第18話 強敵との出会い
「〈光線〉〈光線〉〈熱線〉〈熱線〉」
ドンケルハイト大陸を中央に向かって進むこと数百キロメートルの森の中。
天下はコラボモンキーと呼ばれるサルの群れと対峙していた。コラボモンキーの強さは異世界に降り立って退治したドラゴンよりも一頭一頭が強い。
名前の通り連携に優れているので、一頭見かけたら十や二十では足りない数のコラボモンキーに襲われる。
ネセサティーズの話によると、コラボモンキーを一頭見かけたら、冒険者パーティどころか全ての冒険者が全滅する恐ろしい魔物だ。
「一頭一頭は弱いが、連携が厄介すぎる。もういっちょ〈光線〉」
凝縮した光がコラボモンキーを貫かんと高速で捉える。しかし、ドラゴンも貫く光線もコラボモンキーの皮膚を抉るに留まる。シャープスネークと違って避けられることはない。
ドラゴンを退治する一撃もドンケルハイト大陸の魔物には足止めにしかならない。
しかもコラボモンキーは群れている。一頭足止めしても他のコラボモンキーがカバーをするので、追撃するのも難しい。
後ろに引っ込んでしまえば、治療担当のコラボモンキーに回復される始末。
防御力は並外れており、役割分担もこなす知能。岩をも握りつぶす握力を持っているので、攻撃力も侮れない厄介な魔物がコラボモンキーである。
「はぁはぁ、省エネ戦闘もここまでくるときついな。ある程度大技は必要か」
ちまちま攻撃していては日が暮れる。天下は〈光線〉や〈熱線〉よりも威力の高い魔法を使う決意をする。
一回の消耗は大きくなるが、時間をかけずまとめて倒した方が結果的に効率がよくなる。
「すぅー、はぁー、いくか〈水塵切断〉」
高速で噴射された水がコラボモンキーを襲い皮膚、筋肉、骨を瞬く間に抉る。
〈水塵切断〉魔法はウォータージェット加工を再現した魔法。中でも研磨剤を混入することで威力が増すアブレシブジェット加工を採用している。
科学は誰が使っても同じ威力だが、魔法の威力は個人の技量に依存する。世界トップクラスの実力者が使えば、強靭な皮膚、筋肉、骨を切断することも可能になる。
「使い勝手が悪い魔法だ」
水を噴射するため距離が離れると勢いがなくなる。コラボモンキーの強靭な肉体にダメージを与えるに30センチメートル以内での使用が望ましい。
天下が自ら近づくか、コラボモンキーが近づかないと、ただの水浴びになってしまう魔法だ。
そのため天下は自らコラボモンキーに接近し、順番に切断していく。
「ウゴッウゴッ!」
「距離を取ったか。当然と言えば当然だな。……しまったな、使う魔法完全に間違えた」
コラボモンキーに〈水塵切断〉の原理はわからない。だが、脅威は簡単に知れるので、リーダー格らしき個体が天下から離れるように指示を出す。
近づけないのなら遠距離から攻撃するまで。ココラボモンキーは魔術で塊を作り出すと、それを手に持って一斉に天下に向かって投げる。
「ヤベッ。こっちの方が厄介かも」
コラボモンキーの膂力は凄まじい。投げた塊が地面に当たればクレーターを作るし、投げた塊が木をへし折る。
地球で言うところの銃器の威力を投げるだけで再現している。
四方八方からの攻撃に天下も反撃の術がない。〈水塵切断〉魔法を周囲に展開して、塊を粉砕している。
守っているだけでは状況が打開しない。天下は遠距離攻撃手段に打って出る。
「〈神槍〉は……強すぎるな。辺り一帯を破壊しかねん。位相空間でもなけりゃ環境破壊甚だしい。なら、何を使う…………ああ、いいのがあった、〈電磁砲〉でいいか」
〈電磁砲〉魔法も科学から着想を経て開発した魔法。
平行した二本の電極をレールにして、金属片を打ち出す技術。科学では実験レベルの産物だが、魔法なら再現可能である。
「気乗りしないが、やるしかない」
天下が気乗りしないのは〈電磁砲〉が〈水塵切断〉に比べて行程が複雑だからだ。
〈水塵切断〉は言ってしまえば、砂を極限まで細かくして高速の水で打ち出すだけ。魔法の技量が高ければ何も考えずに行使できる。
対して、〈電磁砲〉は行程が多く、繊細な作業も求められる。
まず、ガイドとなるレールを作らなければならない。真っ直ぐかつ平行の寸分狂いのない完全な同一のレールである。短すぎれば速度を得られないので長さも必要になる。
金属片を発射する際のジュール熱で表面が溶けてしまうので、二本だけでは足りなくなる可能性が高い。予備も含めて作らないといけない。
