第25話「仲直り」
ミルヴァに礼と辞去の意を告げ、ディーノはマスター室を後にした。
持参したガストンからの紹介状と引き換えという形で、
ポケットの中には作り立てのギルド発行『ランクC所属登録証』がある。
こうして……
先ほどのミルヴァの言葉通り、ディーノは晴れてギルドの正式な所属となったのだ。
この所属登録証は『王都の市民証』も兼ねている。
なので、衛兵から「おい、お前、どこの何者だ?」と職務質問をされても、
しっかりと所属先及び身元を明かし、不審者ではない事を証明出来る。
一緒にギルドマスター室を出たサブマスターのブランシュは、
魔導昇降機でディーノを1階フロアまで送ってくれた。
そして別れ際に改めて「何があっても生き抜くように」と励ましてくれた。
ディーノはブランシュにも礼を言い、お辞儀をすると……
今度は受け付けカウンターへ近付いた。
受付けには来訪の時同様、ネリーが居た。
しかし彼女は顔を伏せ、ディーノと視線を合わそうとしない。
ディーノが魔導昇降機から降りて来るのを見ていたので、存在は認識しているはずだ。
しかし、ディーノは全く気にせず、おもむろにカウンターへ近付いた。
相手の名を呼びかける。
「ネリーさん」
「…………」
「ごめんなさい、俺の紹介状を対応して頂いた『とばっちり』で、ネリーさんにはいろいろご迷惑をおかけしました」
「!」
ディーノが謝罪した瞬間。
ネリーは「びくっ」と身体を震わせた。
けして自分の過失ではないのだが……
何故かディーノは申しわけない気持ちになる。
ディーノは先日までルサージュ家へ仕えていた。
厳しかった『宮仕え』の記憶が甦って来る。
理不尽に怒られた経験が数多ある。
というか、ステファニーからは毎日こじつけともいえる、不可思議な理由で激しく叱責されていた。
謂れのない理由で一方的に責められたネリーは理不尽さを感じ、
得も言われぬ不安を抱えていたはずだ。
だったら自分が謝罪し、声をかけるだけでも違うはず……
ネリーも少しは気分が晴れると考えたのだ。
「俺、この度、正式にギルド所属になったんです。今後はネリーさんにもお世話になるから宜しくお願いします」
「…………」
「あ、これ以上心配する事は何もないですよ。ネリーさんは全然悪くないですから」
「…………」
「マスターの機嫌はとても良かったし、俺が待たされたのは単なる連絡ミス、つまり手違いだって、分かっていたみたいですからね」
「…………」
「と、いう事でこんな未熟者ですが、改めて! 明日以降、ランクCの新米冒険者ディーノ・ジェラルディを宜しくお願い致します」
ネリーはずっと視線を合わさず、無言であったが……
ディーノは構わず、伝えるべき内容をしっかり伝え、深く頭を下げた。
「じゃあ……失礼します」
最後に辞去を告げたディーノは
と、その時。
「ディーノさん! ま、待って!」
挨拶をし、去ろうとしたディーノを、慌てて呼び止める声がした。
すぐ分かる。
これはネリーの声だ。
「え?」
「わ、私こそ、ご、ごめんなさいっ!」
振り返ったディーノの視界へ入ったのは、
辛そうに顔を歪め、目に涙をいっぱい溜めた、ネリーの泣き顔であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1時間後……
ネリーと完全に和解したディーノは、冒険者ギルドを出て、英雄亭へ向かっていた。
ディーノは泣きじゃくるネリーに対し、
「貴女は、真面目にちゃんと仕事をしただけだ」そう優しく慰めると……
彼女はようやく笑顔を見せ、ディーノをしっかりフォローする事を宣言してくれた。
さてさて!
試験等に時間が結構かかってしまったので、もう既に夕方である。
ディーノが見やれば……
太陽が真赤に焼けた西の空から、ゆっくりと地平線へ向かっている。
今日は、またまた『良き出会い』があった。
ミルヴァ、ブランシュ、そしてネリー……
3人の笑顔を思い出し、ディーノはとても嬉しくなる。
全員、ディーノを熱く激励してくれた。
逆に、もしも彼女達が困ったら絶対力になりたいと思う。
唐突に……
亡きロランの言葉がディーノの心に甦って来る。
『これから君を慕って周りにはたくさんの人々が集まって来るだろう。誰もが君を精一杯支え、逆に頼りにもする』と……
うん!
ロラン
所詮、人はひとりぼっちじゃあ、生きていけない。
労わり支え合う、そうしながら生き抜いて行く……それが
「つらつら」と考えているうちに、飛竜亭へ到着した。
ディーノが宿を探さず、飛竜亭へ来たのは、無事冒険者になった事をガストンへ報告する為である。
ガストンの紹介状があったおかげで、ミルヴァ達と上手くやりとり出来たから……
そしてニーナへも、スタッフ女子達へも……
あと少し頑張れば、上級ランカーへ昇格出来るランクCへ認定されたと報告すれば、全員喜んでくれるはずだ。
そして少し虫の良い事も考えていた。
昼間立て込んだので、時間が押してしまった。
その為、宿を探す時間がなかった。
ディーノは今夜も泊る場所を確保していない。
だから、ガストンへ頼み込み、
またも飛竜亭へ「ちゃっかり泊めて貰おう」と思っていたのだ。
どうせ、いろいろと報告もあるし……
荷物も預けっぱなしだし……
店を手伝った上で、ガストンさんへ頼んでみようか……
ディーノは顔をほころばせながら、飛竜亭へと入って行った。
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