第75話「その話、乗った!」

約1時間後……

居酒屋ビストロ飛竜亭、片隅のテーブル席。


ディーノはクラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンのメンバー、

タバサと向かい合っている。


ニーナと話していた時、タバサはやりこめられ、動揺していたが……

今は落ち着き、逆に開き直っていた。


紆余曲折あり、予定は大幅に変わってしまったが……

当初の目的、ディーノと直接話す事は出来ている。

後は、相手のペースに乗せられず、呑み込まれず、マウントし主導権を握るだけだ。


先に、質問したのはディーノである。


「タバサ、お前も何故、俺に構うんだ?」


「構う? 全然違うわ、はっきりさせたいだけよ」


「はっきり? 何がどう、はっきりだよ?」


「ディーノ、貴方とステファニー様との関係よ」


またか!

という顔をディーノはした。

何度も同じ事を聞かれ……いいかげん嫌になって来る。


「おいおい……お前達は何でそう、同じ事ばっかり俺に聞いて来るんだ?」


「同じ事って……ディーノ、貴方は本当にステファニー様の婚約者じゃないの?」


同じ事を何度聞かれても、答えはもう決まっている。

巨木のようにゆるぎない事実だ。


「ない! 断じてない! あの方は元主人、俺は元使用人、ただそれだけの関係だ。つまり無関係! 今やお互いに、何の縁もゆかりもない間柄、赤の他人同士だ」


「へぇ! これ見ても、まだそんな事が言える?」


タバサは法衣ローブのポケットから、『一枚の紙片』を取り出すと、

高く掲げ、ひらひらさせた。


「何だ、それ?」


「て・が・み……ステファニー様から、私達メンバー宛へのね」


タバサがアピールしたのは多分、

クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデン宛へ届いた、

ステファニーからの手紙なのだろう。


タバサはその手紙を持ち出して来たのだ。

そして記載されている内容は大体想像がつく。


「それが何だっていうんだ?」


「まあ、読んでみて……激情に駆られて破り捨てるなんてなしよ」


「ちっ、しね~よ、そんな事」


ディーノが舌打ちすると、タバサは苦笑し、手紙を渡して来た。


顔をしかめながら、ディーノは受け取った手紙を読み始める。


親愛なるクラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンのメンバーの皆々様。

私ルサージュ辺境伯が一子、ステファニー・ルサージュはまもなく王都へ赴きます。


貴女達の元リーダー、ロクサーヌ・バルトも当然一緒です。


新参の私が鋼鉄の処女団アイアンメイデンの新リーダーになる事には、

大いに不満もあるでしょう。

だが、そこは理解し、了承してください。


また王都には私の婚約者ディーノ・ジェラルディが在住していると思います。


現在、私とディーノはわけあって、しばらくの間だけ、離れて暮らしています。


だけど、私とディーノは、『一生を共にしよう!』と固く固く誓い合った仲です。


もしかしてディーノは、私の婚約者である事を真っ向から否定するかもしれません。だが、彼の『照れ』だと認識してください。


では、皆さんとお会い出来る日を楽しみにしております。


ステファニー・ルサージュ


「なっ!? こ、これは!」


ディーノは全身を悪寒に襲われる。

とんでもない違和感を覚える。


「ね? ステファニー様が、はっきり言い切っているでしょ? ディーノ、貴方が婚約者だって」


「はぁ?」


「ステファニー様の言う通り、照れちゃだめ、だ~めよぉ」


「お前は、何言ってるんだ」


「だって! 文面見ても分かる通り、ステファニー様って、深窓の貴族令嬢らしくおしとやかで優しいんでしょ?」


クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンにおいて、

ステファニーと直に接したのはカルメンしかいない。

文面だけ読んだら、誤解するのも無理はない。


ディーノは激しく、「ぶんぶん!」と首を横に振る。


「んなわけないっ! これは全くステファニー様らしくない、真っ赤なニセ手紙だ!」


「真赤なニセ手紙? 何それ?」


「ステファニー様が演技して、ぶりぶり、猫被ねこかぶった手紙に決まってんだろ」


「演技?」


「それに、全然、照れなんかじゃない。俺は本当にステファニー様とは無関係なんだっ!」


ディーノがきっぱり言うと、僅かに風向きが変わった。

何と!

タバサが譲歩して来たのである。


「ふ~ん……ディーノ。貴方がそこまで言うのなら、一応信じてあげようか」


「別に、タバサ、俺の人生とは無関係のお前に信じて貰えなくても、俺は構わないけどな」


「うっわ、冷たい言い方。そういうわけにはいかないんじゃない?」


「何が、そういうわけにいかないんだ?」


「魔法使いとしての、私の勘! 貴方とステファニー様の運命は、がっちり、がんじがらめに絡み合う定めなのよ」


タバサの物言いを聞いたディーノは露骨に嫌な顔をする。


「がっちり、がんじがらめに絡み合う? おいおい! 頼むからやめてくれ、そういう言い方。まるで毒蛇どくじゃに締めつけられた、逃亡不可能なかえるの気分だ」


しかしディーノの抗議を聞いているのか、聞いていないのか、

タバサは全く関連のない言葉を戻す。


「うふふ、き~めた」


「何を決めたんだよ?」


「私もディーノに興味が出ちゃった」


「はあ? 俺に興味って、お前、何言ってるの?」


「ディーノ、貴方って、マドレーヌとジョルジエットの姉達ねえたちと口裏を合わせて、内々で上手くやろうっぜって、言ったんでしょ? そうでしょ? 正直に言いなさいよっ!」


「まあ、確かに言ったけど……」


「よっし! 私もその話、乗った!」


「はあ? お前も話に乗る? 何それ?」


「今後、私達クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンと、貴方は確実に共同で依頼を受ける」


「そうなりたくないが……仕方なく、そうなるかもな」


「仕方なく、そうなるかもな、じゃないわ。絶対にそうなるの! だからぁ、円滑な依頼完遂の為のチームワーク創り、そういう名目で今のうちからお互い分かり合い、裏で私とも仲良くしていた方が得策でしょ? 違う?」


「違わない。裏でお前とも仲良くする。それは確かに……正しい理屈だ」


「でしょ! でしょ! と、いう事でっ、明日は私達メンバー3人と、4人でデート決定よ! デートすれば、お互いが、すご~く分かり合えるわよ」


「な、何ぃ! お前達メンバー3人と、俺の4人デートぉ?」


「そうよ、ディーノ! 私タバサ、マドレーヌ姉、ジョルジエット姉と貴方の4人で、楽しく王都デートをするの。今日、私が助けて貰ったお礼も兼ねてね」


やはりというか……

タバサはメンバーの中で一番の『策士さくし』であった。


しかし!

ここでタバサにとって『計算外の事』が起こった。


「ちょ~っと、待ったぁ~~っ!」


大きな声の制止と共に、ひとりの少女が乱入したのである。


「あ、貴女は?」

「ニーナさん!?」


「私もそのデート、絶対に参加します!!」


こうして……

ディーノは生まれて初めてのデートが何と何と!

可愛い女子4人と行うという、両手に花の倍!

超が付くリア充の展開となったのである。

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