72.精霊術師、その元親友が豹変する


「な、なななっ? ちょっと待て、アリーナ。僕以外のパーティーメンバーはどこにいるのだ……?」


 冒険者ギルドにて、A級の依頼を受けたアリーナに声をかける白いローブの男。


「ん、ほかのパーティーメンバー? ドルファン、【月下武人】はソロパーティーだぜ。知らなかったのか?」


「な、な、なん、だと……?」


 ドルファンはアリーナから衝撃的な事実を告げられ、あんぐりと口を開ける。


「そんなに意外だったか?」


「そ、それはそうだろうっ! というかだな、一人でA級まで行くなんて、ありえないし、君が仲間を追放したか、あるいは抜けられたということかね……!?」


「んーや? 俺はずうーっとソロパーティーだったぜ。それでここまで来たんだ。へへっ、すげーだろ」


「す、凄い……い、いや、ちょっと待て、確かに凄いが、もっと上を目指したいなら仲間を募集したらどうなのかね!?」


「んー、嫌っていうほど募集したけどなあ、長続きしなかった。だから結局ソロパーティーのままってわけだ」


「ふ、ふむ……と、ということは、あれか、余程君の性格が悪いとかかね?」


「はあ? 俺に助けてもらっておいてよくそんなこと言えるな。まあついてくりゃわかるかもなあ」


「えっ……ちょ、ど、どこへ連れていくつもりだああぁっ!?」


 ドルファンの襟首を掴み、猛然と走り出す戦士アリーナ。その勢いは凄まじく、引っ張られた白魔術師はほどなくして意識を手放すことに。


「――ふうぅ……着いたぜ。おい、気を失ってねえでとっとと起きろよ、ドルファン!」


「……ぶへっ!? こ、ここは……?」


 アリーナに頬を打たれたドルファンが目を覚ますと、そこは鬱蒼とした樹々に囲まれた場所だった。


「聞いて驚け、ここはな、都からかなり離れた山の奥で、ダンジョンのモンスターも真っ青なやべー猛獣が数多く棲息してるところだ。ここでたっぷり死ぬほど鍛えてやんよ。俺の相方になりたいなら、命懸けでついてこい!」


「あ……あひいいいいいいいぃぃぃぃっ!」


 涙目になったドルファンの悲鳴が周囲にこだまするのであった。




「…………」


 アリーナの眠るテントに、忍び足で迫る人物がいた。その白いローブは原形をとどめないほどズタボロであり、顔には無数の傷跡が残っていた。


(ア、アリーナめえぇ、よくもやってくれあなあぁ……。こうなったら、で手懐けてやる。メスというものはどれだけ強がろうと、結局のところ発情したオスに負ける。そういう生き物なのだ……)


 顔を火照らせたドルファンが、月明かりとともにテントの中へ侵入する。


「ぐがー……」


 テント内でイビキをかきながら豪快に眠るアリーナを前にして、ドルファンが服を脱ぎながら呆れ顔で首を横に振る。


(まあいい。こんなどうしようもない阿婆擦れでもメスはメスだ。ククッ……これから、僕なしでは二度と生きていけない体にしてみせる……)


 ゾッとするような暗い笑みを浮かべてみせる白魔術師。まもなく、アリーナの体に覆い被さった。


(さて、産まれたままの姿になってもらうよ……。おぉうっ、素晴らしい躍動感のあるおっぱいのおでましだ。さて、肝心のアソコはどうかな……ん……こ、これは……ま、まさか……)


 信じられないといった顔を見せるドルファン。


(……ま、間違いない。ブ、ブツがあるだと? し、し、しかも、ちょ、超ビッグサイズ――)


「――おい」


「ぬぁっ……?」


「ドルファン、そんなに俺とスケベしたかったのか? なら言ってくれりゃいいのに。けどな、俺はどっちかっつったら男としてやりたいほうだから、女になってもらうぜ」


「しょっ、しょんなっ……」


「とっとと尻向けろオラアアアアアァァッ!」


「うっ……? うぎゃああああああぁぁっ!」


 本日二回目のドルファンの悲鳴が響き渡った。




(し、尻がいってえぇ……。こ、こんなはずじゃなかった。僕の人生はどうなってしまうというのだ……)


 月の光を浴びつつ涙目になるドルファン。襲った罰として、裸で大樹に括りつけられていた。


(……お、思えばあの頃はよかった。【天翔ける翼】パーティーこそ、僕の理想郷だった。戻りたいなあ――)


『――ねえねえ、そこの君、力が欲しい?』


(な、なんだ、この声は……?)


 若い男の声が聞こえたため、怪訝そうに周囲を見回すドルファンだったが、誰の姿も見当たらなかった。


『力が欲しいなら、僕が少し分けてあげよっか?』


(こ、これは、直接脳内に響いているというのか?)


『そうそう、そんな感じかな。それで、強い力が欲しい?』


(そ、それはもちろんだ。物凄く欲しいぞ!)


『人間性を捨ててでも?』


(もちろん欲しい! とっととやれっ!)


『あははっ……それじゃ、あげる』


「はっ……!?」


 ドルファンは白目を剥くと、自分を縛っていたロープを一気に引きちぎってみせた。


(な、なんなのだ、この異様なほどに湧いてくる力は……? だが、これならば天下を取れる。取れるぞおおおおぉっ! ん、待て……何か変わりそうだ……いや、。変わってしまうううううううううぅぅぅぅっ!)

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