第16話 ドンケルハイト大陸上陸
「とーちゃーく」
「またまたやって来たっすね、魔の大陸ドンケルハイトに」
ネセサティーズのリカとサンスーが一足先にドンケルハイト大陸の地を踏む。
クラーケンに襲われながらも船の航行に支障はなく、目的地のドンケルハイト大陸に到着した。船体が大きい分、予備のタービンや蒸気機関を搭載している。補修作業と平行して航行していたのだから、船乗りのプライドが垣間見える航海でもあった。
「ここが、ドンケルハイトか。見た目だけなら、普通の大陸だな」
天下とコクッゴもドンケルハイト大陸に足を踏み込む。初めてのドンケルハイト大陸に天下のテンションも鰻登りとはならない。異世界に足を踏み入れることに比べたら、たかが別大陸。旅行みたいなものだ。
ちなみに無口のシャカアイも足音を立てずについてきている。
「同じなのは見た目だけさ。中身はこれでもかってくらい別物さ」
経験者は語る。
ドンケルハイト大陸の魔物の厄介さは他の大陸に比べて郡を抜いている。少し中に足を踏み入れたなら、大陸では最強を誇るドラゴンより強い魔物がうじゃうじゃいる。
普通の冒険者は外縁部に拠点を設けて、他の冒険者パーティと連携して魔物に対処する。
大陸の中に足を踏み入れるのは自殺行為だ。
「天下、ここにいたら邪魔になる。退くぞ」
ドンケルハイト大陸は人跡未踏の地、港などの施設はない。簡易的な桟橋があり、狭い桟橋を冒険者や船乗りが行き来している。
港を作ろうにも魔物に破壊されるので、破壊されても再建しやすい桟橋しかない。
船が航海するのは月に一度。船でやって来た冒険者は獲物片手に降り、以前の航海でドンケルハイトにやって来ていた冒険者が戦利品片手に船に乗り込む。
船乗りたちは物資の積み降ろしや桟橋の点検に忙しなく作業している。
天下とネセサティーズのメンバーは邪魔にならないように少し離れた位置に移動する。
「天下に仲間はいるのか?」
「いや、俺は一人だ」
「いやいや、何を考えってんすか天下ちゃん! ドンケルハイトで単独行動なんて自殺行為っす」
一般的な冒険者は仲間と固まり、他の冒険者と互いにつかず離れずの距離を取る。魔物を倒せる戦力の確保と魔物の横取りを防いだり、ピンチの時に助けてもらえる距離が自然と出来上がっている。
単独では魔物の強さに抗えない。助けを呼ぶ間もなく殺される。ドンケルハイト大陸ほど単独行動が向かない大陸はない。
また、ドンケルハイト大陸の魔物は高く売れる。一ヶ月外縁部で生活するだけでも、チケット代は余裕でペイできる。運次第では豪遊できる金額を稼げる。運が悪ければ死ぬ世界で、わざわざリスクを取るバカはいない。
「落ち着けサンスー、冒険者は自己責任だ。天下がどのような行動を取っても俺たちに止める権利はない」
「権利はなくても、お節介を焼くのは大丈夫でしょ。天下君、ピンチになったらお姉さんたちを頼りなさい。ネセサティーズはいつでも君を手助けするから」
「……(ぐっ)」
ネセサティーズのメンバーが天下に優しい言葉をかける。天下の実力を知らないという一面は否定できないが、仮に天下の実力を知っていても同様の言葉をかけるのは想像に難くない。
「ありがたいな。食費がピンチの時はまたたからせてもらうさ、おっさんに」
「おいっ、俺は金蔓じゃないっての。一流の冒険者だってこと忘れてないだろうな」
「リーダー、この間可愛いネックレスを見つけたの、買ってくれない?」
「それじゃあ、俺っちはベルトが欲しいっす」
「……(ん)」
天下に続いてコクッゴにおねだりするネセサティーズのメンバー。冗談を言い合えるネセサティーズはとても仲がよろしい。
「おっさん、次会ったときに破産してんじゃないだろうな?」
「誰が買ってやると言った。お前たちは自分の金で買え!」
一流の冒険者であるネセサティーズの稼ぎは一般人とは段違い。わざわざ欲しいものを買ってもらう必要はない。
「ただまあ、もう一度食堂でパーティーを開くのも悪くない。だから、生きて戻ってこいよ、天下」
「誰にものを言ってんだよ」
「違ぇねえ」
コクッゴだけは天下の実力をある程度理解している。状況証拠と己の目を信じた結果、並々ならぬ実力者だと確信している。
単独行動に強く反対しないのも、実力を認めているからだ。
「リーダー、呼ばれてるっす」
ネセサティーズは一流の冒険者。冒険者には顔が広く知れ渡っている。挨拶回りや冒険者の状況確認をする必要がある。天下にだけ構っている暇はない。
「わかった、すぐ行く。それじゃあな天下」
「おっさんこそ、つまらんことで死ぬなよ」
「死んじゃダメだから、ねっ」
「ちゃんと戻って来るっすよ」
「……(ん)」
ネセサティーズの面々と別れを済ませた天下は一人大陸の中へ足を踏み入れる。
異世界に来た目的は修行のため。
今までの冒険は肩慣らし。要は盛大なプロローグ。
ドンケルハイト大陸こそが天下にとって本番だ。
肩慣らしのドラゴン退治やお節介のクラーケン討伐はただの前座。これから出会う未知の強大な魔物こそが本編。
「気を引き締めないとな、こっから先は俺も油断したら即お陀仏。待ってろエマ、俺は必ず強くなってお前の横に立つ」
修行の目的を再確認した天下は気合い十分。
数多の冒険者の心を折ってきた大陸へと足を進める。
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