「タバサ! いい加減にしなさいっ!」


「うわ! ニーナさん、マドレーヌ姉」


「服はまだしも!」

「そう! アクセのおねだりは恋人への第一歩よ」


ふたりの言う事は、もっともかもしれない。


愛し愛される恋人が心の距離を近づける為に、

相手の好むアクセサリーをプレゼントするのは良くある事だ。

また同じデザインのアクセサリーを、恋人同士で身に付け合う事も多い。


タバサも当然、そのような慣習は知っている事だろう。


しかし、何故かとぼける。


「そ、そうかな?」


「タバサさんはディーノさんに恋愛感情はないんでしょ?」

「そうです! 好きでもないディーノを単なる金づるにするなんて、私が許しません!」


「びしっ!」と言われたタバサは即答せず、どうしてか口ごもる。


「……ええっと」


「何ですか?」

「言いたい事ある?」


「実は……私も、心の中で自問自答してみたら……ディーノの事が結構好きなのかなって……思うの!」


タバサから遂に出た、衝撃の発言。

想定外の展開に、ニーナとマドレーヌが驚いたのは言うまでもない。


「な、なに~っ」

「嘘っ!?」


「ホント……」


「ええっ!?」

「単に金づるか、歩く金庫じゃないの?」


「ううん、金づるとか、歩く金庫じゃない。ディーノは結構好み……じゃなく、もっと好き……ズバリど真ん中かも……」


はたから見れば……

「爆発しろ!」と言いたくなるような、混沌として来たディーノの恋愛事情。


「あ、あの……そろそろ行かない?」


対して、当のディーノは完全な受け身タイプ。

いつか、『理想の想い人』に巡り会いたい、と願いながらも……

積極的な女子達の攻勢に圧倒されていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


あれが良い、これが良い。

試着してから決める。

迷いに迷うなど……

結果、ディーノ達の買物は、たっぷり2時間以上もかかってしまった。


時刻はまもなくお昼前、ランチの時間へ入っている。


今、飛竜亭の一画に、ディーノ達は陣取っていた。


約束通り、今回のランチは食べ放題、飲み放題、

全てディーノの『おごり』である。


まずはエールで乾杯。

アルコールが苦手な者は、果実を絞ったジュースで杯を交わす。


ホームともいえる飛竜亭。

なので、ここで乾杯の音頭を取るのは、当然ニーナに任された。


「では! ディーノさんとの楽しいひと時に感謝して、かんぱ~いっ」


「かんぱ~いっ!」

「かんぱいっ!」

「カンパイ!」

「かんぱい~!」


カチン!

コチン!

コン!


冷えた陶器同士がぶつかり合い、乾いた音を立てた。


乾杯と同時に、料理が続々と運ばれて来る。

料理の選択もニーナに一任されており、湯気の立つ美味そうな料理が続々と並べられた。


そして、同僚達からは、ニーナへエールが送られる。


誰もがニーナの恋を応援しているのだ。

当然相手は、ディーノである。


「ニーナ、頑張ってね」

「ニーナ、ディーノさんを逃がしちゃ駄目だよ」

「ニーナ、ファイト!」


やがて厨房から、店主のガストン・バダンテールも姿を見せた。


ディーノ達のテーブルへ行き、笑顔で、出した料理の説明をする。

それを見て、ちょっかいを出そうとしていた他の客は思いとどまった。

もう邪魔は入らないだろう。


美味しい酒に、美味しい料理、

全員が談笑し、ランチとは思えないほど宴は盛り上がる。


しかし!

好事魔多し。

悲劇は突然、訪れる。


「ディーノぉ!!!」


心と身体へ散々刻み込まれた……

聞き覚えのある、怖ろしい声が飛竜亭に響き渡った。


客達、スタッフが一斉に入り口を見た。

 

ひとりの美しい少女が、飛竜亭の入り口に仁王立ちしていた。


デートした女子達と歓談するディーノを、腕組みをし、

恐ろしい形相で睨み付けている。


少女は傍らに、逞しい巨躯の女性冒険者を従えていた。


遂に!!

怖れていた『暴風雨ハリケーン』が襲来したのだあっ!!

 

そう! 

突如現れたのは……

ディーノを追い、はるばる南のフォルスからやって来た、

魔物オークをグーパン一発で殴殺する、凶悪な猛美少女ステファニー・ルサージュ。


そして今やステファニーに心酔する戦士、

身長2mのたくましき女傑ロクサーヌ・バルトのふたりであったのだ。

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