第67話「復讐⑤」
ここは王都の古参貴族家ロシュフォール伯爵邸……
屋敷の最奥にある、書斎の扉がゆっくりと開いた。
先ほど、忠実な配下である衛兵隊長のギョーム・アンペール騎士爵が訪れ、
打合せをしている。
開いた扉からは、
「おい! 誰か居ないか? 廊下に待機させているギヨームの従者を書斎に入れろ!」
主の命令は絶対。
その上、即座に遂行する。
それが、ウスターシュが当主になってから徹底される、ロシュフォール伯爵家の方針である。
護衛として詰めていた騎士のひとりがすっ飛んで来て、直立不動で敬礼すると、
すぐにギヨームが連れていた少年従者を連れて来た。
廊下に待機して従者は、屋敷へ来た時から法衣姿であり、
なので、顔は全く見えなかった。
平時なら、顔を隠す行為に対し、不審感もあったやもしれない。
しかし、慌てていた騎士は少しでも早く主の命令を遂行しようと、そのまま少年従者を連れて来た。
歩く少年従者を急かしながら、騎士が見やれば……
ウスターシュは書斎の扉を開けたまま、足踏みをしながら待っていた。
いらいらして焦れているのがひと目で分かる。
騎士は更に慌てて、従者を急かした。
速足で騎士と従者が書斎の扉の前に来ると、相変わらず不機嫌そうな表情のウスターシュは少年従者へ対し、
その上で騎士へ命じる。
「おい!」
「は!」
「俺は小一時間ほど、ギョームと大事な打ち合わせをする。しばらくは誰も書斎に近付けさせるな」
「は! かしこまりました、閣下」
「うむ! 良いか? 必ずだぞ」
ウスターシュが念押しすると同時に、
ばたん! と扉が閉まった。
主の厳命を受けた騎士は急いで書斎の前から離れて行く。
一方、少年従者を部屋に引き入れたウスターシュは「にやり」と笑った。
少年従者は頭衣を外し、隠していた素顔を露わにする。
『へへ、どうだい、ディーノ。俺様の首尾は?』
『ああ、ばっちりだよ、ジャン』
そう……頭衣を取り、笑顔を浮かべる少年従者は本物と入れ替わっていたディーノであった。
そして、「にやり」と笑ったウスターシュは、ギヨームに変身し、ロシュフォール伯爵邸へ入り込んだ
ちなみに『本物』のウスターシュはジャンにKOされ気を失い、書斎の
ジャンは気を失っているウスターシュを見て、不快そうに鼻を鳴らす。
『ふん! きつく念押ししておいたから、こいつの手下どもは暫くこの部屋へ近寄らねぇ』
『だな!』
『ディーノ! さっきのギヨーム同様、ウスターシュの心もさっさと読んじまえ、そして弱みをばっちり握るんだ』
『了解!』
ジャンに促されたディーノは大きく頷くと、
読心魔法発動の為、
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約1時間後……
書斎の扉が開いた。
出て来たのは衛兵隊隊長のギヨーム・アンペールである。
後から書斎に入った、 頭衣をすっぽり被った法衣姿の少年従者を連れている。
先ほど従者を連れて行った護衛役の騎士が駆け寄って来る。
「ギヨーム様」
「何だ?」
「伯爵閣下とのお打合せは、もう終わりでしょうか?」
騎士が尋ねれば、ギヨームは無表情で淡々と、
「ああ、無事に終わった」
と答えを戻した。
続いて、騎士は主の様子も尋ねる。
「それで閣下のご様子は?」
「ああ、まだ書斎にいらっしゃる。懸案事項が多く、疲れたので少し眠るとおっしゃった」
ギョームの言葉を聞いた騎士は、
「で、では寝室のご用意を」
と、申し入れをしたが……
ギヨームは首を横に振った。
「いや、事務処理の残務がまだあるから、書斎のソファで仮眠すると仰っていたぞ。1時間くらい放っておくようにと私が伝言を託された」
「な、成る程、かしこまりました」
「うむ、私の方は閣下から大至急の命令を受けた。すぐに目的の場所へ向かわねばならぬ。だからもう失礼するぞ」
「は、ではお見送りを」
「いや、見送りは無用だ。すぐに出発するからな。いいか、閣下からの伝言は確かに伝えたぞ」
「は! 承りました! では私もこちらで失礼させて頂きます」
騎士の言葉が終わらないうちに、ギヨームは足早にロシュフール邸を出た。
そして待たせてあった馬車に、従者と共に乗り込むと、
いずこへともなく走り去ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます