第27話「完全勝利! そして尋問開始!」

デマ――流言飛語をまき散らしたとんでもない女性冒険者を詰問した結果、

腕相撲勝負をする事となった、この日……

居酒屋ビストロ飛竜亭は営業時間を切り上げ、早仕舞いした。


事情を聞いたガストンが気を利かせてくれた。

何かヤバイ話を含め、ディーノの素性や余計な情報が必要以上に広まらないよう、特別に人払いしてくれたのである。


しかし飛竜亭にはまだ多くの人間が残っていた。


当事者のディーノは勿論、

ニーナ、スタッフ女子軍団、店主のガストンまでが女性冒険者を取り囲んでいた。

特にニーノや女子達は、このままではスルーなど出来ないと、

強硬に『勝負の見届け』を、ディーノへ要請したのである。


これでは殆ど、集団によるひとりの吊し上げにしか見えない。

しかもとても大袈裟でもある。

だが、それくらい、ディーノにとっては『大きな問題』であった。


当然、『噂の内容』がである。

自分には「遠くに残して来た婚約者が居る」などという、

根も葉もない噂話がヤバいのだ。


確かに……

「遠隔地に愛する婚約者が居ながら、放っておいて王都で他の女子とちゃらちゃら遊ぶ」

もしもそんな事をしたら、「人間として終わっている」……とディーノは思うから。


つまり……このまま噂が本当だと広まったら、「ディーノは人間の屑」だ……

そのような状況になれば、王都に出て来てからの折角の『幸せ』が崩壊する。

更に「ディーノの人間性自体も大いに疑われてしまう」恐れがある。


本当にとんでもないとディーノは思う。

 

確かに、いつかは愛し愛し合う『想い人』とは巡り会いたい。

だが!

現在は「婚約者など、絶対に存在しない!」のに。


確信出来る。

 

そのように馬鹿な事をほざく者はこの世界には、たったひとりしか居ない。

ディーノのかつてのあるじステファニー・ルサージュ!

100%間違いない。


ディーノはこの前芽生えたおぞましい予感が、現実のモノになるのを感じて来ている。

そう、あのステファニーがこの王都へ乗り込んで来るという悪夢がだ。


今更ながら後悔していた。

つい、いい気になって、

あのステファニー宛へ置いて来た「ざまぁ」の手紙にあんな事を書かねば良かったと。


とんでもなくステファニーを刺激してしまったかもしれない。

愛し愛される『想い人』を探す旅に出るなどと、「ざまぁ」してしまった……


しかし、ディーノは切り替えた。


まあ……

いつまでも済んだ事を「ぐだぐだ」言っていても仕方がない。

降りかかる火の粉は打ち払わなくてはならない。


ディーノの視線の先には木製テーブルがひとつある。

女性冒険者が不貞腐れた表情で、腕を板面に載せていた。

もし自分が勝っても弱みを握られてしまうと、思っているのに違いない。


ディーノは言う。

勝負をする前に告げておかねばなるまい。


「おい、あんた安心しろよ」


「…………」


「もし俺が負けても約束は守る。マスターへは何も言わない。それに王都からも出て行く」


ディーノがそう言うと、女性冒険者はポカンとしたが……

何故か、慌て始める。

女性冒険者には……複雑な事情があるようだ。


「ディーノ! お前が王都から出て行くだと!? そ、それは困る!」


慌てぶりから、何かあるとディーノは感じた。

でも、とりあえず勝負に勝つのが先だ。


「困る? はは、いろいろと、ややこしいな」


「うう……」


「さあ、勝負だ!」


ディーノは対面に置かれた椅子に座ると腕をまくった。

指輪の力だろうか?

冒険者へ対峙した時のように力がみなぎる。

負ける気が……全くしない。

 

ふたりが席に座り直し、準備が整うと、早速勝負が開始された。


ダン!

みしっ!


瞬殺!


結果は、ディーノの圧勝。


やはり冒険者を一撃で倒したのは伊達ではない。

錯覚でもなかった。

これまでのディーノより遥かにパワーアップしている。


しかし女性冒険者も簡単にめげなかった。

再戦をせがんで来る。

相当な負けず嫌いのようだ。


「も、もう1回!」

「了解!」


ダン!

