ありふれた会社員が、なぜか・・・戦場へ。
山川 友秋
第1話
シン帝国。
皇帝が支配する国である。
高度な科学技術を誇り、数々の画期的な発明で世界を驚かしてきた。
仮想空間現実化、つまり現実の世界に仮想空間を映し出すことを世界で初めて作り出したり、
人工人型ロボットを実用レベルまで開発したのもこの国である。
そして、帝国民は、この最先端の技術のおかげで最高の文明に触れることができ、他の国の人々は理想の国だと思っていた。
「よし、いいだろう。ご苦労さん。」
夜の、8時。
ようやく、上司のリュウ・ロンの許可が出た。
朝の9時から働きはじめ、休憩時間が昼の45分あっただけで、それ以外は働きぱっなしだ。
これでも、8時に帰れるなら今日は、まだマシというべきか。
いつもなら、9時、10時になるものだ。
高層ビルの15階の大きなフロアには、まだ数人の社員が残っている。
彼らの顔には、クモができたり、目が充血していたり、さすがに疲れた表情が色濃くでている。そして机には、栄養ドリンクが数本おかれていた。
俺も、この会社に正規雇用になったら、あんな風に働かなければならないのか。
派遣社員の俺と対して給料変わらないのに。
ヒドイ会社だぜ。
上司から帰ることを許されたこの派遣社員は、気の毒そうに正規の社員を眺めつつも、急いで作業着を脱ぐために自分のロッカーに向かう。
彼の名前は、ロック・キリソン。
通称、ロッキー。
身長、175cmぐらいだが、ボディビルダーのような筋肉質な体つきから、昔のボクシング映画"ロッキー"からニックネームをもらったのだ。
だが顔つきは、目が細く、髪も黒い東洋風。
シン帝国では、よく見かける東洋人の労働者である。
はあっー。
ロッキーは、深くため息をつく。
もうそろそろ、俺も精神の限界かな。
この会社は、ネットでは、まだ労働者の権利や福祉が充実していると聞いてはいたんだが。
別の仕事を探したほうがいいかもしれない。
ロッキーは、そんなことを思いながら、次々とこの会社を辞めていた同僚の社員を思い出す。
ちなみに彼は、この製薬会社、アズール株式会社に、派遣会社から派遣されて約3年ぐらい立つ。
その間、会社の顧客との接待、製薬会社のクレーマーの処理などの営業部門から、実験動物の世話、設備の管理まで、さまざまな業務をさせられた。
会社の裏方業務というべきか。
この3年間、何かを得たという実感はない。ただ、激務と客の怒鳴り声に我慢したということぐらいであった。
私生活でも、結婚や彼女ができたわけでも親から独立したわけでもなく、相変わらず貧しい実家暮らし。
自分は、もう30代後半である。
20代のころは正規職員になり、本気で会社に貢献できるような人間になりたいと思っていたが、今は何か大きな仕事をしたいとか、別の職業、医師、教師などに転職したいという気持ちはもうない。
ただ、自分に合った仕事を見つけ、死ぬまで精神的に余裕のある暮らしができたらいい。
たとえ、パートやアルバイトであっも。
それだけであった。
ロッキーは、長いこと着こなしてヨレヨレになった作業着をロッカーにしまいながら、帰る服に着替える。
今日着てきた服は、黒の背広に、青いネクタイである。
別にカッコイイと思って、背広を着ているわけではない。
彼は、毎日、同じネクタイ、同じ背広である。
そのほうが楽で、いちいち服装に時間や労力を掛けたくないのである。
「おや、今日は、少し帰るのが、早いじゃないのか。ロッキー。」
ロッカー室で、ロッキーが着替えていると、ドアが開き、白髪のジイさんが入ってくる。
「ええ。今日は、係長のリュウさんが、もう帰っていいと言ってくれたもんで。
このあとは、家にすぐ帰って、明日の仕事のため、ゆっくり休もうと思います。
ゴローさんも今日は、もう上がりですか。」
「ああ、俺も今日は、もう仕事終了だ。なにしろ、俺ももう年だしな。この会社で、出来る仕事は限られているから。」
ゴローさんと呼ばれたジイさんは、日に焼けた顔を、ニヤニヤしながら嬉しそうに笑う。
ゴロー・リー。
ゴローさんとみんなから呼ばれ、今年で60歳になるとか。
ロッキーと同じ派遣会社だが、ゴローさんは、会社の幹部のボディガードや警備の仕事を行っている。
「ロッキー、この会社の仕事のほうは、相変わらずだと思うが、自分の体のほうはどうだい。
筋肉トレーニングは、続けているかい?
筋トレは、毎日やらないと、筋肉が縮小してしまい、元の状態に戻ってしまう。
体を健康にたもつためにも、運動をやり続けることが大切だ。
今日ぐらい、俺とジムで筋トレしないか。」
「ジムに行くのは、いいんですがねぇ。今は精神的にしんどいというのか。まあ、筋トレは普段からやっていて、出来ぐあいは、ボチボチといったところですかね。
バーベルやマットを購入して、スクワットや腹筋、腕立て伏せなど家でできることをしています。
でも・・・。
こんなに近代技術が発達した、現代、体を鍛えて、本当に意味あるんですか。
俺、目的がはっきりしないとやる気が出ないですが。」
「目的ってなんだ?体を鍛えるのに、理由なんて必要あるのか。おまえにもわかるだろ。人は、毎日、睡眠をとらなければ死んでしまうように、運動するのに理由なんてない。」
ゴローさんは、ジロリとロッキーを睨みつける。
「そりゃ、モチベーションを上げるのに必要でしょう。例えば、体を鍛えると、好きな女性にモテるとか、お金をもらえるとか。
また、アニメや漫画であるように、戦いや戦場があるためとか。
でも、こんな平和な世の中で、兵士になるわけでもない俺がそんなことする必要あるんですか。」
「なるほど、モチベーションね。言いたいことは分かったが、しょうがない奴だな。
でも、俺が言った通り、今までよく我慢して体だけは鍛えていたことは、ほめてやる。
だがら今夜そのわけを教えてやろう。ちょっと付き合え。」
ゴローさんも作業着を脱ぎ、帰る支度をする。
日に焼けたゴローさんの体は筋肉質で筋骨隆々で、とても60歳近いジイさんの体とは思えない。
ボディーガードという職業柄、体を鍛えなければならないとは聞いていたが、この人いったい何者だ?
もしかすると、ヤバイ人だったりして。
ロッキーは、そんな疑問を思いつつもゴローさんと今夜、少し付き合うことにした。
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