case1-4 ふたつの隠し扉

 アンデシュ・グスタフソンとアケビ・フクモリは、あやしい空洞のある箇所の調査をはじめた。きっと、隠し部屋があるはずだ。

 

 アンデシュ・グスタフソンは、ガラス張りの壁をコンコンと叩いていく。反響音から、今いる部屋よりも小さい部屋があるのは明らかだ。そして、


「コツンコツン」


 明らかに他の壁よりも薄い場所を突き止めて、その場所を押した。

 壁は、静かに横にスライドして、隠し扉が発見された。


「は?」


 考えられない光景だった。中央にベッドが置いてあるその部屋は、やはりガラス張りの部屋だった。そして部屋の一部に少し迫り出した面があり、そこだけ漆黒のガラスであった。


 そして、中央のベットの上には不可思議な黒く四角く細長い物体がある。


 アンデシュ・グスタフソンはベッドにあるその物体をつかんだ。にあらがうことができなかった。そしてにおもむくまま、アンデシュ・グスタフソンは、すぐさま黒く四角く細長い物体の最も目立つ右上の赤い突起を押した。



 ピッ!


 すると漆黒のガラスにじんわりと色がついた。そして、


「ああ〜っん!」


 漆黒のガラスの中では男女の情事が映し出されていた。


 ピッ!


 アンデシュ・グスタフソンは、すぐさま黒く四角く細長い物体の最も目立つ右上の赤い突起を再び押した。


 なんだ? この超技術ロストレガシーに満ちた宝物庫は?


 常軌を逸している。なんなんだあの男女の情事を映す漆黒の鏡は? そして情事を自在に映し出す、この黒く四角く細長い物体は?


 信じられない。


 そもそも、この一面鏡張りの部屋が考えられない。無人であるはずのこのダンジョンで、この鏡ばりの宝物庫だけ、チリひとつ落ちていないのだ。ベッドはとても清潔で、綺麗にベッドメイキングがされてある。

 ダンジョン探索で、泥だらけになった服のまま座るのがはばかられるくらいの清潔さだ。


 信じられない。


 本当になんなんだ? この超技術ロストレガシーに満ちた宝物庫は?


 アンデシュ・グスタフソンは興奮していた。それは、常軌を逸したテクノロジーを目の当たりにした興奮だった。あとちょっとばかり、先ほど黒いガラスに映し出された見知らぬ男女の情事をみた興奮もまざっていた。


 とにかく……すばらしい。すばらしい! すばらしい発見だ!!


 こんなテクノロジー、一体どこから?

 高度な文明が滅んだのか、いやもしかしたら異世界、つまりはこの世界線上にはない、並行世界、つまりはパラレルワールドが介在したのかもしれない。

 なんらかの事由で時空の歪みが生じ、この場所に現れたのかもしれない。


 アンデシュ・グスタフソンは興奮した。自分の知識を総動員してさまざまな仮説をめぐらせていた。すると、


「ねぇ、そっちには何があった?」

 

と、アケビ・フクモリの声がした。アンデシュ・グスタフソンは興奮しながら返事をした。


「アケビ、素晴らしいよ! このダンジョンは、この宝物倉はすばらしいよ! この宝物庫はおそらく時空の歪みによる……うわああ!」


 アンデシュ・グスタフソンはのおもむくまま、早口でこの宝物庫の謎を雄弁に語りながら振り向くと、そこには、一糸まとわぬアケビ・フクモリがいた。手には清潔なタオルを持ち、おろした髪をふいている。そして体からはほのかに湯気がたちこめて、肌はほんのり桜色に染まっている。


「な、なななな」


「こっちきてよ、すごいから!」


 アンデシュ・グスタフソンは目のやり場に細心の注意をはらいつつ、一糸まとわぬの扇情的な姿のアケビ・フクモリの先導にしたがい、彼女がみつけた隠し部屋におもむいた。


「な……?」


「ほら、すごいでしょう!」


 そこは、湿気ていた。湿度が高かった。湿度の高い浴室だった。

 温かいお湯がとうとうと流れ、ひろいひろい湯船があった。つまりは浴場だった。


「な、なんだこれ? 信じられない、なんなんだこの超技術ロストレガシーは?」


「本当にすごいよね。わたしの郷里にも〝銭湯〟ってのがあるんだけど、こんなにキレイなのは初めて! ホントさっぱりした! もう一週間も濡れタオルで体を拭く生活だったから。頭も洗ってスッキリできた!!」


 一糸まとわぬアケビ・フクモリはご機嫌だった。お団子にしていた髪をほどき、濡れた髪がちょうど胸元にはりついて突起をかくしてくれているものだから、どうにかどうにか、上半身だけなら見ることができる。


「アンデシュも入りなよ! サッパリするから!!

 せっかくだから、背中流してあげる!!」


 そういって、服を脱がせにかかるアケビ・フクモリを制して、アンデシュ・グスタフソンは自分で服を脱ぐと、もうずっと屹立きつりつしつづけている息子をかくして、湯船のよこにしつらえられた洗い場にすわった。


 アケビ・フクモリは、アンデシュ・グスタフソンの無防備で大きな背中をうっとりと眺めながら、さきほど舌でぬぐったほろ苦くも甘美な味を思い出し、「ぺろりん」と舌なめずりをした。


「ウフフ……どう料理しちゃおうかな……?」


 彼女は、浴場に座るウブな男に欲情していた。

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