第2話
スージーに誘われて同じ店で働くことにしたエマは、
店はランチとディナーの時間帯が忙しく、レジも兼ねているので、エマは計算ミスがないか心配だった。その上、メニュー名や値段も覚えなくてはいけない。
スージーとエマは17時までの早番で、17時からは遅番が出勤する。その一人にスティーブがいた。歳は25、6だろうか、体育系のがっちりした体格だった。
「おはよう、エマ」
キッチンの裏で帰り支度をしていると、出勤したスティーブが声をかけた。
「あ、おはようございます」
「少しは慣れた?」
人懐っこい笑顔だった。
「ええ、おかげさまで」
「今度の休み、デートしない?」
ロッカーから白いエプロンを出した。
「えっ?」
「ドライブでも」
「……考えとくわ」
ピンクのエプロンをロッカーに入れると、エマはポシェットを肩に掛けた。
外で待っていると、伝票の整理にもたついていたスージーが出てきた。
「お待たせ! ね、たまには飲みに行こうか」
スージーは乗り気だった。
「私、まだ未成年よ」
「大丈夫よ、私と同じ歳に見えるわ。私のメイクが上手だから」
「……けど」
「ね、ね、行こう」
腕を引っ張った。ーー連れて行かれたのは、〈
「ニック。紹介するわ、ルームメートのエマ」
「……初めまして」
「どうも、いらっしゃい」
30過ぎてるだろうか、愛想は良くないが、何気に哀愁を感じさせる
「私はジントニック。エマは?」
スージーはそう言って椅子から降りると、ジュークボックスのほうに行った。
「……何かアルコールの弱いものを」
「じゃ、カクテルを作ってあげよう」
グラスにボトルを傾けながら、エマを見た。
「ええ」
スージーに目をやると、ジュークボックスから響くロックのリズムに合わせて踊っていた。エマと背格好がよく似たスージーは、スリムなボディをしなやかに動かしていた。その様子を眺めながら、カウンターの隅に座った初老の客がグラスを傾けていた。ニックもシェイカーを振りながら優しい眼差しを向けていた。
「はい、どうぞ。〈
青い液体が入ったカクテルグラスをエマの前に押した。
「できた?」
スージーが戻ってきた。
「わあー、キレイな色」
カクテルのことを言った。
「じゃ、乾杯!」
エマが手にしたグラスに自分のグラスを当てた。
「何に乾杯しようか……そうだ、入店祝いと友だちになったお祝いに」
「ありがとう」
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
「ね、ニックもいつもの飲んで」
スージーが向きを変えた。
「じゃ、遠慮なく」
「ここは私のオアシス。くつろげると言うか……客が少ないからかも。ふふふ」
エマの耳元で小さく笑った。ニックはビールの栓を開けていた。
「ニックはビール党だもんね」
スージーは頬杖をつきながらニックを目で追っていた。
……スージーはニックのことが好きなのかも。エマは思った。ーー
出勤すると、鼻歌交じりでモップを動かすスージーがいた。
「ご機嫌ね」
冷やかした。
「まぁね。うふっ」
スージーは意味深な含み笑いをした。ーーその日は珍しく客が少なかった。暇潰しに窓から往来を眺めていると、店内を
「いらっしゃいませ」
お冷を置いた。男はエマを一瞥すると、
「コーヒー」
と、つっけんどんに言った。年季の入ったボストンバッグを横に置いた男は、薄汚れたYシャツの袖を捲っていた。
……スージーとこの男の関係は? エマは男を見下ろしながら、ギリシャ鼻を
「な、ここにスージーっていないか?」
「えっ?」
男の不意打ちに、エマは答えに迷った。
「……いいえ、いないわ」
「偽名を使ってるかもしれないな。ブロンドで、ブルーサファイアの瞳をした21、2の女だ」
「……いいえ。もう一人は今日はいないわ。それにブラウンの瞳に茶髪よ。歳は30過ぎてるわ」
エマは適当な話をでっち上げた。
「……じゃ、ここにはいないか。だが、一応確認しとくか。その女はいつ出勤するんだ」
「誰が?」
「もう一人の女だよ」
「あら、今もいるとは言ってないけど」
「……どういう意味だ」
「茶髪がいたって言ったのよ。辞めたわ、1週間前に」
「辞めた?」
「ええ」
「で、どこに行ったか知ってるか?」
「いいえ。でも、電話をくれるかも。そしたら教えましょうか」
「ああ」
「どこに連絡すれば」
「いや。まだ泊まるとこ決めてないんだ」
「だったら、〈
「じゃ、そこにするか」
「お名前は?」
「デップだ」
「じゃ、モーテルに着いたら、部屋番号を教えて。今、電話番号書くから」
「ああ」
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