第7話 町の広場の様子
イドリッシュの町の広場は人で溢れ返っていた。
それもそのばす、散々頭を悩ませていたドラゴンが討伐されたのだ。一目見ようと町の住人が押しかけてきている。
「もっと近くで見せてくれよ」
「こらっ、前に出るな。あまり近づくと逮捕するぞ!」
町の警備兵が駆り出され、ドラゴンの生首に人を近づけないように規制している。
住民は遠目から見るだけに留まっているが、ボルテージは最高潮。いつ弾け出すかわからない。幸いなのはネガティブな要素で弾けるのではなく、ポジティブなニュースで弾けるので、警備兵の顔もどことなく緩んでいる。
「見事なものだ。硬いドラゴンの首を一刀両断しておる。こんな芸当誰ならできるであろうか」
ドラゴンの生首は鋭い刃物で一刀両断されている。検分している冒険者の取締役が感心する。
ドラゴンの皮膚を切ることさえ常人には不可能。さらに一刀両断となると世界でも一握りだ。
「感心してる場合じゃない。町の騒動を収めないといけないし、討伐したものも名乗り出ていない。これからのことを考えると頭が痛い」
「何を言うかね。ドラゴンの被害に頭を痛めるより、よっぽど建設的じゃ」
「違いありませんなぁ」
町の広場にはドラゴンを検分する冒険者の取締役、町で一番の権力を持つ町長、警備兵の責任者並びに町の有力者が集まっている。
町の騒ぎを収めるのは確かに大変だか、ドラゴンを討伐することに比べたら屁の河童だ。
「すげー、ホントにドラゴンの生首が飾ってある」
町の偉い人が頭を悩ます一方で、イドリッシュの町の若い冒険者パーティがドラゴンの生首を鑑賞して素直な感想を述べている。
「あんまりはしゃがないで、恥ずかしいから」
「なんだよ、いいじゃねえか。ドラゴンなんて見られる機会は全然ないんだから」
剣士の少年とローブの少女がドラゴンを前にしてとりとめもない会話をしている。
少女は注意するが、広場にいる全員が興奮している。むしろ冷静な住民の方が少ないくらいだ。
突然の慶事に興奮を隠せないのは仕方ない。
「それにしても、本当に首がすっぱり切られているわね。どうしたらあんなことができるのかしら?」
「そりゃ、もちろん、修行したんだろ。俺様もいつかドラゴンを真っ二つにしてやるからな」
「その前にビックリラビットを真っ二つにして頂戴。稼ぎが段違いだから」
少年は剣士として大きな夢を持つ。対して少女は現実的な判断を下す。人が生きていくにはお金が必要だ。いくらドラゴンが退治されようが、若い冒険者にお金が入ってくることはない。
「あれは何かしら?」
「あれって何だ」
少女が指を指すのはドラゴンの額。そこは真っ黒く焦げている。
「ホントだ。焦げてる」
「うーん、どこかで見たような、気がする。……しかも、つい最近に」
「ただの焦げだろ。炎系を使ったら似たような焦げになるだろ。それとも、昨日の肉が丸焦げだったか」
少年はドラゴンの額の焦げについて関心がないようで、適当に茶化す。少女は喉まで出かかっている答えが出ずに、悶える。
「もう少しで思い出せそうなんだけど……」
「今日は冒険はいいよな。町はお祭り騒ぎだし、このあいだのビックリラビットの報酬も残ってる。今日はパーっと楽しもう」
「……あっ!」
少女が思い出す。
ドラゴンの額の焦げと似ている何か、それはーー
「このあいだの弱っていたビックリラビットのお腹の焦げと一緒だわ」
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