第2話

ロッキーは、うっすら目を開ける。


そして白い天井を眺めていた。



名前、ロック・キリソン。


身長175cm、体重75キロ。


体脂肪9パーセント。


血液検査


総コレステロール値、LDL、HDL、異常なし。


クレアチニン、BUN値、異常なし。


持病なし。


etc.



「ふーん。視力が、左が0.1、右が0.2。その他は、特に悪いところはないわね。」


部屋を隔てたガラス越しに、白衣を着た若い女性が、ロッキーの体の状態を見ながら、何やら紙にペンでチェックを入れていく。


その間、ロッキーは、全裸で作業台の上で大の字にさせられていた。


なんで俺が今、人間ドックのような健康診断をさせられているんだ。


そのうえ、女性の前で全裸って。


ガラスからかなり距離があるとはいえ、俺の体は丸見えじゃないか。


何かの罰ゲームかよ。


彼は、くそっと思いながら女性の隣にいる男性をみる。


白髪のジイさん、ゴローさんだ。


やっぱり、この人、ヤバイ人だった。


俺をこんな研究所みたいなところに連れてきてどうするつもりだ?。


ゴローさんは、女性と何やら話している。


「彼は、どうかね。なかなか見どころのある青年だと思うだが。

アレにも耐えられるとワシは思う。」


「確かに、あなたが目を付けた人物だけあって、EBIの数値は高く、アレにも適応できると思うわ。

その上、肉体の変化にも耐えられるようによく体を鍛えているみたいだし。

ただ、ベースとなるアレに耐えられる精神力があるかしら。

アレに精神を乗っ取られたらもう私たちではどうすることもできないわよ。」


だからアレとはなんだ?


俺は今から何をされるのか。


止めてくれ。


彼は、必死に体を動かそうとした。


だが、金縛りにあったように体はピクリとも動かない。


どうなっているのか。まさか・・・。


すると、チクッと腕に痛みが走り、ロッキーは、すざましい睡魔に襲われ目を閉じた。



チリチリ・・・。


朝の6時。


けたましい目覚ましの音で、ロッキーは目を覚ました。


いつもの朝である。


ゆっくりと体を起こし、布団からはい出る。


今日も仕事か。


なんかダルイ。


もっとゆっくりと寝たいと思いつつも、それを振り切り、ふらふらと起き上がる。


昨日はぐっすり眠れたと思うが、会社をゴローさんと一緒に出たあと、自分が何をして家までたどり着いたのか記憶がない。


何か、嫌な感じはするが。


まあ、いいだろう。


ロッキーは、そんなことを思いながら寝室から自分の部屋に行き、朝から筋トレを始める。


本当は夜に行ったほうが、筋肉はつきやすいと聞いているが、会社からクタクタの状態で帰ってきて、そこから筋トレをやる気はもうない。


夜は、そのまま風呂に入り、寝るだけなのだ。


1,2,3,・・・。


バーベルを上げたり、腹筋、腕立て伏せなどを30分ほど行う。


ジムに行ったり、食事制限を行ってまで筋トレを行い始めたのは、3年前、会社の同僚、ゴローさんに出会ってからであるが、

それ以前から、ダイエットのため少しだけウォーキングなどを行っていた。


ゴローさんが言うように日常から、一応健康のため運動はしていたのだ。


筋トレが終わると眼鏡を掛け、いつも通りの背広とネクタイをする。


髪形はこれでよしと。


鏡を見て、寝ぐせを少し直したら、ヨーグルトとコーヒー、そして昨日、両親が作り置きしてくれた料理をおかずに朝ご飯を食べ、今日も7時30分に家を出る。


会社までは、電車と徒歩でおよそ1時間ほど。


多くの会社員や高校生、大学生といった学生たちで込み合っている電車に乗る。


「今日、数学のテスト勉強した?」


「いや、昨日、動画を見過ぎてまったくしてないわ。マジやばい。」


「本当かよ。いつも、そんなこと言っていい点数じゃない。」


ロッキーは、学生たちの他愛もない会話を聞きながら、今日の仕事を考える。


シン帝国は科学技術が発展しており、帝国民は、他の国々の人々からいい暮らしをしていると思われているが、働かなくていいわけではない。


働かなくていいのは、学生と帝国の上層階級のみだ。


この国でよくなったところとは、人工ロボットが出来、機械化が進み、肉体労働するところが少なくなっただけである。


俺は、毎日、仕事場まで通勤しているが、いったい何をしたいんだ?。


"人生とは"、"幸福とは"、なんて哲学的なことを考えたくはないが、バカみたいに苦労して仕事に行っている今の自分の姿をむなしいぜ。


だがらといって俺は、英会話やプログラミングなど何かができるわけでもない。


この先、派遣社員の俺はどうしたらいいのだ。


ロッキーは、そんな考えても無駄なことをいつも電車の中で思ってしまう。


やっぱり、精神的にはキツイが、今の会社を辞めることはできない、もう少し頑張ってみるか。


いや、うつや精神的におかしくなる前に辞めるべきだろう。


待て。辞めてそのあとは?。


そんな葛藤を抱きながら、彼はいつも通りに会社に入っていった。

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