第30話「和解と事前打ち合わせ」
この日……
またも
当然、泊まったのはガストンの私室だ。
これまた前の晩のように深夜半ばまで、ふたりでいろいろと話してしまった。
ちなみに……大泣きしたマドレーヌは、ニーナの部屋に泊まったと聞いた。
閑話休題。
ディーノはふたりだけになってから、改めて紹介状の礼をガストンへ伝えた。
対して、ガストンはディーノの報告を聞き、とても驚いてしまった。
ランク判定登録の試験官をじきじきにミルヴァがやった異例の対応は勿論、
ディーノがそのミルヴァと実技試験で引き分け、結果ランクCに、
それも限りなくBに近い、スペシャルな認定をされた事に驚きを隠さなかった。
「おいおい! ディーノ。お前……ホントに凄い奴なんだなぁ」
「いえいえ、そんな……全然大した事ないです。ミルヴァさんの攻撃を避けるだけで精一杯、全然打ち込めませんでしたから」
「う~ん、だがほぼ素人のお前がランクSのミルヴァと引き分けたんだろ? そこまで
「わ、分かりました」
ディーノは素直に返事をした。
正直、今までの実績は殆ど他力本願的である。
己の実力以外の要素が大きすぎるから、けして威張れるモノではない。
謙遜するのが当たり前なのだが、ガストンには嫌味に聞こえたようだ。
しかし尊大にならず謙遜し、控えめにするのは大事だと、
亡き父クレメンテから教えられていたし、考えを変える気は全くない。
だがガストンの言う事も一理ある。
とても勉強になったと思う。
そんなこんなで……
ダレンからは冒険者としての『うんちく』等を改めて教えて貰い、とても為になったのだ。
翌朝早く……
昨日同様、ディーノはガストンと共に市場へ行き、仕入れを含めた買い出しを行った。
そしてニーナ達スタッフ女子軍団と朝食を摂った。
唯一違っていたのは、あのマドレーヌが加わっていた事である。
同性同士なのは勿論、大泣きした事で、同情され見直された事も大きかったようであるが……
マドレーヌは飛竜亭に勤めるスタッフ女子達と完全に打ち解けていた。
部屋に泊めてくれた関係から、ニーナとは特に仲が良くなったようだ。
なんやかんやでにぎやかな食事も半ばを過ぎ、良いタイミングと見たのか……
マドレーヌは席を移り、ディーノの傍へ来た。
そしてふたりは今後の打合せをしたのである。
マドレーヌは改めてディーノにとって貴重な情報を提供してくれた。
「良いかな? ディーノへは、
「おう! 頼むよ、マドレーヌ。大いに助かる」
ディーノが微笑むと、マドレーヌも笑顔で返してくれた。
「うふふ♡ 鋼鉄の処女団のメンバーは昨夜話したけど、全員女性。私以外のメンバーは、あと3人居るの」
「3人?」
「ええ、シーフの私以外に、
「成る程、その4人にステファニー様が加わった計5名が、新生『鋼鉄の処女団』ってわけだな」
「その通りね。ディーノの話を聞く限りステファニー様って、凄いし、強そうだわ」
「ああ、マドレーヌの想像以上にモノ凄いし、そこらの騎士が逃げ出すくらい、強いと思うよ」
「うっわ、本当に? まあ、ステファニー様は貴族だから身分の関係はあるんでしょうけど……」
と、マドレーヌは言い、軽くため息をついた。
「ロクサーヌの
「まあな……想像以上とか、想定外って言葉が巷にはあふれてる。誰もが簡単に使いすぎる。用心し過ぎるくらいで丁度良いと俺は思うよ」
「納得! じゃあ、改めて確認。私と貴方はギルドでも、道で会っても、全く知らんふりをする。で、連絡方法は?」
「とても良い方法があるよ。口を押えてくれないか?」
「え? 口を?」
「俺の話にお前が驚いて、大声が出るのを防ぐ為だ」
「驚いて大声を? う~ん。何が何だか、わけ分からないけど、良いわ、押さえたよ」
「よし、行くぞ。もう一度念を押す、口をしっかり押えておけ。けして大声を上げるなよ」
「ど、どうぞ」
『マドレーヌ』
「え! きゃ! な、な、何ぃ?」
ディーノの言う通り、マドレーヌは思わず大声を上げそうになった。
そんなマドレーヌを見て、ディーノは微笑む。
『これが念話だ、声を使わず、話す魔法なんだ。マドレーヌも心を使って俺へ話しかけてみろ』
「えっと……『こう?』」
『ああ、しっかりマドレーヌの声が聞こえたぞ。波長もしっかり俺の心へ刻まれた。但し、お前は念話を使えない。だから、他人とは話せず、俺と話す場合のみという事になる』
『ね、ね、念話ぁ!! 心を使ってって、ま、まさか上級魔法使いの中でも一部の人しか使えないって奴? あ、あんた! ま、魔法使いだったのぉ!?』
『まあ、はっきり言えばそんなもんだ』
『まあ、はっきり言えばそんなもんだって……凄くあっさり言うわね』
『はは、軽いかな、俺』
『もう! 呆れたわ……で、でも聞こえる? 私の声?』
『聞こえる! 大丈夫だ』
『よ、良かったぁ!』
『俺の方で、お前の心の波動に合わせたからしっかり聞こえるよ、今後は内緒で連絡を取り合う時は念話で行こう』
『りょ、了解! ……念話って、凄く役に立ちそうね』
『多分、遠距離通話は大丈夫だけど、俺からの一方通行になる可能性が大かもしれないな』
念話を交わすのは傍から見れば、ただ黙って見つめ合っているだけだから、会話しない第三者には怪しまれてしまう。
ニーナあたりにチェックされ、怒られたら敵わない。
愚図愚図してはいられない。
ディーノは手短にと頼み……
マドレーヌから様々な基本情報に加え、『鋼鉄の処女団』の新たな本拠となる、
貴族街に手配された新たな屋敷の場所も教えて貰った。
これで主な情報は得る事が出来た。
後は、己の心身を鍛えながらステファニー襲来を待つだけ……
悪鬼のようなステファニーが脳裏にはっきりと浮かぶが、
逃げるつもりは全くない。
『じゃあ、今後は宜しく頼むぞ、マドレーヌ』
ディーノはそう言うと、ゆっくり拳を突き出した。
『了解!』
マドレーヌも同様に拳を突き出す。
最近、冒険者達の間で流行っている、フィストバンプという行為だ。
マドレーヌの拳が触れた瞬間。
ディーノは相手の拳の感触とぬくもりから、
新たな仲間を得た事をしっかり実感していたのだった。
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