case2-5 パンティランショット
ダンジョンの入り口の上に仁王立ちしてパンツをチラリチラリと見せつけている女性に、魔術士の女が声をかけた。それは、あきらかにパンチラ女をさげすんだ口調だった。
「あら、負け犬がなんの御用?」
「もちろん、泥棒ネコの退治よ!」
女は、ボウガンを構えた。小型だが、たてつづけに矢を射ることができる連弩だ。
縦に矢をつがえる六連式のボウガンだが、なぜか一番上には矢がつがえらていなかった。
場の緊張が一気に高まる。
ボウガンを構えた女は、なぜか仕掛けてこなかった。せっかくの奇襲のチャンスをみすみすと逃し、
おかしい。
戦いは門外漢のヴァレンティナ・カハールだが、嫌な予感がした。あの女からは、私とおなじにおいがする。
その予感は的中する。それは、浜風が大きく吹いたときだった。ボウガンを構えた女のパンツがチラリからモロリとなる。そしてその柄には〝目〟と、古代文字が刻印されてある。パンチラ女は、そのパンツの柄が最もあらわになったとき、矢がつがえられていない弓の弦を、勢いよく爪弾いた。
ビーぃーーーーー〜ー〜ん!
不協和音の混じった、なんとも嫌な音が響く……間違いない! 催眠の術だ!!
「動くな!」
ヴァレンティナ・カハールが気づいた時にはもう遅かった。ボウガンを構えた女の声に、パーティーの体は女のパンツを見上げたまま石のごとく固まった。
そして瞬く間に放たれた5本の矢が、パーティーの喉元に襲いかかった。
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——— パンティランショット
古来より傭兵稼業を主な生業とする、草原の民の呪術を活用した戦闘方法。
呪術の文様を掲げた旗をかざし、それを見たものに特定の周波数の音波を浴びせることで、ごく短期間だが行動不能におとしいれる。しかし、そのわずかな硬直は、戦場において即刻死を意味する。
この必殺の戦法により、草原の民は中世の時代に一大帝国を築き上げた。
しかし、その戦法のからくりが知れ渡ると、催眠の効果は薄まっていき、帝国はわずか数十年で崩壊することになる。
帝国が瓦解して数十年後、ひとりの女傭兵が、その古ぼけた戦法を個人技へと昇華させる。
催眠の術は、催眠のキーとなる〝目〟の古代文字を、敵の脳裏にどれだけ強烈に焼き付けるかにかかっている。
草原の民の女傭兵、アイ・ヤルク・パンティランは、戦場でわざと下着が丸見えになる風にあおられやすいスソの広がったスカートをはき、大きくジャンプして男性の目線が下着に刻まれた古代文字の〝目〟に釘付けになったところに、鈴のついた槍を鳴らして動きを封じる。
そして下着見たさに上を向いたマヌケな男どものスキだらけの喉をひとつきする「パンティランショット」を生み出し、戦場で一騎当千の活躍をみせた。
アイ・ヤルク・パンティランは、
「力技で自らをうちまかす男が見つかるまでは夫をとらない」
と公言し、ついには生涯独身をつらぬいたと言う。
余談ではあるが「パンチラ」の語源が、この傭兵の女性から来ていることを説明するまでもないだろう。
—— 出典:『パンティランそれは戦場をかける月の輝き』 民明書房刊 ——
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「…………」
「………??………!!」
完全にパンツの釘付けになっていた
完全に喉をつぶされ、声を発することもできず倒された。あれは、もう助からない。
「ぐっ! このアマ!!」
同性のため、パンツにそれほどの興味を示さなかった魔術士の女は、かろうじて一歩退いて、喉への直撃をまぬがれた。しかし、むきだしの胸に刻まれた〝
「あぅ……」
呪術にいち早く気がついたヴァレンティナ・カハールは、ほとんど催眠にかからなかった。しかし、非戦闘員の彼女にはなにもできない。敗走する下肢を射抜かれた。
パンチラ女は「パンティアンショット」で、瞬時のうちにパーティーを壊滅状態へとおとしいれた。
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