白と黒の殺意
紫 李鳥
第1話
バーボンのボトルを空にしたファドは、やがてゴリラのような
今だっ!
心の中でスタートの合図があった。エマは、ベッドのタオルケットの中に用意していたボストンバッグを掴むと、同時にTシャツとGパン、スニーカーを履いた体を起こした。
抜き足差し足でファドのベッドを横切ろうとした
ホッと胸を撫で下ろすと、そのままじっとして、次の鼾を待った。だが、横を向いたせいか、寝息を立てるだけで、なかなか鼾はやって来なかった。
……でも、熟睡しているはずだ。
エマは再びスニーカーの爪先を立てると、ドアを目指した。そしてノブを握るとゆっくり回し、引いた。
ギィッ!
甲高い
「うっう~」
ファドが
鼾をかくタイミングに合わせて、再びノブを引いた。鼾は止まなかった。安心すると、急いでアパートを出た。ファドの
ーー
……どこへ行こうか?
当てなどなかった。車窓に映る
着いたのは、〈
「ハーイ、ご注文は?」
少し年上だろうか、
「パンケーキとコーヒーのセットを」
メニューも見ないで即答した。
「ベーコンとハムがあるけど、どっちがいい?」
友だちにでも話すような物の言い方だった。
「じゃ、ベーコンで」
「オッケー。すぐ持ってくるわね」
愛嬌を残して背を向けた。時間が早いせいか、客は疎らで、浮浪者風の中年男や早起きの近所の
「お待たせ」
窓を向いていたエマの前にトレイを置くと、
「旅行?」
と、椅子に置いたボストンバッグを見た。
「え? えぇ、まあ」
「ステキな町よ。私が休みなら案内してあげたいくらい」
黒いカチューシャがブロンドの髪にマッチしていた。
「私、スージー。よろしく」
握手を求めてきた。
「私はエマ」
スージーの手を握ると、笑顔を向けた。
「ね、もし時間があったらテルちょうだい。友だち募集中なの。今、番号書いてくるから」
「えぇ」
腹が鳴っていたエマは、スージーが背を向けた途端、パンケーキにかぶりついた。ーー
〈Nice〉を出ると、散策に出掛けた。駅周辺は賑やかだが、郊外に行くと
……こんな美しい地で暮らせたらどんなに幸せだろう。小汚ないブロンクスとは
スージーから退店時間を聞いていたエマは、時間を見計らって電話をしてみた。
「よかったら、私の部屋に来ない?」
スージーが気安く招いた。ーースージーから聞いた道順を行くと、比較的新しいこぢんまりとしたアパートに着いた。ノックすると、例の愛嬌で迎えた。
「夕食を一緒にしない? 何か作るわ。それとも、外で食べる?」
「どっちでも。スージーに任せるわ」
「オッケー。さて、何を作ろうかしら」
スージーは真新しい冷蔵庫を開けると、独り言のように呟いた。キャスター付きのワゴンに載った小型テレビからはジョン・レノ○の『イマジ○』が流れていた。
「ーー私もまだ半年ぐらいよ、ここにやって来て。町が気に入って、いつの間にか居着いちゃったって感じ」
フォークでサラダを突っつきながらエマを
「確かに、いいところ」
ビーフステーキをナイフで切りながら、エマが
「でしょ? エマもこの町に住めばいいのに」
「でも、家賃とか高いでしょ?」
不安げに訊いた。
「ね? この部屋に住めば?」
閃いた目を向けた。
「えっ?」
「ベッドを買うだけだし、家賃も半分で済むじゃない」
積極的だった。
「……けど」
エマは
「もちろん、プライバシーは
結局、エマはスージーと同居することにした。
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