第77話「記念すべき初デート②」
タバサが一行を連れて行ったのは、衣料品店であった。
しかし扱っているのは新品ではない、古着オンリーの衣料品店なのである。
この世界では、衣服は『イージーオーダー』が主流である。
そもそも既製服を作る店が皆無に等しいのだ。
1着1着、注文を受けて作る仕立て屋しかないのである。
個々のサイズに合わせた特別仕様だから自然と高価になる。
対して、一般庶民が着る服は安価な『中古服』が殆どである。
でも中古服が、数多の需要に際し、数的に対応が可能なのか?
という疑問も、当然ながら出て来るだろう。
実は……
高い金をかけて凝った服を作っても、
すぐに飽きて処分する、貴族や上級クラスの市民は多い。
その服を自分が廃棄すると偽り、裏でこっそり古着屋へ売却する使用人がたくさん居るのだ。
こうして……
王都にある数多の古着屋は成立する。
サイズを少し手直し、バランス良く仕立て直しすれば、
庶民にも手頃な値段で、良質の服が行き渡るという仕組みなのだ。
今回タバサが一行を連れて来たのは、結構な大型店の『古着屋』である。
楽しく買い物が出来るよう、オブジェや小物も置かれ、内装も洗練されている。
扱っているのは男女用共に、
センスが良いお洒落なブリオー、カッコいい
種類もサイズも、豊富に取り揃えていた。
つまり……
冒険者で魔法使いのタバサが、公私で欲しい衣服ばかりなのだ。
「わあ~、このお店、相変わらず欲しい服がい~っぱい! どれにしようかなあ! た~くさん買っちゃおう!!」
と、ここで、買い物に燃えるタバサにストップがかかる。
「ちょ~っと、待ったあ!」
「そうです、待ちなさい、タバサ!」
そしてストップをかけたのは、意外ともいえる組み合わせのふたりである。
「え? ニーナさん、マドレーヌ姉、な、何?」
そう、ニーナとマドレーヌが制止、鋭く射抜くような視線で、
じっと、タバサを見ているのだ。
「タバサさん、買い物をするのは結構ですし、自由です。それに関しては止めません」
「そうですよ、タバサ! 但し自分のお金で買うのです」
「え? 自分のお金?」
ポカンとするタバサに対し、ふたりの追撃は緩まない。
「そうです、自分の財布にある、自分のお金を使いなさい!」
「絶対、ディーノに、たかってはいけません。そんな事をしたら問答無用で、途中退場させます!」
厳しい表情のニーナとマドレーヌに、タバサはたじろぎ、圧倒される。
「あ、あはは……い、嫌だなあ……じ、自分の着る服は自分で買う、そ、そ、そんなの当たり前じゃない、ですかぁ」
しかし、ここでニーナとマドレーヌ、ふたりの表情は一変。
にやにや笑っている。
「うふふ、タバサさん、額に汗が滝のように流れてますよ」
「悪だくみが図星でしょ? すっごく、噛んでるしね」
「あはは……そんなぁ……で、でも何で急にニーナさんとマドレーヌ姉が、け、結束したんですか?」
タバサにとっては尤もな疑問である。
何故、今迄交流がなかったふたりが、こんなに息の合うところを見せるのか?
「当たり前です! マドレーヌさんとは同志ですから!」
「そう! 戦友ですから!」
実は……
先ほど、ディーノとマドレーヌが会話してから……
マドレーヌからニーナへ、『タバサのたかり癖』の話が行った。
優しいディーノに迷惑をかけたくない。
ふたりは同意した上、意気投合したのだ。
女子は恋の気配に鋭いという……
互いにディーノに対し、好意を持つ者という雰囲気を感じた故、
共同戦線を張ろうという約束を交わしたのである。
「同志……戦友」
と、呟くタバサ。
意味不明だという顔付きであった。
しかし、ここでディーノが声を張り上げる。
何か、伝えたい事があるようだ。
「みんな、聞いてくれ! 全部とは言えないが、どのような服でも1着分お金を出そう! だから好きな服を買ってくれ、俺のおごりだ!」
ディーノから発せられた衝撃の発言。
折角、タバサの悪だくみを
「ええええっ?」
「ディーノ」
びっくりするニーナとマドレーヌ。
ふたりを
「タバサ」
「な、何?」
「俺、女子とのデートは生まれて初めてだし、こんな素敵な店にも来たことなくてさ。ありがとな、連れて来てくれて」
「…………」
ディーノから、想定外の『礼』を言われたタバサは、返す言葉が見つからない。
そんなタバサをディーノは見つめ、優しく微笑む。
「お前の言う通り、カッコいい服がいっぱいあるよな。……俺も買うから皆で一緒に買おうぜ」
「ディーノ……」
しかしまだ、ディーノの提案は終わらない。
このような時に、稼いだ金を有効に使おうと、ディーノは考えたのだ。
「それと、この後のランチは全て俺のおごり、食べ放題、飲み放題だぞ」
「え?」
食事までと、驚くタバサにディーノは、
「但し、ひとつだけお願いがある。ランチの店は飛竜亭にしてくれないか? 普段、凄くお世話になっているから、俺、少しでも売り上げに貢献したいんだ」
ディーノの言葉を聞いていたジョルジエットも、拳を高々と突き上げる。
彼女の本音は最初「好きな服が、ただで買えてラッキー」程度だった。
だが、ランチの話を聞き、今は大いに感動していた。
「大賛成! さっすがディーノ君、男はやっぱ、
と褒め、女子達へ向かって、
「みんなぁ! 彼のお言葉に甘えて、好きな服を選ぼうよっ! その後は飛竜亭で、大宴会の開始だぁ!」
こうして……
ディーノ達5人デートの第一弾、
『ショッピング』は大いに盛り上がったのであった。
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