みしっ!


「う~、今度は左腕で勝負だ」

「いいよ」


本当は1回だけの勝負という話であったが……

ディーノは全く不平不満を言わず、何度でも気持ち良く付き合ってやった。


最終的に、ディーノと女性冒険者の間では10回の勝負が行われた……

結果、全てデイーノが圧勝した。

パーフェクト!

完全勝利である。


完敗した女性冒険者は……

まるで信じられないという眼差しで、笑顔のディーノを見つめていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


という事で……

女性冒険者に対する尋問が勝負に引き続き開始された。


質問者は当事者のディーノである。


「さあ、冒険者女子Aよ、まずは名前とプロフを教えて貰おう」


「…………」


「所属クランがあるのなら、そっちの名前も一緒にな」


「…………」


「おいおい、素直に言わないと、本当にマスターへ言い付けちゃうぞ」


「うう……」


無言で唸る女性冒険者……

頑として言いたくないという抵抗感、証言一切拒否の雰囲気に満ち溢れている。


その時!

突如、ガストンが叫ぶ。


「うお! 思い出したぞ!」


「何? ガストン爺、何を思い出したの?」


と、ニーナが尋ねれば、


「当然! この子の身元さ、顔に見覚えがある!」


「…………」


「ええっと、名前は忘れたが……確か……お前、『荒れ狂う猛獣』ロクサーヌ・バルトのクランに居た子だろう?」


「「「「「『荒れ狂う猛獣』!!!??」」」」」


ロクサーヌの『ふたつ名』を聞き、ニーナ達が驚き、息をのむ。

沈黙が飛竜亭を押し包む。


「…………」


対して、肯定も否定もせず、女性冒険者は相変わらず黙っている。


しかしディーノは『ロクサーヌ』という名を聞き、すぐに気付いた。

やはり……ステファニーが絡んでいると。


「確か……クラン名は……と」


と、ガストンが思い出そうとした時。

女性冒険者が叫ぶ。


「ア、鋼鉄の処女団アイアンメイデンよ!」


どうやら女性冒険者は覚悟を決め、白状する気になったらしい。

そして『鋼鉄の処女団』というのが、彼女が所属するクランのようである。


ガストンもクラン名を言われ、一気に記憶が甦ったらしい。


「お~! そうだよ! 『鋼鉄の処女団』だ! 確か、女性だけのクランだったぞ」


ガストンが同意したのを見て、『冒険者A』は……覚悟を決めたらしい。

素直に話し始める。


「うむ、その通り、クランメンバーは私を含め、全て女性だ」


「う~ん、でも変だな? 俺の記憶だと、そのクランは既に解散したはずだ」


ガストンが首をひねると、冒険者女子がすかさず否定する。


「いや……『鋼鉄の処女団』は、これから華々しく復活する。新メンバーを入れ、再結成されるのだ」 


「新メンバー!?」


今度はディーノが驚いた。

嫌な予感がする。

不安が黒雲のように心へ広がって来る。


「お、おい! 冒険者女子A! そ、そ、その新メンバーとやらの正体を教えてくれっ!」


「分かった! 新メンバーは当然女性、そしてロクサーヌ様に代わり、新たなクランリーダーともなる」


「で、な、名前は!」


「うむ! 彼女の名はステファニー、ステファニー・ルサージュ様だ」


「はい~っ!?」


「ディーノとやら、ステファニー様から頂いた手紙を何度も見たのだが、正真正銘、『お前の婚約者だ!』とはっきり断言しておられる」


「バ、バカなぁぁ」


やはり……予感は当たった。

予感は黒雲を噴出させ……底知れぬ闇の確信へと変わって行く……


ステファニーがこの王都へ来る!

もしかしたら、俺はフォルスへ連れ戻され、そして!

……あの悪夢の日々が戻って来る!?


いくら覚悟をしていたとはいえ、

実際に聞くと、相当きつい!

きつすぎるっ!


ディーノは思わず、頭を抱えてしまったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る