第70話「復讐⑧」

でっち上げの冤罪えんざいで、

グラシアン・ブルダリアス侯爵を獄死ごくしへ追いやった黒幕、

ウスターシュ・ロシュフォール伯爵が、王都の旧闘技場において逮捕されてから3日後……


ディーノ達は再び、妖精猫ケット・シージャンの『隠れ家』へ集合していた。


反逆罪で逮捕されたウスターシュの噂は……王都中を駆け巡っていた。


その状況を踏まえ……

ジャンがより詳しい情報を掴み、ディーノ達へ「披露するぜ!」と連絡して来たのである。


変身による入れ替わりが絡んで、

少々分かりにくい『ウスターシュ逮捕劇』の経緯はといえば、下記の通りだ。


……ウスターシュ・ロシュフォール伯爵の腹心、衛兵隊長ギョーム・アンペール騎士爵が連れていた少年従者と、

密会場所である『古びた宿屋』で入れ替わったディーノは、

ロシュフォール伯爵邸の廊下で待機していた。


宿屋で変身し、入れ替わってギヨームになりきったジャンが……

隙を見て、打合せ中にウスターシュをノックアウト。

新たにウスターシュに変身し、待機していたディーノを、書斎へ迎え入れた。


気絶したウスターシュの『心』を隅から隅まで読心魔法で読み切ったディーノは、

書斎の書庫から、隠してあった数多の『偽』手紙、同じく『偽』証拠書類を捜し出し、回収した。


そして、したためてあった『置手紙』を置き、

再びギヨームに変身したジャンと共に、何食わぬ顔でロシュフォール伯爵邸を出たのである。


ケルベロスには散々言われていたが……

グラシアン・ブルダリアス侯爵の仇を討つとはいえ、

ディーノは非情になりきれなかった。


黒幕たるウスターシュへ、武人として華々しく戦い、

生か死か、己の運命を掴み取るチャンスを与えたのだ。


しかし……

置手紙の『提案』を完全に無視されたディーノは、ウスターシュの『抹殺』を決断。


匿名で証拠品一式を国王の実弟で宰相のフィリップへ送った。

呼び出しを1日置いたのは、フィリップの反応を見極める為である。


兄の国王がお気に入りなのを良い事に、ひどく尊大なウスターシュ。


ウスターシュの日頃の言動を、非常に苦々しく思っていたフィリップは、

ジャンの㊙情報を聞くと、ディーノの期待通り、すぐ対応してくれたのである。


送られて来た偽手紙、偽書類等々の証拠を精査し、

ウスターシュによる『反逆の証拠だ』と見極めると……

腹心の副宰相副宰相のシルヴァン・ベルリオーズ公爵へ命じ、

ウスターシュを逮捕させたのである。


ちなみに……

ブルダリアス侯爵邸を探索したディーノが、必要以上に追及されないよう、

カモフラージュの犯人役?として、

闘技場へ現れた『謎めいた青年オーラム』も、ジャンが変身した姿であった。


今回、大が付く活躍を目の当たりにして……


ケルベロス、オルトロスの『魔獣兄弟』も、さすがにジャンには一目置く事となった。


まずは、ケルベロスが褒める。


『ジャン、見直したぞ』


続いて天邪鬼あまのじゃくなオルトロスも、


『ふん! まあまあってとこか……』


ふたりの『賛辞』を聞いてもジャンは大いに不満そうである。

ケルベロスへ鋭く突っ込みを入れる。


『おい、犬っころども、何か忘れてはいないか?』


『?』

『?』


首を傾げるケルベロス、オルトロスへ、ジャンは焦れて強調する。


『ほれ! 約束だよ、約束! 固い男の約束!』


ここまで言われて、ケルベロスはようやく思い出したらしい。


『おお、そう言えば忘れていた。確かに約束した。……尊称で呼ぶのだったな。ジャン……殿どの


しかしジャンは満足しない。

はっきりと言い放つ。


『あほう! 犬っころ! 殿どのはダメだ! 昔は尊称でも今は目下めしたに使う言葉にゃぞ! ちゃんと「さま」と言え! 様と!』


『ちっ、馬鹿ネコの癖にそういう「うんちく」を知っていたか。仕方がない……ジャン様』


『よし! それとオル公!』


大きく頷いたジャンは、次にオルトロスへ目を向けた。

ぞんざいな呼ばれ方をしたオルトロスが怒りで目をむいた。


『何がオル公だ、クソ猫!』


『この俺様が、わざわざオルトロスなんて呼べるか、オル公で充分にゃ。お前も兄と同じくジャン様と呼べ!』


『ふざけるな! 何でクソ兄貴がお前と交わした、くだらね~約束を、弟の俺が履行りこうせんといかんのだ』


『はあ……付き合いが悪い奴にゃ……兄が兄なら弟も弟、お前等には兄弟愛っていう崇高すうこうきずながないのかにゃ』


ジャンの屁理屈に対し、魔獣兄弟は躊躇ちゅうちょなく言い放つ。


『一切無い!」

『皆無だ!』


『どうどうどう!』


と、ここで『不毛な戦い』をディーノが遮断しゃだんした。


『ジャン、遊ぶのはそこまで、肝心の報告を入れてくれないか』


『了解にゃ! では報告を開始しよう。王宮に居る俺様の忠実な部下からの秘密情報にゃ!』


ジャンによれば……

連行されたあの晩からすぐに、ウスターシュの尋問は始まった。


最初は一切疑惑を否定していたウスターシュであったが……

ディーノとジャンが持ち出した数多の証拠を突きつけられ、厳しい追及を受けると、しらばっくれるのも限界であった。


遂に全てを白状したのだという。


最も重罪だと判断されたのは、当然ながらロドニアへの内通とクーデター計画である。

しかし外交的に微妙な部分もあり、ロドニアへは敢えて抗議の申し入れはせず、

『見せしめ』の意味でウスターシュのみ断罪されるようだ。


次いでグラシアン・ブルダリアス侯爵の謀殺事件も明らかになり、兄の国王に片棒を担がせた事から、フィリップは怒髪冠どはつかんむりくほど、激怒したらしい。


それ以外にも衛兵隊に目こぼしさせて、愚連隊と組み私腹を肥やしていた事 等々……ウスターシュの罪状は数限りなく出た。


多少重複する部分はあったが……

ジャンは3人へ詳細に報告をした。


結局……

事が事だけに、事実がおおやけになる正式な裁判は行われず、

ウスターシュは尋問の末、王都郊外の刑場で、極刑に処されるという事であった。


『こりゃ、因果応報って奴だな、ディーノ』


ケルベロスが呟いた言葉に同意し、ディーノは大きく頷いた。

 

しかし!

ジャンの話はこの報告だけには終わらなかった。

もっともっと大きなニュースが飛び込んでいたのである。


『ディーノ、まだ報告はあるにゃ』


『ん?』


『さっき入った大ニュースにゃ』


『え? さっき入った大ニュース?』


『ほれ、お前の天敵、猛女ステファニー様が来週あたり、王都へ来るってよ!』


 ステファニーが、王都へ来るってよ!


 いよいよ!

 いよいよ!

 で、ある。


 覚悟を決めていたとはいえ、ディーノにとっては大きな衝撃である。


『な、なんだって~!!!』


一難去ってまた一難。

「はあ~」と大きくため息を吐き、ディーノは思わず頭を抱えたのであった。

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