74.精霊術師、髑髏と化す


「――と、こういうわけなのです……」


「「「ええぇっ……!?」」」


 あれから数日後のこと、俺たちは久々に訪れた冒険者ギルドで驚きの声を上げていた。


 専属受付嬢のソフィアから、最近起こっているというについての情報を聞かされたからだ。


 都から1キロほど離れた近隣にゼカストの森という低級狩場があるんだが、そこで次々とパーティーが何者かに襲われて壊滅し、命からがら逃げ帰ってきた者も稀にいたものの、事件についてはのだという。


 事態を重く見たギルドはこの事件についての解決を促すことになり、冒険者なら誰でも受けられる特別措置依頼として、多額の報酬を出すことになったそうだ。


 そういうわけで中級、上級パーティーも挙って事件の解決に乗り出したものの、相手が下級パーティーだけ狙っているのか襲われることがなく、今のところ誰も解決できていないとのこと。


 これが狂気の化身による仕業なのかは不明だが、ソフィアが以前に話していたことと条件が合致するし、瀕死状態で帰還した者が誰も事件について覚えていないということから、その可能性は高そうだ。実際、俺もリヴァンと戦ったときに精神状態が少しおかしくなったからな。


「レオン様方、どうなされますか? もしこれから現地へ赴かれるとしても、狂気は相手の強さがわかるみたいですし、出てこないでしょうね……」


「ソフィアさん、それならまったく心配ないですよ。こっちには影追いのスカーフがありますから」


「影追いのスカーフ、ですか……?」


「激レア装備なんで、聞き慣れないと思いますが、これを身に着けると人の影の中に入れるんですよ」


「す、凄い効果なんですね……」


「はい。これで弱いパーティーに潜伏して、狂気が発現したら戦えばいいんです」


「なるほどですっ――」


「――ソフィア、見て見てー」


「こっち見て、ソフィア」


「わっ……!?」


「おいおい、ダメだって……」


 下を見たソフィアが驚いているのを見ればわかるように、既にエリスとティータがソフィアの影に入り込んでしまっていた。無の鎖によって、パーティーメンバー全員に効果が適用されるんだ。


 正直言うと俺も試してみたいところだが、ソフィアの影に忍び込むのは勇気がいるな。下着が丸見えだろうし……っと、話が大分ずれたな。


 ソフィアには心配をかけたくないのでああ言ったものの、俺自身これで全てが上手くいくとは思っていない。ここまで深刻な事態になってる中で、果たして下級パーティーがこの依頼に挑戦してくれるかっていう問題があるからだ。


 そういうわけで、俺たちはしばらく例の依頼の張り紙の近くで、これを受けるパーティーがいるかどうか様子を見ることにした。




「「「――はあ……」」」


 あれからしばらく待ったものの、みんな依頼を目にしては逃げるようにその場を立ち去っていった。強いパーティーは避けられるということで、ちょくちょく周りからだなんて声も上がっているし、触らぬ神に祟りなしだと思うのも当然か。


 ん……? 今日はもう諦めて帰ろうなんて思っていた矢先だった。


 四人組のパーティーが張り紙の前にやってきたわけだが、まずその異様な風貌に驚かされた。全員、髑髏のお面を被っていたからだ。


「「「「ブツブツ……」」」」


 彼らはヒソヒソと何やらしばらく話し合ったあと、そのうちの一人が予備の張り紙を握り締めてカウンターの前へ歩いて行った。これはもう、間違いない。例の依頼を受けるつもりなんだ。


 誰でも依頼を受けられるとはいえ、これを受ける意味があると思えるのは下級パーティーのみなので、彼らがF~Eランク相当のパーティーであることも確かだ。


 俺たちが付近の物陰に瞬間移動して様子を窺うと、眼鏡をかけた受付嬢との会話から、髑髏のお面を被ったパーティーは【彷徨う骸たち】というF級のパーティーであることが判明した。髑髏のお面から察するに、怖いもの知らずの集まりなのかもしれない。今の時点で断定はできないが、それならこんな危険な依頼を受けるのも納得できる。


 その一人が手続きを済ませたあと、仲間と合流してギルドから立ち去っていく。よーし、早速影追いのスカーフを活用してやろう。


 俺たちは髑髏パーティーの一部と化すべく、彼らの合わさった影へ瞬間移動すると、素早くその中へ潜り込んでいった。

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