第27話 閑話 異世界デート
「ここが異世界か。やはり、地球とは違うな」
天下は先日の約束を果たすべく、エマと一緒に異世界アウスビドンにやって来ていた。
地球の服はデザインは違えどほとんどが見慣れている。いくらブランドに価値があっても、今までの歴史の積み重ね。
驚かせるという意味では異世界の製品に敵わない。
「ということで、ここが俺が最初に訪れた町、イドリッシュだ」
「いいなあ、長閑だ。とても、この間まで、ドラゴンの脅威に晒されていたとは思えん」
町を悩ますドラゴンが退治されたのはつい先日のこと。町はまだまだ浮わついた雰囲気が漂っている。
それ以上に田舎特有ののんびりした雰囲気が勝っている。
「折角異世界まで来たのに、人間しかいないのは残念だ」
「ドンケルハイト大陸に行くのは、おいおいな」
ドンケルハイト大陸以外には人間しかいない。エルフ、ドワーフ、獣人に会いたいのは山々でもいないの仕方ない。邂逅するのは、また別の機会になる。
「異世界観光しながら、服を買いに行こう」
「うむ、楽しみである」
早速、二人は異世界観光を楽しもうとするのだが、ひとつ困ったことが発生する。
「天下よ、あたしこっちの言葉がわからない」
「…………あっ、しまった!」
天下は勉強したことで会話も読み書きも問題ないが、エマは全く勉強していない。喋れないのは当然だ。
「仕方ない。今日は俺が通訳するしかないな」
「いや、それだとあたしが100%楽しめない」
「でも、喋れないのはどうしようもないだろ?」
「簡単なことさ。今、覚えればいい」
「……はぁぁぁぁ?」
エマは周囲の人物を観察して魔法を構築していく。大陸で現在進行形で人々が口にしている会話情報を収集し、集めた情報を徹底的に分析していく。理屈も理論もない力業、総当たりで解析する。
解析したデータを頭の中にインプットしたら、言語の習得が完了である。
魔法の造詣に詳しい天下でもお手上げ。やりたいことは理解しても、再現するのは不可能。
久しぶりに最強の幼馴染みの規格外を痛感する。
「よし、習得完了。これで日常生活レベルなら問題ない。惜しむらくは細かいニュアンスまでは解析できなかったことだな」
「いやいやいやいや、日常生活レベルの言語の習得を数秒で終わらせるのは異常中の異常だから。普通は知らない言語の習得は2000時間くらいかかるんだぞ。まあ、便利だからいいけど」
エマが理不尽なのはいつものこと。魔法のゴリ押しでなんでもできてしまうのが、灯火エマメリアである。
普段はやらないだけで、やろうと思えば世界征服も夢ではない。
「それで、まずはどこから行こうか。お楽しみを最後に取って置くのもいいが……」
「先に服を買おう」
「なぜだ?」
「注文してから、すぐに手元に来るかわからない。手直しが必要なら時間がかかる。先に済ませて、残った時間でゆっくり町を散策しよう」
既製品でもサイズが合わなければ、直してもらう必要がある。時間が読めないので、先に済ませるのが吉である。
エマくらいになれば、ふらっと異世界旅行に出かけれる。日を跨ぐことになっても買い物ついでに寄れる。あまり時間は気にしなくていいのも事実。
ともかく、天下とエマは町を歩いて目的の店に向かうのであった。途中で若い冒険者パーティとすれ違うこともあったが、特になにも起こらない。
「いらっしゃいませ」
目的の店。イドリッシュの町にある仕立て屋にやって来た二人は妙齢の女性に迎え入れられる。
「初めてのお客様ですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「新しい服がほしくてな、見繕ってもらえるか?」
「かしこまりました。お二人とも仕立てるのでしようか?」
「いや、俺は別にいい、彼女のをーー」
「折角だ、天下も新しい服を買おう」
取り立てて拒否する理由もないのて天下も服を買うことにする。
エンデの町と違い、イドリッシュの町で使えるお金は潤沢にある。誰かに借りる必要もない。
「ありがとうございます。わたくし、ステリー・ドールと申します。本日はわたくしがお二人を担当させていただきます。よろしくお願いします」
ステリー・ドールと名乗った店員は深々とお辞儀をする。
こうして異世界のお店での服選びが始まった。
「まずは、どんな商品があるのか見せてくれ」
「それでは、こちらにどうぞ」
案内されたのは女性服が並んだエリア。お目当てのワンピース以外にも、ブラウスにカーディガンやニットもある。
スカートも種類が豊富で、シンプルなロングスカートや可愛らしいプリーツスカート、タイトスカートもある。
パンツはショート、ハーフ、キュロットにデニム生地も取り揃えている。
インナーやアウターも取り揃えている。また、バッグや靴にアクセサリーも完備している。この一軒で一年の全身コーディネートができる。
「たくさんあるな、これだけあると目移りして困るぞ」
「はい、当店の品揃えは大陸一と言っても過言ではありません。辺境で採れる稀少な素材もふんだんに使われていますので、わざわざ都市から商人が買い付けに来るくらいです」
「へぇ、あたしには商売のことはわからん。だが、この店が最高なのはわかる」
「ありがとうございます。それでは早速、こちらの服はお客様にとてもお似合いですーー」
天下に服のことはわからない。服選びはエマと店員に任せる。
恋人のようにどっちの服が似合うと聞かれてもどっちも似合うと答えてしまうのが天下である。
結局、天下は服選びに参加せず、エマが選んだ服を購入する。
「いい買い物をしたな」
「喜んでくれたのなら、本望だよ。でも、よかったのか、一着しか買ってないじゃないか。金ならあるから、もっと買えばいいのに」
「次回以降のお楽しみも大事だぞ。また来ることもあるんだし」
「ふーん、そっか」
お店を出た二人は町を歩きながら、先程の仕立て屋について話す。天下は今回のために軍資金を用意したが、不要だったようである。
天下は欲しいものはすぐに買う性格なので、わざわざ次回に持ち越す意味が理解できない。
天下とエマは仲良くやっているが、金銭感覚の違いはどうにもならない。このことは星夜も苦労している。生活費としてブラックカードを渡されているので、気が気でなかったりする。
「して、天下はどうやってあの店を知ったのだ? そんなに町には詳しくないだろ」
「それは町で出会った少女の服が綺麗に仕立てられてから、どんな店か調べたのさ。それがさっきの店だったわけ」
天下が出会った冒険者を心配する少女の服装が印象に残っていたから追跡調査をしていた。
約束のことがあるので、少しでも何かの足しになればいいと考えていた。しかし蓋を開けてみれば、想定以上によさげな店だったので、そのままエマを連れてきた。
「つまり、天下はロリコンなんだな」
「なんでそうなるっ!?」
天下の大声が長閑な町の通りに響くのであった。
この後、町を散策した二人はお店を冷やかしたり、星夜やクラスメイトのお土産を買ってデートを満喫する。
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