第60話「罠という名の旅④」
「がはぁああああああああああああああっ!!!」
「がはぁああああああああああああああっ!!!」
落雷のような凄まじい咆哮と共に、「ごう!」と紅蓮の炎が天へ噴き上がった。
「びりびり」と大気が振動し、地面までもが激しく揺れる。
ケルベロスとオルトロスの兄弟が連携し、襲撃者達の背後から、
凄まじい脅しをかけたのだ。
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
襲撃者達は声にならない悲鳴をあげ、「ばたばたばたっ」と倒れてしまった。
殺虫剤にやられた小虫のように……
ディーノが改めて見やれば、元気に動いている者は……皆無だ。
山賊の首領バスチアン確保の際、相手は予想外の100人以上、
一方、今回の襲撃者はたった12人だけ。
常識的に考えれば、12人も居るのに、
「たった〇人だけ」という感覚になっているのが、
ディーノ自身は好ましくもあり、同時に怖ろしくもある。
油断は禁物とか……
勝って兜の緒を締めよ……とも言う。
慢心は絶対にいけないと、ディーノは改めて気を引き締める。
丁度、そこへケルベロス達が戻って来た。
現在の風貌は、ほぼ灰色狼である第二形態だ。
よし、行動開始!
『万が一の逆襲』も想定し……
ディーノはゆっくりと慎重に近付いて行く。
ケルベロス達と相談して決めたように、今回もピンポイント作戦を実行する。
雑魚はさておき、敵のリーダーから情報を収集し、必要であれば確保するのだ。
ここでディーノは読心魔法を行使する。
その上で、リーダーを探せば……居た。
集団のやや後方に倒れている、
名前は……ブリアックというらしい。
まずは読心魔法を使ってみる。
ブリアックは気絶しているせいか、心が読みにくい。
先日のバスチアン確保の際も、同じような事があった。
まだまだディーノがこの魔法に未熟なせいかもしれない。
更なる訓練が必要であろう。
ここでディーノは、ぱっと良策を思いついた。
ケルベロス達に周囲を警戒して貰った上で、夢魔法を行使するのだ。
ディーノはやや後方に控えたケルベロス達へ呼びかける。
『ケルベロス、オルトロス』
『おう!』
『応!』
『良い機会だから、これから夢魔法を使ってみる。多分その間は無防備になるから、俺の身体を守っていてくれないか』
『任せろ、戦友!』
『了解だ、戦友!』
ケルベロス達の返事を聞くと同時に、
次にディーノは見守っているであろう、ロランへと呼びかける。
ロラン
兄ぃの言った通り、俺は今は亡きグラシアン・ブルダリアス侯爵の
そして侯爵の仇を討つのと自分の身を護る為に、伝授された夢魔法を使うよ!
どうか、見ていてくれ!
ディーノは軽く息を吐いてから、魔法使いが使う呼吸法へと移る。
まずは呼吸法で体内魔力を高め、精神を集中させ、高値安定させるのだ。
その上で言霊を詠唱し、発動する。
心の中で、ディーノは朗々と詠唱する。
『ブリアック・バズレールよ、汝の見る
瞬間!
ディーノの心は、襲撃者のリーダー、ブリアック・バズレールの心へ跳んでいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロランは特殊な方法で、3つの魔法の極意をディーノの心へ刻み込んだ。
だから発動は何とか可能でも、円滑且つ効果的な使い方は、一朝一夕には上手くいかない。
それは今迄行使したふたつの魔法の上達ぶりを見ても顕著である。
それは仕方がないかもしれない。
いくら天賦の才を持つ術者だとしても、いきなり完璧に未経験の魔法を使いこなす事は無理だ。
初心者は、経験豊富なベテランに最初は後れをとるものだ。
但し天才と呼ばれる者は二度目以降の経験から得る経験値が全く違う。
ベテランが10回で究める技を半分の5回、もしくはそれ以下で習得し、
閑話休題。
現実と夢の世界の間には不可思議な異界が存在している。
この異界は何もない、真っ白な世界である。
ひと言でいえば無機質。
しかし異界を飛ぶディーノには何となく分かった。
この異界は相手に見せる夢の世界へ行くまでの大事な導入部分の世界、
すなわち、音楽で言えばイントロダクションなのだと。
そしてこの異界でディーノは、自分が為すべき事も何となく分かって来る。
為すべき事とは、相手に見せる夢を具体的に設定する事である。
人外の夢魔が己の得意なフィールドへ被害者を導くように……
夢魔法の術者が思い描いた夢を、この異界でイメージすれば、
相手に対して自由自在に見せる事が可能なのだ。
そう、『内なる声』が囁いて来る。
そもそも……
夢というものは実際の現実世界と著しくかけ離れている場合が多い。
また誰もが、曖昧で偽りの世界だという常識というか、強い思い込みがある。
で、あれば現実とは思い切りかけ離れた設定。
つまり、相手が目覚めた時に、
「これは絶対に現実ではない」と思わせる光景を見せた方がベストだ。
ならば!
ブリアックに見せる夢は決まった!
ディーノは面白そうに、ニヤリと笑ったのである。
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