第74話「最後の使者④」
タバサが思いついた作戦とは……
料理の説明にかこつけ、『シェフ』のディーノと直接話す事である。
「我ながら上手い方法だ」と、内心、自画自賛する。
ぎこちないやりとりの末、ニーナは訝し気な表情で引き下がって行く。
一方、タバサは期待と不安を胸にひたすら料理を待った。
15分ほどして……
ニーナにより、頼んだ料理が運ばれて来た。
少し大きめの平皿がふたつ、タバサが座る狭いカウンター席の前に並べられた。
「わあ! す、凄い! な、何これ?」
まずは肉料理、少し大きめの皿にいろいろな手法の料理が少しずつ盛り付けられていた。
ソーセージ各種、串焼き肉、揚げ肉、茹で肉、ミートパイが全て一緒に皿に載っているのだ。
肉の種類も鶏、豚がバランス良く使用されている。
そして野菜料理こちらも同様に多くの野菜が載せられていた。
カブ、キャベツ、ニンジン、豆類などが、焼き、揚げ、茹で、サラダの4手法を使い、見栄え良く調理されていたのだ。
ニーナが胸を張って言う。
とても誇らし気である。
「当店のお薦め料理、『肉セット』と『野菜セット』の小です。他に大と中があります。お好みによって料理の種類と量を自由に変えられますよ」
「お、美味しそう! ……でも」
「でも?」
「『肉セット』と『野菜セット』の大中小って……折角の料理なのに、ネーミングが……ちょっとベタっていうか……ダサくない?」
タバサの鋭い突っ込みに対し、ニーナはむきになって反論する。
「し、仕方ありませんっ! この料理の、発案者兼調理人のたっての命名ですから!!」
「へぇ、発案者兼調理人って、誰?」
「ディーノさんですっ! あ!」
喋ってから、ニーナは「しまったあ!」という顔をした。
相手の誘導尋問に、「はまってしまった」と気付いたからだ。
「うふふ、成る程。やっぱり彼、料理
「してやったり!」にやっと笑ったタバサではあったが、
今の「料理も」というのは失言であった。
すかさずニーナが反撃したのだ。
勘の鋭さでは、魔法使いのタバサに全然負けてはいない。
「ちょっとお客様、ディーノさんがやっぱり料理も得意って……どういう意味なのですか?」
「え?」
意外とも言える突っ込みを受け、タバサは動揺している。
続けて、ニーナの『口撃』が続く。
「お客様は、先ほどからディーノさんの事をいろいろ聞きたがった上に、何かご存じみたいですが」
「い、い、いえね。最近ディーノ・ジェラルディは、山賊討伐の依頼をこなし、冒険者ギルドでは『凄腕』だって評判なの。そんな荒事が得意なのに、料理の腕も素晴らしいって、い、意外でしょ?」
タバサのコメントは、ニーナの問いかけに対し、全く説明になってはいない。
不審に思ったニーナは腕組みをしてタバサを見据える。
「すみませんけど……」
「え?」
「こういう事って、普段は絶対にやらないし、お店の方針にも反するんですけど」
「???」
「お客様!」
「は、はい!」
「貴女の……貴女の、お名前を聞かせてください」
ニーナが「ズババン!」と投げ込んだ『ど直球』に、タバサはたじろぐ。
「う、ううう」
「ほう! 口ごもっていますね……どうやら……ここで堂々と、偽名を名乗るほど、貴女は『悪女』ではないようだわ」
「…………」
反論出来ないタバサ。
ペースはもう完全に、ニーナのものである。
「お客様、実は……貴女の前に、女性冒険者がふたり……ディーノさんを訪ねて来ました」
「…………」
話が一気に核心へと近付いて行く。
同時にタバサへの包囲網が狭まって行く。
タバサの様子を見たニーナが「にやり」と笑った。
「お客様、どうしました? 大丈夫ですか? 額に汗が滝みたいに流れていますよ」
「…………」
「もしも間違っていたらごめんなさい。貴女はある冒険者クラン『最後のひとり』ではないのですか?」
「…………」
「ええっと、『最後のひとり』の名前は確か……タバ……」
遂にニーナが引導を渡そうとした瞬間。
タバサは覚悟を決めた。
「分かったわよ、貴女の言う通りよ」
「では……」
「確かに! 私がクラン
タバサがはっきり名乗った時、聞き覚えのある声が放たれる。
「ふうん……やっぱりな。……お前がタバサか」
いつの間にか……
タバサとニーナの傍らに、
コック服姿のディーノが腕組みをし、苦笑しながら立っていたのだった。
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