case1-3 北方の賢者の青年

 青年は賢者セージだった。青年の名はアンデシュ・グスタフソン。北方の小さな村の出身だ。


 小さな頃から自然が好きで、争いが苦手だった。そんな争いが苦手な青年が唯一争ったのは学問で、青年は中央都市の名門学府を主席で卒業する。

 しかし、争いな苦手な青年に、名門学府で働く席などなかった。彼が欲しいのは知識でありだった。知謀をめぐらす野心はなかった。


 野心なき者に、学府は椅子を用意してくれない。彼は逃げ出すように学府を去り、フィールドワークに明け暮れた。そして、この迷宮を発見した。


 発見を学府に知らせると、学府での博士の椅子を手に入れた級友は、ニコニコとした笑顔で、青年にハエのごとくブンブンとたかってきた。手柄が欲しかったのだ。もっと座り心地が良い椅子が欲しかったのだ。

 彼は、群がる級友にその功績を渡した。級友たちと、連盟で発見したことにしたのだ。旧友は今もその最大の手柄が誰のものかを知謀めぐらせ争っている。もっともっと座り心地の良い椅子を求めて争っている。


 青年はそんなどうでも良い争いには興味がなかったから、貴族に雇われ、ダンジョンの探索を続けている。


 ノブレスオブリージュ。


 社会的に高い地位につくべきものは、その対価を払わなければならない。そので、貴族はこのダンジョンに嫡男を派遣し、ダンジョンのモンスターのを退治することで、社会的貢献を示す。

 実際のところ、本当に貢献するのはその嫡男にかしずく側近たちなのだが。


 とにかく、そのに同行することで、アンデシュ・グスタフソンは、自身の知識が存分に活かされ、またそのも満たされた。


 今回もそのつもりだった。の社会的貢献を欲する貴族に付き従い、冒険のレポートを代わりに執筆する。

 アンデシュ・グスタフソンは、貴族たちのを作り上げる代わりに、とささやかな賞与を手に入れる。見事な相互作用。見事なWIN−WINである。


 だが今回は少しばかり勝手が違った。


 彼の人生には、今まで全く縁のなかったタイプのを満たすミッションが目の前に課せられた。


 アンデシュ・グスタフソンは、鏡面の宝物庫をふさいだ壁に刻まれてある、古代文字を読んだ。


「セ、『セ◯クスをしないと出られない部屋』……って書いてある」


「ふーん。セ◯クスすれば出られるんだ」


 一緒に閉じ込められた盗賊シーフの少女アケビ・フクモリは、にべもなく答えると、体にピッタリとフィットした全身タイツを脱ぎ始めた。


 アケビ・フクモリがタイツをぬぐと、その華奢な美しい身体は、さらに美しさを増した。

 背中とヒップは完全に見えており、細くてすらりとした足は、フトモモのみがあらわになっている。フトモモに食い込んだタイツが、アケビ・フクモリのしなやかで柔らかな脚をさらに魅惑的に見せている。

 そして、さきほどまで控えめながらも健気に主張していた胸の突起は、その主張をさらに示して屹立きつりつしている。

 そしてそして、一面鏡ばりの部屋にうつる床には、はいていないアケビ・フクモリの局部をあわらに映し出していた。


「しょ、正気かい! アケビ!! な、なにか他の方法を考えた方が……」


「セ◯クスすればいいんでしょ? それが一番簡単じゃない」


 そう言いながら、アケビ・フクモリは中腰になりアンデシュ・グスタフソンのベルトに手を伸ばす。


「い、いちばん簡単って! そんな! 君はまだ嫁入り前だぞ!!」


「嫁入り前って、いつの時代の話よ。そんなこといったら、あのふたりはどうなるのよ。おぼっちゃまと毎日お盛んよ」


 アケビ・フクモリは無表情で、アンデシュ・グスタフソンのズボンをさげる。そして、すでに屹立きつりつしたアンデシュ・グスタフソンの分身にキスをする。


「ま、まってくれ……ここは、聖母神が祀られたダンジョンだ!

 愛し合っていないセッ……い、いや性行為で、果たしてドアが開くかどうか」


 それを聞き、アケビ・フクモリは、アンデシュ・グスタフソンの分身をくわえたまま上目遣いで彼を見た。そして、分身を口から離すと、手を口に当てて考えながら返事をした。


「たしかに……一理あるわね」

「だろう! 僕たちは単なる仕事仲間だ。君のことを信頼しているが、あ、あ、愛しあっては……いない……」


 その言葉を聞くと、アケビ・フクモリはすっくと立ち上がり、


「よかったわ。わたしはてっきり、経験がないから怖気付いちゃったのかと思った」


と言って、口に当てた手を「しゅるん」とぬぐった。

 

「と、とにかく、他の脱出方法を探そう。どこかに隠し扉はなどはないかな?」


「それならもう調べてある。アソコとアソコ、明らかに空洞がある」


 アケビ・フクモリは、空洞のある二箇所を、両手でそれぞれゆびさした。


「よし! なら手分けして、隠し扉を探そう!!」


 アンデシュ・グスタフソンは、ズボンをあげて、かちゃかちゃとベルトを上げながら逃げるようにアケビ・フクモリが指差す方向に向かっていった。


「図星だったか……カワイイ」


 アケビ・フクモリは、広角をあげると、そこにわずかに残っていた、粘り気のある液体を、舌先で「ぺろりん」とぬぐった。

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