第3話
エマは店の電話番号と自分の名前をメモると、デップと名乗る男に渡した。デップが店を出ると、エマは急いでキッチンに入った。スージーはキッチンの隅に
「立ちくらみらしい。早退しなって言ったんだが」
フライパンを動かしながら、ジョセフが心配そうな顔を向けた。
「スージー、大丈夫?」
スージーに駆け寄ると、背中に手を置いた。
「……大丈夫」
小さく呟いたスージーの横顔は青ざめていた。そこには、いつもの明るいスージーの姿はなかった。
「……帰ったら話してくれるよね? 何もかも」
耳元で
エマが休んだ翌朝、モーテル〈ACE INN〉の一室から男の
「で、どんな女でした?」
刑事は手帳を開いた。
「どんなって……横顔がチラッと見えただけだから」
「いくつぐらい?」
「さあ……22、3かな。ブロンドの髪が印象的だった」
「白人? 黒人?」
「もちろん、白人ですよ」
ーー所持品の運転免許証から被害者の身元が判明した。アルバート・デップ、42歳。警察は、娘のスージー・デップ、21歳にたどり着くと、取り調べた。だが、死亡推定時刻の午後3時は店で働いていたことが、店主や客の証言により立証された。事件当日、店を休んでいたエマ・バーナード、19歳は除外された。モーテルの主の証言に、‘客室から出てきた女は白人’とあったからだ。エマ・バーナードは黒人だった。ーー金銭トラブルか何かで売春婦と揉めて殺されたのだろう。それが刑事の見解だった。間もなくして、エマとスージーは店を辞めた。
ーー2年近くが過ぎていた。エマはスティーブと結婚して男児を
「エマちゃん。幸せそうだね」
薄ら笑いのファドの顔が受話器の向こうに見えるようだった。
「……どうして、ここが分かったの?」
「どうして分かったかって? そりゃあ、捜したからさ。お前が持ってた金はたかが知れてる。バス代か電車賃ぐらいだ、飛行機には乗れない。あの時間に乗れるのは、この町行きのバスだけだ」
「……」
「さて、どこに隠れてるかと考えた結果、手っ取り早く働くにゃウェイトレスぐらいだろうと、喫茶店やレストランを訪ね歩いたら、〈Nice〉の客がご親切に教えてくれたってわけさ。すぐに連れ戻すこともできたが、それじゃ、
「……」
「と言うことで、少しばかり金を都合してくれねぇか」
「そんなお金ないわよ」
「お前になくても旦那にはあるだろ? お前が言えないなら、俺から言ってやろうか? 俺たちのーー」
「やめてーっ!」
「じゃ、自分から頼み込むことだ、愛する旦那に」
「……分かったわ。何時にどこに持って行けばいいの?」
「お利口さんだね、エマちゃんは。それじゃ、時間と場所を言うよーー」
翌日の午後3時ごろ、男の水死体が公園の池から発見された。第一発見者は、公園をジョギングしていた若い男だった。背中の傷から、鋭利な刃物で刺されたのちに池に突き落とされたものと推測された。また、この発見者は、被害者と一緒にいた若い女を見ていた。
「どんな女?」
刑事は手帳を開いた。
「アフロヘアーの」
「アフロ? 黒人?」
「ええ」
被害者の身元は歯型によって判明した。ファド・バーナード、42歳。娘のエマ・バーナードにたどり着いた刑事は取り調べた。だが、事件当日、エマには完璧なアリバイがあった。主婦仲間の
……2年前にも似たような事件を担当したな。あれは白人だったが、今回は黒人だ。どっちも父親が殺されている。そして、どっちにも完璧なアリバイがある。違うのは一方は白人で、もう一方は黒人と言うことだ。
刑事は2年前に
……ここで足取りが
……ん? ちょっと待てよ。2年前の事件の時、第一発見者の、‘見かけたのは白人の女’ との証言で、黒人のエマを取り調べなかった。ここに落ち度があったのでは? ……白と黒。ーーあっ! そうか。
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