雑魚龍退治編
第3話 初めての異世界
「ここが異世界、アウスビドンか」
正確にはアウスビドンは惑星の名前。天下が降り立った大地はフィーアヤーレスツァイト大陸の平原である。
人類初の異世界転移は成功したようである。
事前の下調べでは付近の町がドラゴンに襲撃されて、被害に悩まされている町がある。修行の肩慣らしにドラゴン退治から始める。
「産業がまだまだ未成熟だから、空気が汚染されてないのか。それとも田舎だからか、とにかく空気がうまい」
深呼吸して体で異世界を感じる天下。
見渡す限り平原が広がる景色。日本の都会暮らしが長く、久しく感じていない自然を満喫する。
しかし、ゆっくりもしていられない。地球と違ってアウスビドンでは魔物が存在する。戦う力がないと魔物に一方的に殺されるのが日常茶飯事な世界。
油断は禁物である。
「とりあえず、近くに町があるはず。そこに向かう……やべぇ、どこにあるかわからん」
目的の平原に降り立ったはいいが、正確な現在地はわからない。ましてや町がどの方角にあるのか皆目見当がつかない。
太陽の位置や視線の奥に見える山々を眺めて当たりをつけるが、どこまで正しいかがわからない。
「仕方ない。空を飛ぶか」
天下は〈飛翔〉魔法を行使して真上に飛び上がる。
ぐんぐん高度が上がり、地上からは点にしか見えないくらいの高度に達する。
「おっ、ラッキー。町発見」
どうやら天下が降り立ったのは町の近くだったようで、〈望遠〉魔法を使うことなく町を発見する。
「ついでに冒険者も発見。魔物と戦ってるな」
天下と町の中間で冒険者数名が魔物と戦闘しているのを発見する。遠く離れているため〈望遠〉魔法を駆使して、後学のために観察する。
アウスビドンには冒険者という職業がある。町で依頼を受けて、魔物を倒したり、秘境から稀少な素材を採取してくる。漫画やアニメでイメージするような存在である。
「魔物は、大きいウサギか。見た感じ雑魚だな。とはいえ、あの冒険者たちにはつらい相手か」
これからドラゴン退治をしようとしている天下は大きいウサギに手こずることはない。これでも地球では強者、観察すれば大まかな強さは弾き出せる。
冒険者たちは役割があるようで、攻撃が二人、防御が一人、魔法が一人の四人構成。息の合った連携をしてウサギ追い詰めている。まだ全員が若い冒険者のようで連携は完璧とは言えず隙がある。
着実にウサギの体力を削っている。このまま何事もなければ、ウサギを討伐するだろう。しかし、体力を使い果たしてしまい、他の魔物の討伐は難しそうだ。
数分後。
「おっ、倒したか。特に何も起こらなかったか。漫画じゃないし、当然と言えば当然か」
冒険者パーティは疲労困憊ながらもしっかりとウサギの息の根を止めた。これから解体なり、運搬なり待っているが、天下の知るところではない。
「普通に倒せたら、俺の出番がないじゃないか」
冒険者パーティがピンチになろうものなら、颯爽と現れて冒険者パーティを救うストーリーも頭の中にはあった。
ピンチになっていては命がいくつあっても足りない。問題なく切り抜けていることを喜ぶことはあっても、残念に思うのは筋違い。平和に解決して何よりだ。
そうはいっても冒険者パーティの苦難が終わったとも限らない。冒険者パーティと町の間には先程とは別個体のウサギが隠れている。
疲労困憊の冒険者パーティが遭遇して切り抜けられるかはわからない。
「やれやれ、あの冒険者パーティは災難だな。少しくらい手助けしてもいいよな。異世界での初めての戦闘を見させてもらったんだ、観戦料は支払わないとな。〈光線〉」
極細の光が一瞬だけ発生し、光の筋が遠くにいるウサギの腹を貫く。
魔物は総じて生命力が高い。腹を光線で貫かれたくらいでは絶命しない。万全の状態のウサギは苦戦しても、弱っているウサギなら冒険者パーティにも勝機はある。
ウサギの魔物を倒すのか、戦わずに迂回するかの選択は冒険者パーティ次第だ。
「精々頑張ってくれ。勝手に支払う観戦料にしちゃ、十分だろ」
天下に見ず知らずの冒険者パーティを助ける義理も義務もない。
それでも手助けしたのは、勝手に観戦したことと初めての異世界人に死なれては寝覚めが悪いからだ。
「それじゃ、俺は一足先に町に行かせてもらう。見ず知らずの冒険者パーティよ、さようなら」
天下は〈迷彩〉魔法を行使する。念のために姿をカモフラージュして、空を飛んで町に一直線に向かう。
遠く遠くに見える町並みも空を突っ切るなら数分とかからない。
冒険者パーティがウサギの解体を終わらすより早くに天下は町の上空に到着する。
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