第71話「最後の使者①」
リーダー、ロクサーヌ・バルトのルサージュ家就職等々、いろいろあって、
一旦は、解散したクラン
だが、まもなく再結成の予定である。
クラン内では
魔法使いのタバサ。
年齢が一番下の事もあり、お約束の『末っ子ポジション』だ。
最近、彼女は違和感を覚えている。
姉と呼び慕う先輩ふたりの様子がおかしいのだ。
まず
最近、さしたる理由もなく「ぼうっ」としている事が多くなった。
加えて……
間もなく新リーダー、ステファニーを連れ、
ロクサーヌが王都へ帰って来るというのに……一切その話題に触れなくなった。
そして、
こちらも物思いに
そもそも魔法使いというのは直感に優れた者が多いという。
タバサも例外ではなかった。
ふたりの様子を見てピンと来た。
絶対に『男性絡み』だろうと思ったのだ。
ある日、タバサは、ふたりを誘った。
「クラン再結成に向け、大事な相談がある」と持ちかけたのである。
馴染みの某酒場で3人はテーブルを囲んだ。
ロクサーヌが南のフォルスへ旅立ち……
残った3人は、一緒に組んだり、ソロで依頼をこなしたりして、
地道に冒険者を続けていた。
そんなところへ、ロクサーヌから、
突然の王都帰還の連絡が入り、3人は気合が入っていたはずなのだ。
というわけで、タバサは単刀直入に突っ込む。
「ジョルジエット姉、マドレーヌ姉、一体どうしたの? ふぬけてさ!」
「…………」
「…………」
「あれだけ
「…………」
「…………」
「最近、ぼうっとしたり、ため息ばかりついて、心ここにあらずって感じだよ」
「…………」
「…………」
ここでタバサの鋭い直感がまたも働いた。
「あ~っ、分かったぞぉ!」
「!」
「!」
「ふたりとも気になって、私に内緒で、『ステファニー様の婚約者』に、会いに行ったでしょ?」
「どき!」
「どき!」
「で、ドジ踏んで、婚約者様に『決定的な弱み』を握られたと」
「タ、タバサっ!」
「な、何で分かるのっ?」
「分からいでか!」
「…………」
「…………」
「よっし! 私に任せなさい!」
「へ?」
「何? 任せるって?」
「当然! 目には目を!歯には歯を! やられたら倍返し!」
「どういう意味?」
「まさか……」
「私タバサが、婚約者様の『決定的な弱み』を握る!」
「えええっ! ディーノの弱点を~?」
「タバサ、やめた方が……」
「いえいえ! 今後の事もあるし、私達が『主導権』を握っておかないとダメですよ!」
「でも、本当にやめておいた方が良いと思う……」
「激しく同意!」
「あははははっ! みくびらないで! 私は
狙われたディーノが全く知らないところで……
『最後の使者』タバサは宣戦布告をしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
という事で、タバサは敵の本拠地『飛竜亭』へ向かっていた。
あれから……
タバサは厳しく『姉』ふたりを追及した。
結果、『ステファニー様の婚約者ディーノ・ジェラルディ』に関して、
いろいろと情報収集する事が出来たのだ。
歩きながら、タバサは得た情報を冷静に分析する。
その上で、傾向と対策を立てる。
まずディーノは口が上手い。
ディベートの達人らしいという事。
姉ふたりは両名とも口論で負けていた。
口で負けて相手のペースに乗せられてはいけない。
結論!
議論へ持ち込むのはNG!
そしてディーノは腕力も結構ある……ようだ。
マドレーヌ姉は腕相撲を、それも10回もして全敗したという。
まあロクサーヌ姉御ほどの力はないだろうが……
腕相撲みたいに『力勝負』を挑むのは愚の骨頂。
マドレーヌの姉御の。『二の舞』になるからこれもダ~メ。
その上、ディーノは魔法も使えるらしい。
まさか彼は魔法使い?
しかしステファニー様の手紙に、そのような事は一切記されていなかった。
そもそも王都の街中で、身を護る以外に攻撃魔法を使うのは、
法律違反になるから無し。
ではディーノの弱点はと……
タバサは、いろいろ思い浮かべる。
まず女子には基本的に手を出さないみたい。
それどころか先日、飛竜亭において、給仕担当の女子を守ろうと、
複数のふらちな冒険者どもを、徹底的にぶちのめしたという。
マドレーヌ姉相手の腕相撲の結果は、女子相手だからというわけではないらしい。
腕っぷしは本当に強いようだ。
それに……
マドレーヌ姉とジョルジエット姉は口を揃えて、
ディーノは思い遣りがあって優しいと言っていた。
特にマドレーヌ姉の様子が尋常ではない。
彼をやたら褒めるし、すぐ赤くなる。
あの様子だと、絶対ディーノに恋してる。
そんなの、だめよ、絶対にダメ。
男子に恋するなんていけない!
ステファニー様はあくまで『例外』だから良いとして……
女子同士の固い結束が乱れてしまう。
でも、これでは……弱点なんて、ないんじゃない?
逆に長所ばかりじゃないかしら?
強くて思い遣りがあって女子に優しい男子って、私も素敵だと思うもの!
いかんいかん、こんな事では……
私は、しっかりディーノの弱点を見極めないと!
ここでタバサは周囲を見回した。
いつの間にか、中央広場を横切っていた。
もう間もなく……飛竜亭だ。
ええっと……ええっと……
タバサは必死に考える。
そして、はたと思い当たった。
ステファニー様だ!
ディーノの弱点は……ずばり! ステファニー様なんだ。
ステファニー様が正式な婚約者であるはずなのに、指摘しても、
ディーノは、不自然なくらい「頑なに否定した」という。
魔法使いの勘がピンと来る。
そしてタバサは決めたのだ。
クラン
対ディーノ戦の『切り札』にしようと。
ここまで考えたところで、タバサは飛竜亭の前に到着した。
よし!
勝負だ!
タバサは大きく深呼吸すると、飛竜亭へ足を踏み入れたのである。
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