次に打ち出す金属片を作る。地中から有効成分を取り出し成形、弾丸の形にする。硬化させる際にも形が崩れてはいけないし、強度がなければ打ち出す前に弾丸が崩壊する。
弾丸もジュール熱で溶解するので熱対策も施さないといけない。
これらの作業をコラボモンキーの投擲を防ぐために展開している〈水塵切断〉を切らさずにやらなければならない。
「レール生成……一本、二本、三本、四本、五本、六本……完了。表面処理……コーティング完了。弾丸生成開始…………抽出……成形……硬化……表面処理……完了。オールクリア、後はぶっ放すだけだ。見てろよ、このサルども」
天下は二本のレールが平行になるよう操る。最初に狙うのは群れのリーダー。一際大きな巨体に狙いを定める。
「セット完了。〈水塵切断〉と干渉しないように微調整っと。後は投擲の合間を縫って打ち出すのみ。……今っ!」
バシュン、と音を置き去りにして一瞬で金属片がコラボモンキーのリーダーを肉片に変える。
天下の見極めたタイミングに強力な電流がレールを流れる。フレミング左手の法則に従って打ち出された金属片はプラズマ化しながらもコラボモンキーに衝突する。
莫大なエネルギーは被弾箇所の胸を貫くに留まらず、衝撃で上半身も吹き飛ばす。
レールの長さが約1メートルと短いため金属片の速度は秒速4000~5000メートル。電磁砲として遅い部類だが、コラボモンキーに回避できる早さではない。
ちなみに拳銃の弾丸は秒速300~600メートル。高威力なライフル銃で秒速800~1800メートル。火薬を使っている限り秒速2000メートルが限界になる。
「まだまだ、いくぞ」
天下はコラボモンキーのリーダーには目もくれず次のターゲットに狙いを定める。
バシュン、バシュン、バシュンと三連射したあたりでレールの表面が融解し、新たなレールへと取り替える。
レールを取り替えている間に、リーダーが殺られたことが広まり、コラボモンキーの統率が乱れ始める。
「セット完了。乱れている今が追撃チャンス」
攻撃すべきか逃げるべきか迷っているコラボモンキーに狙いを定めて次々と〈電磁砲〉で屠る。
高度な連携こそがコラボモンキーの真骨頂。リーダーのいないコラボモンキーはたちまち烏合の衆と化す。
「ちっ、これが最後の一射か。残りは〈水塵切断〉で終わらせる」
用意したレールの表面が全て溶解する頃にはコラボモンキーの数は激減。戦うのは不可能と判断し、背中を見せている。いち早く危機を察知した個体は既に逃走を始めている。
ここで逃がしてしまうと、いつまた襲われるかわからない。叩けるうちに叩くのが戦場での鉄則。
天下は手近なコラボモンキーに近寄って〈水塵切断〉で仕留めていく。
「ふぅー、終わった」
天下の周りにはコラボモンキーで死屍累々の屍山血河。有り体に言えば、地獄絵図が広がっている。
コラボモンキーの死体は切断されているか、衝撃で肉片まで吹き飛んでいるので辺りには血の臭いが充満している。
「このまま放置するわけにはいかんよな。後始末面倒だぜ」
血の臭いに釣られて魔物がやって来てはさらなる惨劇が加わる。魔物を殺しすぎて生態系が乱れてしまえば、海岸にいる冒険者に影響を与えかねない。
後始末をする天下であった。とは言え後始末も魔法で済ませる。〈引力〉魔法で死体を集めて、〈火葬〉魔法で焼却する簡単なお仕事だ。血の臭いを洗い流すために〈散水〉魔法で一面に雨を降らす。空気中に漂っている臭いは〈疾強風〉魔法で強風を起こして散らす。
これにて後始末は完了である。
「これで、本当に全て終わったな。だぁー、マジで疲れた」
天下はその場にへたり込む。
コラボモンキーの連携が予想外に見事で、出会った当初は楽勝と高をくくっていただけに、疲弊もひとしおである。
一旦修行を取り止めて地球に帰りたくなる天下であった。
「きゃああああ!」
森の奥の奥から唐突に女性の悲鳴が聞こえる。
「おいおい、ここに来てテンプレな展開開催か?」
冒険者も立ち入らないドンケルハイト大陸の森の中。女性の悲鳴に疑問を抱きつつ、重い腰を上げて声のする方向に向かう天下であった。
「ホント、飽きさせてくれないな異世界は」
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