case2-4 島の頂(いただき)

 島に到着した日、ヴァレンティナ・カハールたちパーティー一行は、漁師のご好意に甘えて寝床の世話になった。漁師流の客人へのもてなし、つまりはこれでもかと酒をあおったパーティー一行は、それはそれはひどい二日酔いとなった。

 なかでも、船酔いがいえきれぬまま、酒盛りに付き合わされた凹凸凹凸ピーの顔は、げっそりと真っ青になっていた。


 昨夜の酒盛りから一転、朝食はごくごく普通に慎ましやかなモノだった。オートミールと庭で放し飼いになっているニワトリの卵のオムレツ一切れ。そしてベーコンの代わりに、まけじとしょっぱい干した白身魚の朝食を食べると、とっくに漁に出てしまった男衆のかわりに、家を護る妻たちに、宿の相場よりも一割ほど高い通貨をわたすと、お礼にと言わんばかりに大量の白身魚の干物をいただいてダンジョンへと向かった。


 ダンジョンは島の小高い丘にある。丘とはいえ、その島ではもっとも高いいただきで、島の全貌が見渡せる。

 周囲5キロ程度の取り立ててめずらしくもない漁村の島に、なぜ、聖母神の像が祀られ、その下に広大なダンジョンが張り巡らされているかはわからない。

 物好き……いやにあふれるアンデシュ・グスタフソンが、古文書をひもとき、月と太陽、そして情熱の惑星が天空で三角形を描くとき、聖母神の像の乳房に触れることでこのダンジョンの入り口をこじ開けるまで、この漁村は本当にただの漁村だったのだ。


 10年前までは人口が100人にも満たなかったこの島も、今ではりっぱな冒険者ならずものの溜まり場だ。安い酒がたらふく飲める宿屋と、傷ついた冒険者を治療、または死亡確認を行う医者と、冒険者ならずものを埋める公共墓地。

 そんなダンジョンにもれなくついてくる冒険者ならずもの御用達の三点セットも、この10年ですっかりとこの地に馴染んでいた。


 パーティーは、それなりに急勾配の坂道を登っていく。先頭には体全体を覆うほどの堅牢な大楯を背負い、その上に一週間程度はかかるであろうダンジョン探索のための五人分の食料を軽々と運ぶ重戦士ウォーリア

 そのあとに、自身とふたりの博士ドクターの寝具を背負った魔術師。大きくはだけたを胸に〝ひのと〟という炎を象徴する古代文字が刻まれてある。魔術の増福を図るためであろう。

 ふたりは、息も切らさず急勾配を登っていく。それがふたりが歴戦の冒険者であることを物語っていた。

 

 そんなふたりの背中を、息を切らして追いかける中央学府の博士ドクターのヴァレンティナ・カハールと、彼女の背中を二日酔いの体を押して、えずきながらふらふらと追いかける凹凸凹凸ピーがつづき、さいごに、白杖の剣士フェンサーがしんがりをつとめていた。


 剣士フェンサーは、自身の冒険道具と、調理器具などのもろもろの雑具を背負って、カツカツと白杖を突きながら、しかし確かな足取りで歩いている。

 白杖を持っていなければ、目がほとんど見えぬことが信じられない。


 五人のパーティーは、残暑の太陽が最も高く登る頃合いに、島のいただき、つまりはダンジョンにたどりついた。

 アンデシュ・グスタフソンが解いた封印により、地中から迫り出したダンジョンの入り口は、とても堅牢なつくりで、入り口には古代文字が刻まれている。ご丁寧に壁際にすべりどめのついた手すりがそえられていた。

 そしてその横には、上半身が乙女で下半身がトラの、鍵を掲げた聖母神の像が凛々しく立っていた。


 パーティーがダンジョンに入ろうとした刹那、


「待ちなさい!」


 不意に頭の上から女性の声が聞こえた。ダンジョンの堅牢な入り口の裏にかくれていたのであろう。その女性はいきなり現れて、ダンジョンの入り口の上で仁王立ちになっている。その女性は信じられないくらい短いプリーツスカートを風にはためかせ、パンツをチラリチラリと見せつけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る