80.精霊術師、噴き出す


「「「いただきまーすっ」」」


【天使の翼】パーティーの影に潜入した俺たちが初めにやったのは、まずソフィアに作ってもらったお弁当を食べることだった。


 こういう殺風景な場所で真逆の温かみのあるお弁当を食べるというのは、なんというか独特の味わいがあるなあ。


 食べたあとも、しばらく沈黙してしまうほど美味しかった。味だけじゃなくて見た目も素晴らしいし、何よりこれを食べる人や材料への思いやりが伝わってくるんだ。いやー、さすが熾天使が作っただけあって昇天するかと思う。


「いやー、ご馳走様。涙が出るほど美味しかったな、エリス、ティータ」


「うん。わたしもソフィアみたいになれるように頑張る!」


「私も。負けてられないわね、ソフィアには……」


「……な、なんか熱気が凄いなぁ……」


 あまりにも美味しすぎたためなのか、二人ともメラメラとソフィアに対抗心を燃やし始めたので俺は噴き出しそうになった。


 これじゃ無の精霊じゃなくて火の精霊かと錯覚するほどだ。これには、ソフィアもここにいたらきっと俺と一緒に苦笑いを浮かべていたことだろう。腹も心も満たされたことだし、【天使の翼】パーティーがどんな連中なのか様子を探ってみるか。


「――あのねえ、ジェラート、一体いつまで不満そうにしてるつもり? ん? もしこの依頼を成功させたら、金貨15枚も貰えるのよ? わかる? 私たちには金貨7枚分も借金があるんだから、やるっきゃないでしょ!」


「エリザ……だから、何度も言わせるな。んなもん、地道に返していけばいいだけだろ! もし失敗したら仲間がさらわれるだけだし、それこそ取り返しがつかないんだっての!」


「成功するわよ! 絶対っ!」


「はあ!? 絶対成功するとか、なんの根拠もないだろ!」


「「ゴルアアァッ――!」」


「――ふ、二人とも、落ち着いてください」


「ほっときなよ、リーフ。二人の喧嘩はいつものことなんだからさ」


「け、けど、アイシラさん……」


「とにかく、もう多数決でやるって決まったんだから、素直に従ってよ、ジェラート!」


「お前が怖い顔で脅しただけだろ! 俺は、今からでも遅くはねえって思って……ブツブツ……」


 まだ揉めてたのか。ざっと見た感じだと、気が強そうな黒魔術師の女エリザがパーティーリーダーで、髭面の神経質そうな白魔術師ジェラートがその喧嘩相手になっている。


 困った顔で喧嘩をなだめているのが細身の剣士リーフで、終始達観した表情なのが踊り子のアイシラだった。


 女性二人、男性二人の四人パーティーだが、この中で一番女っぽいと感じたのは、一見すると少女と間違えてしまうような美貌を持つリーフだった。


 話を聞き続けた結果、彼らはギャンブルで負けたせいで借金があって、それを返済するためにパーティーリーダーのエリザが躍起になってるらしい。


 そもそもエリザがギャンブルをやろうとか言うからこうなったとジェラートが愚痴ると、あんたはいの一番に賛成したでしょとエリザが反撃していた。


 かなり切羽詰ってるようだし、こういう財政的に苦しい状況でもなければ、わざわざこんな危険な依頼を受けようってことにはならないんだと納得できた。


「「「――ププッ……」」」


 まもなく、【天使の翼】パーティーが宿舎へ入ったわけだが、そこで着替えた彼らの姿を見て俺たちは噴き出してしまった。


 白魔術師のジェラートと剣士のリーフが女装していたんだ。髭を綺麗さっぱり剃ったとはいえ、体格のいいジェラートの女装姿はまさに噴飯ものだったが、逆にリーフは似合いすぎて怖いくらいだった。


 どうやら、パーティー全員が女性だと思わせることで、誰を選ぼうかと誘拐犯に迷わせ、その間に捕らえるっていう作戦らしい。果たして、そんな手に引っかかるんだろうか。


 ほどなくして、エリザ、ジェラート、リーフ、アイシラの四人は、なんとも気まずい空気の中、連続誘拐事件の現場であるエネル草原へと馬車で出発した。


 一体誰が誘拐されるのか、今から楽しみになってきたな。誰が選ばれようとも、俺たちはパーティーの影の中にいるので誘拐犯と対峙できるわけだから。


【彷徨う骸たち】のように、解決しようとしているパーティー【天使の翼】の犯行であったとしても。

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