最後の料理

いちはじめ

第1話

               最後の料理

                            いち はじめ


 廃墟になった都市から脱出して一年、街を求めて男は一人北上したが、小さな集落さえも見ることはなかった。

 男は今、煙が上っている場所に向かっていた。街があるのかもしれない。男の心に希望の灯がともったが、近づくに連れ、その火はしぼんで行き、そして消えた。

 その場所には巨大な建物があったが、既に崩壊しており、上部は鉄骨がむき出しになっていた。周囲には大爆発の名残なのか、大きなコンクリートの破片が散らばっている。人影もなく、そして建物から吹き上がっていたのは煙ではなく蒸気だった。熱泉でもあるのだろうか。

 気落ちしても仕方がない。ここで使えるものを探して、次に進まなければならない。

 建物に入り、食料確保のため、食堂と思しき場所を探った。しかし大半のものは腐っていて、口にできるものはなかった。だが厨房の倒れた棚の引き出しの奥で、長細い紙包みを見つけた。それはそうめんだった。色のついた二、三本の麺が食欲をそそった。もう随分料理されたものを口にしていない。そう気づくと、無性に温かいそうめんを食べたくなった。

 男は蒸気を出している熱源の近くで、そうめんを茹でることができるかもしれないと思い、建物の中心部へ分け入っていった。

 しかし男は気付くべきであった。この建物の入り口に、原子力発電所と書かれていたことを。

(了)

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