79.精霊術師、天使たちに会う
「「「――ふわあ……」」」
俺たちの欠伸が重複する。
それもそのはずで、あれから冒険者ギルドで数時間ほど待って昼頃になっても、例の誘拐事件の依頼を受ける中級パーティーは一向に現れなかったんだ。
まあ、こういう依頼を受けるとなると、犯人に拉致されることで大事な仲間を失ってしまうリスクもあるわけで、どうしても慎重にならざるを得ないのは痛いほど理解できる。
ただ、そうであってもだ。血気盛んな冒険者たちの中でも、DからCランク、すなわち中級なんだし、引き受けるパーティーが一組くらいあってもよさそうなもんだけどなあ。
「うー、レオン、わたし、お腹すいちゃったー」
「私もだわ、レオン……」
「……うーむ、そうだなあ、空腹を無効化してごまかすわけにもいかないし、そろそろ昼飯にするか」
「「わーい!」」
ん……? 俺たちがギルドを去ろうとした矢先、一組のパーティーが例の依頼の貼り紙の前で立ち止まるのがわかった。
それまでは、誘拐事件自体が有名になっていたのか、あの辺でパーティーが止まる気配さえなかったんだ。ということは、それがなんの依頼なのかをあらかじめ知っていて、なおかつ受ける気があるかもしれないってことだ。
これは俄然期待できる感じになってきたな。よしよし、そのうちの一人が予備の張り紙を手に取ったし、これであのパーティーが依頼を受けるのはほぼ間違いない。
ただその途中、パーティー同士で口論が発生していたので、仲間の間でも意見が分かれているっぽいな。まあ当然か。
実際、『大金欲しさに仲間を売るようなことをするのか。もう二度と会えないかもしれないのに』、そんなはっとするような辛辣な声も飛んできている。これはまだ、展開がどう転ぶのか予想できない。
「レオンー、お昼ご飯はー?」
「美味しいご飯、食べたいわ、レオン」
「いや、エリス、ティータ、今はそれどころじゃないから、もうちょっと我慢してくれ」
「「えぇー……」」
そういうわけで、エリスとティータは不満そうだったものの俺たちは影から影へと瞬間移動して、カウンター近くで例のパーティーの様子を窺うことに。
お……彼らはカウンター前でもしばらく色々と言い合ってたが、ようやく意見が纏まったのか受付嬢に依頼の紙を提出した。
そこでわかったのは、彼らが【天使の翼】とかいう、どこかで見た感じの名称のC級パーティーだってことだ。
というか、もう存在しない【堕天使の宴】と【天翔ける翼】を合体させたかのようでとても懐かしく感じる。マリアンのパーティーは崩壊したし、ファゼルたちもあれから別々の道を行くことになったらしく、パーティーを解散させちゃったみたいなんだよな。
改めて思い返すと、本当に色んなことがあったなあ――
「「――じー……」」
「はっ……」
昔のことをぼんやりと思い出していたら、いつの間にかエリスとティータに顔を覗き込まれていた。
「と、とりあえず、あのパーティーの影の中に入るか」
「「レオン……」」
「ん?」
「「ご飯っ、ご飯っ!」」
「うっ……」
二人とも俺を見上げて涙目で抗議してきた。困ったな。
今から飯を食いに行けば、あの【天使の翼】パーティーをみすみす逃してしまうことになるし、だからといって精霊王のエリスとティータを怒らせるわけにもいかないし――
「――あの、レオンさま、よかったらこれを召し上がってください……」
「ソフィアさん……?」
「わぁー、おいしそー!」
「美味しそうね」
ソフィアが俺たちの落ち着かない様子を察知したのか、お弁当を三つも持ってきてくれた。
「私の手作りなので、美味しいかどうかはわからないですけど……」
さすが、彼女は俺の専属受付嬢、さらには楽の精霊なだけあって気が利くなあ。
「いやいや、ソフィアさんが作ったものだし、旨いに決まってますよ。熾天使に感謝します!」
「ソフィア、どうもありがとうなのー!」
「ありがとうだわ、ソフィア」
「ふふっ、どういたしまして……」
そういうわけで、俺たちはソフィアの手作りお弁当を持って、【天使の翼】の影の中へ潜り込むことにした。そういや、ふと気が付いたが天使繋がりなんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます