第76話「記念すべき初デート①」
翌朝午前8時……
王都ガニアンの中央広場で、ディーノ・ジェラルディは人待ちをしていた。
それも単なる人待ちではなかった。
今日はディーノにとって生まれて初めてするデートの日。
それも何と!
可愛い女子4人を引き連れたスペッシャルなデートなのだ。
タバサの指示で集合時間は午前9時。
待ち合わせは先述通り、中央広場。
いつものように飛竜亭で朝食を摂ったディーノは、
ニーナに先行を告げ、ひと足先に出た。
そして早すぎる1時間前に、集合場所へ来ていたのだ。
……30分が経った。
8時30分過ぎ。
女子の中で一番最初に現れたのはニーナであった。
今日はデートの為に、飛竜亭の仕事を休んでいる。
ちなみに事情を知るオーナーシェフ、ガストンと同僚女子達は快く、
急な休暇を認めてくれた。
「ディーノさん」
「あ、ニーナさん」
「ええっと……成り行きとはいえ、こんなに大勢でデートするなんて……変な事になってしまいましたね」
「全くです」
「でも……」
「でも?」
「私、嬉しいです」
「嬉しいって……」
「はい! ディーノさんと、いつかはデートしたいと思っていたので、素直に嬉しいです。……本当は私、ディーノさんと『ふたりきり』が良かったのですけれど……」
「お、俺もです。ニーナさん……」
と、その時。
「ちょっと早く来すぎちゃったかな、あれ?」
ふたりにとって聞き覚えのある声が……
見やれば、次に現れたのはマドレーヌである。
「おはよ、ディーノ……、ニーナさんも」
「久しぶりだな、マドレーヌ」
「うん……」
幼児退行?し、ディーノにだきついたあの『抱っこ事件』以来……
よほど恥ずかしかったのか、マドレーヌはしばらく飛竜亭に姿を見せなかった。
なので、久々の再会である。
「元気そうじゃないか、今日は宜しくな」
「うん、あ? そうだ、遅ればせながらランクBに昇格おめでとう」
「ありがとう」
「凄いね、ディーノは。冒険者になって、まだ1か月ちょいくらいでしょ? ランクCの私は、一気に追い越されちゃった」
「ははは、たまたま運が良かったのさ」
「運か……でも運って凄く大事だよ」
と、その時。
またまた女子がひとり現れる。
……元聖女のジョルジエットであった。
「うふふ♡ ディーノ、今日は宜しくね」
「こちらこそ、宜しくお願いします、ジョルジエットさん」
「昨夜、タバサから急に話を聞いて、びっくりしたけどね」
「俺もですよ」
「噂を聞いたわ。君、最近、頑張ってるらしいじゃない。素敵だね」
「あ、ありがとうございます」
清純派の美女、ジョルジエットから褒められて照れるディーノ。
ニーナ、マドレーヌからは、複雑且つ微妙な視線が投げかけられる。
そして……
集合時間の午前9時少し前、最後に登場したのが、タバサである。
『策士』らしく、相変わらず小悪魔的な雰囲気を醸し出していた。
「はぁい! お待たせぇ! って、私が最後か。……じゃあ行きまっしょ」
タバサが促し……
一同は『スペシャルデート』を開始したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何度も言うが……
ディーノは、今まで生きて来てデートは全く未経験。
『生まれて初めてのデート』である。
それゆえ、女子をどんなところへ連れていけば良いのか、
また、ふたりで……否! 今回は5人なのだが……
どう楽しめば良いのか……
作法や勝手がまるで分からなかった。
実はそこまで読み切って、タバサは全員デートを持ちかけたのだ。
つまり!
1対1でなければ本当のデートにあたらない。
5人で遊びに行くのは、
クラン
という超拡大解釈をして……
そのロジックで、姉貴分のマドレーヌとジョルジエットを説得し、誘ったのだ。
そのタバサが先頭に立ち、張り切って一行を率いて行く。
迷宮探索などでは、魔法使いとして一番後衛を務める。
だから、いつもとは真逆である。
それにしても……一体、どこへ行くのだろう?
タバサはどこへ、俺達を連れて行くのだろうか?
と、ディーノは考える。
でも……
まあ良いかとも思う。
タバサが言う通り、クラン
ステファニーとロクサーヌのあずかり知らぬ事も、内々に運ぶ事が可能だからだ。
それに自分は、女子が喜ぶような場所を知らない。
フォルスへ移る前……
この王都でステファニーに仕えていた頃は、
外出といえば、仕立て屋や貴金属店への『使い走り』が多かったから。
『女子と一緒に行く店の知識』など全くナッシング、皆無なのだ。
と、ここでマドレーヌが「つつっ」と近寄り、ディーノへ耳打ちして来る。
「ディーノ、気を付けて」
「じゃあ、念話で話そうか」
「いいわ」
『何だい? どうした? 気を付けてって』
『タバサよ』
『タバサがどうした?』
『あの子……ひどいたかり癖があるから』
『ひどい? たかり癖?』
『ええ、クランでは一番下の妹分って事もあって……あの子、私と一緒にご飯食べた時とか、先手を打たれちゃうの』
『先手?』
『速攻でお店を出て、ご馳走様でしたあって、言われちゃう。それでね、いつも料金は私持ち』
『な、成る程』
『さっきジョルジエット姉も言ってたけど、私も噂を聞いたわ。ディーノは最近、いくつか大きな依頼を完遂して、結構稼いだでしょ?』
『ああ、少しな』
『だからよ! タバサに、たかられ過ぎないように気を付けて』
『りょ、了解!』
『私とニーナさんで、タバサには充分に気を付けるわ。あまりにも目に余るようならば、びしっ! と注意するからね』
『え? ニーナさんと?』
『ええ、ジョルジエット姉もあてにならないの。彼女もタバサ同様、ちゃっかり便乗するタイプだから』
『な、成る程。ありがとう、マドレーヌ』
『お、お安い御用よ』
『ああ、でも今日はさ、お前達全員に思いっきり楽しんで貰えるよう、俺、精一杯、頑張るよ』
『ディーノ……』
マドレーヌの忠告により、
タバサみたいな『ちゃっかり女子』も居ると、ディーノは学習した。
まあ、そういう事は、男女関係なく、結局は性格に起因するとも思う。
少しだけ余裕が出たディーノは、ようやく緊張がほぐれて来て、
歩きながら、僅かに微笑んでいたのである。
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